2017年8月8日火曜日

柔軟性について科学が教えてくれること Vol.1
What Science Can Teach Us About Flexibility Vol.1

今回はストレッチについての最新の科学研究についてです。
ヨガといえば、というくらいヨガではストレッチをたくさん行いますが、そのとき体に何が起こっているのか、何に効くのか、改めて科学の立場から見るのも面白いですね。
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近年、何世紀にも渡るヨギの知識を生物医学研究が調査、評価を始めた:

ストレッチは私たちをしなやかに、若々しく、そして健康にする


もしヨガをもう始めているとしたら、ストレッチの効果を感じるのに科学者や生理学者は必要ないでしょう。その代わり、アサナを深められる柔軟性の研究があるなら教えて欲しいと思うでしょう。例えば、前屈をしていて脚の後ろが硬いと感じたとき、科学は何が起きているのか説明できるでしょうか?その知識はアサナを深めるのに役立つのでしょうか?

その答えはどちらも「イエス」です。生理学の知識により、体内の働きを視覚化しストレッチをしやすくする明確なメカニズムに焦点を当てることができます。脚の硬さが、骨格のせいかのか、結合組織が硬いせいなのか、怪我をしないように作られた神経反射のせいなのかを知っていると、最善の方法で行えるようになります。そしてもし不快な感覚が、怪我をしそうなのか、それとも単に新しい領域に入っていこうとしているだけなのかがわかれば、やり続けるべきかやめるべきかの賢明な選択を行えるようになり、怪我も防具ことができるのです。

さらに、新しい科学研究は、ヨガの叡智さえも広げる可能性を思っているかもしれません。もしヨガに関連する複雑な生理学によりはっきりと理解できるのなら、身体を開くテクニックを洗練させることができるかもしれません。

Credit: Yoga Journal

なぜストレッチするのか?


もちろん、ヨガは私たちを柔軟に保つだけではありません。身体と心の緊張を解き、もっと深い瞑想へと誘います。ヨガでは、「柔軟性」とは心と身体を投じて変化させる姿勢なのです。

しかし西洋では、生理学的な「柔軟性」というのは単に、筋肉や関節を限界まで曲げる能力のことを指します。生まれながらに持っていても、ほとんどの人が失くしてしまう能力です。ネブラスカ州リンカーンのカイロプラクター、トーマス・グリーン博士によれば「私たちの生活は限定されていて座りっぱなしだ。だから、体がなまって筋肉は萎縮し関節も制限された範囲だけ動くようになってしまっている」

私たちが狩猟採取生活をしていた頃は、身体を柔軟で健康的に保つためのエクササイズを毎日していたのです。しかし現代では、座ってばかりの生活だけが筋肉や関節を制限している犯人というわけではありません。どんなに活動的な人でも、年齢とともに身体は水分を失い固くなっていきます。成人に達するまでに、組織の約15%の水分を失い、柔軟性を失って怪我をしやすくなります。筋肉繊維はお互いに癒着し始め、平行な筋繊維が独立して動くのを妨げる細胞の架橋結合が起こります。ゆっくりと柔軟な繊維がコラーゲンの結合組織とくっつき合い、どんどん動かなくなっていきます。この組織の通常の老化は、悲しいかな動物の皮をなめすのと同じプロセスです。ストレッチをしなければ、乾ききってなめされてしまうのです!ストレッチは、組織の潤滑液の生成を刺激することで、この乾燥のプロセスを遅らせるのです。互いに絡まった細胞の架橋結合を解き、健康的で平行な細胞構造で筋肉が再生するのを助けるのです。

ラクエル・ウェルチと小さくなった潜水艦のクルーが注射されて血管の中に入っていった陳腐な70年代のSF映画を覚えていますか?西洋の生理学がいかにアサナの練習に役立つかを本当に理解するのなら、深く潜って体内の冒険をし筋肉がどのように働くのかを調査しなければなりません。

筋肉と内臓ーひとつの働きのため統合された様々な特別の組織からなる生物学的な単位です。(生理学者は筋肉を三つに分類しています。内臓の平滑筋、心臓の特別な心筋、そして骨格の横紋筋です。が、この記事では骨のてこを動かす滑車である骨格筋だけを見ていきます)

筋肉の特別な働きとは、もちろん、収縮と弛緩で形を変える細胞の塊である筋繊維が作る動きです。筋肉群は協力し合って動き、交互に収縮とストレッチを正確で調整された流れで身体が可能な広範囲の動きを作り出します。

骨格の運動において、筋肉を働かせること(骨を動かすために収縮させる)ことを「主動筋」と呼びます。その反対(動かすために弛緩させて伸ばす)の筋肉を「拮抗筋」と言います。ほとんどすべての骨格の動きが、主動筋群と拮抗筋群の調和された動きに関係しています。動作解剖学における陰と陽です。

しかし主動筋を伸ばすストレッチは骨格の動きの半分に過ぎないにも関わらず、エクササイズの生理学者らの多くは、健康的な筋繊維の弾性を高めるのは柔軟性を高めるための重要な要素ではないと考えています。Science of Flexibility (Human Kinetics, 1998)の著者であるマイケル・アルターはによれば、現在の研究では各筋繊維は切れてしまうまでその静止長の150%まで伸びるそうです。この伸展性が、最も難しいアサナなども含めほとんどのストレッチで効果的に大きな範囲の以後きを可能にするのです。

筋繊維がストレッチの能力を制限していないのなら、何がしているのでしょう?実際にまにが柔軟性を制限していて何をすればいいのかについては、二つの科学的学説があります。まず一つ目は、筋繊維そのものでなく筋繊維をつなげ、包み、そして他の臓器と結んでいる細胞である結合組織の弾性を高めることに焦点を当てています。二つ目は、「伸展反射」と自律神経の機能に専念しています。ヨガはどちらにも働きかけます。なので、柔軟性を高めるにはとても良い方法なのです。


内側にある網


結合組織とは、身体の構造をまとめるのに特化した様々な細胞群を含みます。身体の中で最も多い組織で、その複雑な網が身体のパーツを繋ぎ、骨や筋肉、臓器など個々の構造に区分します。ヨガのアサナのほとんどは、こうした多くの組織にある細胞の質を向上し、動作を伝達し、筋肉に潤滑液と治癒物質を与えます。しかし、柔軟性の研究においては、三つの結合組織にのみ焦点を当てましょう。靭帯、腱、そして筋膜です。それでは、それぞれをさっと見ていきましょう。

腱は、骨と筋肉を繋いで力を伝えます。比較的硬いものです。そうでなければ、ピアノを弾いたり目の手術をするなど細かい作業を行うことは不可能になります。腱は大変強い張力を持つ一方、ストレッチにはとても弱いのです。ストレッチが4%を越えると切れてしまうか元に戻らなくなり、筋骨の結合が緩くなってしまいます。

靭帯は腱よりは少し安全にストレッチが可能ですが、そう大きくはありません。靭帯は骨と骨を関節の内側で繋いでいます。柔軟性を制限するという役割を担っており、概して靭帯をストレッチするのは避けなければなりません。靭帯が伸びると関節が不安定になり、それを補うために怪我をする可能性が高まります。これが、パスチモッターナサナ(座位の前屈)で膝を伸ばし過ぎずやや曲げて行う理由です。膝後方の靭帯(また腰の靭帯も)の緊張を解くためです。

筋膜は柔軟性に関わる三つめの結合組織ですが、これが最も重要です。筋膜は、Science of Flexibility によれば筋肉全体の重量の3割にもなり、筋肉の動きに対する総耐久力の約41%にもなります。筋膜は、各筋繊維を分けて働きのグループにまとめ、構造を作り力を伝えます。

関節の潤滑、治癒の促進、血流の改善、動きの改善などストレッチから得られる効果の多くは、筋膜の健康的な刺激に関係しています。柔軟性を制限するすべての構造要素の中で、唯一、安全にストレッチすることができるものです。Anatomy of Hatha Yoga の著者である解剖学者のデビッド・クールターは、アサナの記述の中で「内側にある網(編み物)の注意深い手入れ」だと述べています。

さて、この生理学のレッスンを、基本的ですがとてもパワフルなポーズに取り入れていきましょう。パスチモッターナサナです。

このポーズの名前は、3つの言葉からなっています。サンスクリット語の「Paschima」は「西」、「uttana」は「強いストレッチ」、そして「asana」は「ポーズ」です。ヨガは伝統的に太陽のある東を向いて行われてきたので、「西」は身体の後ろ側を指します。

この座位の前屈は、アキレス腱から脚の後ろ、骨盤、そして脊柱に続いて頭の付け根までの一続きの筋肉を伸ばします。ヨガの伝承では、このアサナは脊柱を若返らせ、内臓を活性化し、心臓や腎臓、腹部をマッサージします。

ヨガクラスで仰向けに寝て、パスチモッターナサナに入るため起き上がる準備をしていると想像してみてください。腕は比較的リラックしており、手のひらは膝の上。頭は快適に床に置かれて、頚椎は柔らかいけれど意識している。インストラクターがゆっくり上体を起こし、尾骨から頭頂まで伸ばすように指示する。負担をかけないよう注意して腰を伸ばし過ぎずに起き上がる。見えない糸が胸にあってそれが外へ上へと持ち上げながら(アナハタチャクラを開く)座位になるまでゆっくり腰骨を回していく。

先生が使うイメージは詩的なだけではなく、解剖学的にも正しいのです。前屈で最初に働く筋肉は、胴体の前に走る腹直筋です。心臓の真下、肋骨から始まり恥骨に繋がっているこれらの筋肉は、文字通りハートチャクラから前に引っ張る解剖学的な糸なのです。

胴体を引くため使われる2番めの筋肉は、骨盤から脚の前に走る腸腰筋です。胴体と脚を繋ぎ、腿の前にある四頭筋、脛骨の横にある筋肉まで繋がります。

パスチモッターナサナでは、身体の前面、心臓からつま先の走る筋肉が主動筋となります。前に行くために収縮する筋肉です。胴体や脚の背面にある筋肉は、反対(あるいは補完的な)の働きをし、前に行く前に伸びて解放されなければなりません。

さあ、前にストレッチしてポーズに完全に収まりました。最大のストレッチから少し戻って深く安定した呼吸をします。心は、身体からの微細な(もしかすると微細ではないかも)メッセージに集中します。ハムストリングスの心地よいストレッチを感じます。骨盤は前傾し、脊柱は伸び、各椎骨の間の空間が優しく広がったのを感じます。

それ以上あなたを無理させないよう、そして自分のペースでポーズを深めていけるように、インストラクターは今は黙っています。だんだんポーズが馴染んできて快適になってきます。おそらく、数分間パスチモッターナサナを行ううちに永遠に穏やかな彫像のような気分になるかもしれません。

このような練習では、ポーズを長くとって結合組織の可塑性に働きかけます。こうした長いストレッチは、筋肉を包んでいる筋膜の質を健康的で安定したものへと変化させます。理学療法士でアイアンガーヨガのインストラクターであるジュリー・グドメスタッドは、オレゴン州ポートランドの彼女のクリニックでこうした長いアサナを患者に使います。「短い時間なら気持ちの良い開放感を感じるわ。でも必ずしも柔軟性を永久的に向上させる構造的な変化が得られるわけではないの」

グドメスタッドによれば、結合組織の「基質」を永久的に変化させるには、90〜120秒のストレッチが必要だと言います。基質とは、コラーゲンやエラスチンなどのある繊維質の結合組織がある非繊維質でジェルのような物質です。基質は、結合組織を安定させて潤滑させます。また、この物質の制限が、特に年齢を重ねると柔軟性を制限すると考えられています。

彼女は、正しいポーズのアライメントと補助具を使い、患者が長期間の変化が作れるような長いアサナをリラックスして行えるようにしています。「痛みがないようにしています。そうすれば呼吸ができて長くストレッチができるからです」

Credit: Yoga Journal



次回に続きます。

(出展)https://www.yogajournal.com/practice/what-science-can-teach-us-about-flexibility

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