脳スキャンの研究が、記憶、感情、思考に関する領域への伝統的な実践の効能を示唆
ヨガは、伝統的な東洋医学に深く関連しており、身体をエネルギー経路と結びつきのシステムだと捉えています。そしてそれは西洋医学とはなかなか一致するものではありません。しかし、今世紀の始めから、ヨガの科学研究が格段に増えました。近年の多くの研究が、ヨガを、腰痛や鬱、不安症や神経痛などの治療の「代替療法」として使われていることを評価してきています。しかしまだ、ヨガの研究の質は偏っており、多くは自身で報告する統計データに依存しています。そういったことから、より客観的な測定、脳スキャンに焦点をあてた2019年の論文に私は驚嘆しました。決定的ではないものの、その結果はヨガが脳の健康を向上させることを示唆しており、ヨガと科学がともに歩める道を表しています。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のスポーツ心理学研究所のディレクターであるナハ・ゴテが率いた論文では、ヨガの脳に与える影響を評価するためにあらゆるタイプの脳をスキャンした11の査読された論文を調査しました。ゴテと研究者たちは、ヨガに関して次の三つの要素を含んだ研究に限定しました。身体的なポーズ、呼吸法、そして瞑想とマインドフルネスです。おおむね年齢や健康状態、運動レベルなどが一致している被験者で、長期間の実践者とヨガ初心者の脳を比較していたのは6つの研究でした。5つの研究が、ランダムに特定期間のヨガの実践をさせ、その前後で被験者の脳をスキャンし、コントロール・グループと比較調査していました。
ゴテは、これはまだ「初期分野」であり、ほとんどの研究が小規模だと認めています。しかし、さまざまな母集団ではあるものの、3つのパターンが一致して浮かび上がっています。ヨガの実践は、記憶の鍵となる海馬の灰白質の体積増加、高次認知機能がある前頭葉の特定部分の体積増加、そして、デフォルト・モード・ネットワークの相互連結の拡大に関係している可能性があるのです。このネットワークは、記憶や感情を処理すること、そして「自己反映プロセスと呼ぶ、自分自身についての情報処理」を行っていると、ウェイン州立大学の認知神経学者であり共同執筆者であるジェシカ・デモワソーは説明しています。彼女によれば、これらの領域の灰白質が多いことの意味は完全に明らかではないけれど、「より高度な機能であることを示すかもしれないニューロン間の関係がより密接になっているのかもしれません」
デモワソーの研究は、脳内の加齢に関連する変化に焦点を置いており、加齢とともに、特に認知症の場合は収縮しがちである構造がヨガによって強化されているようだと言及しています。ヨガの結果増えた体積は、有酸素運動の研究で見られるものをよくにています。これはこんな問題を提起しています。これは本当に瞑想の要素をもつヨガに特別に見られるものなのか、あるいは他の脳を維持させる運動と同じなのでしょうか?
現時点で断言することは困難です。「ヨガの素晴らしいところは、自分にとって良いことさまざまなこと全てを組み合わせるということです」しかし「それは研究するにはやっかいなこと」と、国立衛生研究所の一部、国立補完統合衛生センターの上級研究者であるキャサリン・ブッシュネルは述べています。これまでの小規模の研究観察では、脳の構造や機能の変化とヨガの因果関係を立証するのは困難です。例えば、ブッシュネルの研究では、経験豊かなヨガ実践者はヨガをしない人と比べて痛みに対する耐性が大きく、その耐性は島皮質と呼ばれる領域の灰白質の増大に関係があります。しかし、ヨガがその直接の原因だとは言えません。「ヨガをしたいと思うのは人格が関連しているのかもしれませんし、その人格が灰白質の増大に関係しているのかもしれません」
小規模の実験を基礎としたより良い研究とともに、より明確な答えが出てくるでしょう。例えば、ゴテが最近政府の補助金受けた研究では、任意に選んだ168人の高齢者に6ヶ月間、ヨガ、エアロビ、ストレッチや筋トレを行わせる予定です。各活動が脳の構造と認知機能に与える影響の違いを比較することが目的です。ブッシュネルはこう言及しています。「まさに私たちが必要としているのはこうした試験です」