「体の声を聞きましょう」
なんらかのヨガを練習していたり、今日の健康ムーブメントに注目している人なら、きっとこんな言葉を聞いたことがあるでしょう。こう言って(大抵の)ヨガのインストラクターは、より「エンボディ(訳注:「体現する」「統合する」などの意味があります)」するように促します。「エンボディ」するヨガとは何なのでしょう?どんな感じがするのでしょう?そして、どんな体験なのでしょう?より満足感があって効果のあるヨガの練習のその先に、なぜ、マットの外での日常生活にまで視野を広げていく必要があるのでしょうか?
エンボディすること(エンボディメント)によって、心の状態や体に対するイメージが良くなる、消化力、睡眠の向上など、数えきれないほどの包括的な健康効果を得ることができます。研究が示しているのは、よりセルフケアへと促す効果があり、自己免疫や摂食障害などの困難な症状にも対処する手助けとなります。またエンボディすることで、自分自身とより深く繋がり、より心を健康にする満足感が得られる方法で自分の肌より外側の世界とも繋がることができるようになります。
「エンボディ」しない(切り離す)という危険
その一方で、エンボディしないことは、世の中の景気にとっては良い行動に繋がるかもしれません。けれど、調和の取れた人間として(体や心や魂)はあまり良くないと言えるでしょう。例えば、メディアやポップカルチャーの大騒ぎ、飽食、アルコールなどの濫用は、体に対する気づきが欠けることが元になっているかもしれません。
実際に、そういった商業指向の行動によって、 私たちは現代社会の影響力の狭間でどんどんエンボディメントから離れてしまっています。そういった点において、完璧主義や仕事主義、利己主義とよく合うのです。ですから、エンボディするというのは実は怖く感じるものです。トラウマを持っている場合は、エンボディしないことは、ひとつの生きる戦略ともなります。21世紀に生きる私たちにとって、必ずしも自然にできるというものではないのです。
エンボディするヨガ
あなたのヨガの先生は、おそらく最善の意図を持って「体の声を聞きましょう」と言っているはずです。けれど、時にそれは、真のエンボディメントへ入るには全く不適当である場合もあります。では、真に外側と繋がるために内側と繋がれるよう、より近くそしてより深く近づく方法をいくつか探っていきましょう。
1.呼吸を通したエンボディ・ヨガ:友達でレポーターで、そして先生
呼吸はいろんな役割をしてくれます。本当の友達だと私は考えています。深刻な呼吸疾患がない限り、呼吸はいつもずっと、私たちが忘れている時でさえ、そこにいてくれます。前に繋がった時からかなり時間が経っていても、その場所でまたすぐに繋がることができます。呼吸はレポーターで、呼吸が伝える情報をどう解釈するのかを知っていれば、私たちの心や体の中で何が起こっているのかを知ることができます。同様に、呼吸は先生です。今のコンディションや自分をケアするために何が必要かについてたくさんのことを教えてくれます。
流れるようにいろんなヨガのポーズをしたり、ひとつのポーズに止まってそこに何があるのかを見る時、呼吸はこうしたこと以上の働きをします。例えば、呼吸が短く不安定に、浅くなったりし始めていませんか?それは、体の能力以上の練習をしているせいかもしれません。体と心は密接につながっています。短く不安定で浅い呼吸は、自律神経の闘争逃走反応のサインです。体と心が脅威を感じ取って、安全でいられるように反応しているのです。
その反対に、ヨガクラスで、呼吸が深く、スムーズで律動的だと感じたことはありますか?そのポーズや動きはおそらくあなたの体がまさに必要としているものでしょう。その練習は、真剣に取り組み続けるための十分なやりがいがあるとともに、ストレス反応を刺激するほどは強くはないということです。
呼吸のメッセージに応える
呼吸からこうしたサインを受け取り、適切に反応できている時、それがエンボディしているということです。それはどう見えるのでしょうか。こうしたサインにエンボディして反応するとはどういうことでしょうか?呼吸が短く不安定で浅い時は、基本的に体はポーズを変えてほしいと伝えています。あるいは、子供のポーズ(バラサナ)や他の休息のポーズで休んだ方がいいのかもしれません。
呼吸が深くスムーズで律動的な時は、そう、おそらく練習や体について何かを学べたはずです。本当にあなたの役に立つのが何かを、より理解したでしょう。それらは時によって変化することもあります。練習や体は流動的で、進化していくものです。例えば、あるシーケンスの練習をしていて呼吸が短く不規則になったからと言って、明日、あるいは来週、来年もそうだとは限りません。その逆もあります。エンボディしたヨガを練習するには、そうした変化とともに流動的に調和し気づくことが必要でもあるのです。
2.脳よ、黙って!:別の形の知性へと目盛りを上げていく
さて、ダンスは芸術的でありながら教育的でもあると私は考えています。人生の3分の2をダンサーとして過ごしてきた私は、ヨガの練習との関係性に興味を持ち続けています。「考えすぎないで」「色々考えるのをやめて」と、先生や振付師から数えきれないほど言われてきました。現在は指導者として、難しい振付や技術を教えるときに、「とにかくやるだけで考えないで。でないと、できないわよ」というようなことをよく言います。
私の先生が目指したもの、そして今私が生徒に対して目指すところは、異なる種類の知性、つまり体の知性を感じ取るよう促すことです。私たちの脳には、時折後ろに下がって、体が一番理解していることを体にさせる必要があります。「ニューエイジ」的な話ではありません。私たちの心臓周り(「心を聞く」)、そして消化管(「直感(心肝)に従う」)には高レベルの神経組織があることが、生体医化学によって裏づけられ始めています。
裏づけの薄いレベルになりますが、体と密に接している人には「筋肉の記憶」があります。時間をかければ、考えないで動けるように筋肉や筋膜を訓練することができるのです。エンボディするヨガの練習で、この体のユニークな知恵である「内受容感覚」を見出すことができます。そして、外の世界とつながって、より体の感覚や空間的な体験「固有受容感覚」が得られるのです。
マインドフルネスで心のお喋りをゆっくりに
明らかに、生活の中では考えること論理的であることが必要がありますが、体や心、精神にとっては多くの雑音を生むことにもなります。その雑音が静まったとき、聞いて求められる値、価値のある多くの知恵がそこにあります。どうすれば、脳を黙らせて他の知性の声を聞くことができるのでしょう?ポーズそのものよりもずっと古代のヨガに答えがあるのは間違いありません。心のお喋りを流し去るための道具を与えてくれるのは、瞑想の実践です。
マインドフルネスでは、今体験していることへのひとつ以上の局面に意識を向けることが、心のおしゃべりを消すために役立ちます。例えば、実践中に買い出しのリストについてあれこれ考えていたり、気恥ずかしかったやりとりを何度も思い返したりすることがあるでしょう。これは全くよくあることで、自分を戒める必要はありません。ただそこにいて、そうする、ですよね?
それでは、ローランジ(アンジャネアサナ)でストレッチの感覚に注意を向けることはできますか?胸を骨盤の方へやわらげて、顎を髪の毛一本分だけ上げるとか、徐々に自分のポーズを洗練させると、どんな感じがするでしょう?息を吸い込むときにほんのちょっとだけ背筋を伸ばせますか?そして、息を吐くときにもうちょっとだけ安定感を感じられるでしょうか
?まだ買い出しのことを考えているでしょうか?私たちの体は、ちょっと意識を向けて声を聞くだけで、とても多くの奇跡を与えてくれます。
3. エンボディするヨガ:スピードを落として休む
最近の「Yogaland」ポッドキャストのエピソードで、アンドレア・フェレッティとジェイソン・クランデルが、スピードを落とすことのメリットについて議論していました。体の知性に意識を向けるのと同様、それは、雑音の中を通り抜けそれまで聞こえなかったものを受け取るのに役立ちます。具体的にクランデルが語ったのは、心を静かにするようにと言われるリラクゼーションのポーズ、シャヴァサナの間に、精神が明晰になったり問題の解決法が見つかったりする現象でした。
けれど、それを批判はしませんでした。むしろ、スピードを落とすことのメリットだと関連づけていました。私は、その例は体の知性をより表すものだと思います。エンボディして練習して休息を得ると、高度な知恵や創造性、真実の間に立ちはだかるものへと、心がダイアルを下げるのに役立つのです。
けれど、そういったものと繋がるのにシャヴァサナを待つ必要はありません。練習のどんな時でも、もっとゆっくり動いて安定感をも得ることが可能です。刺激や困難は減り、片足のバランスポーズやプレッツェルのように手足を組むポーズに挑戦しているときには気づけなかった運動感覚の情報を認識することができるでしょう。エンボディするヨガとは、「体の声を聞く」という言葉が表現できる以上に、より深く体の声を聞くということなのです。
エンボディするヨガ:スピードを落とし、一旦停止し、見るプロセス
本当に見るには、スピードを落とし、一旦停止し、聞こうとしているものにしっかり向きあう必要があります。私たちが聞くもの、学ぶものは、本当に育み成長を助けるような練習へと導いてくれます。見た目のいいポーズが目的ではありません、と先生が言うのを聞いたことがあるかもしれません。それで何を学ぶかが重要なのです。私たちが生徒として本当に準備できた時、体は教えてくれるのです。それがエンボディするヨガなのです。