2022年10月13日木曜日

安定性を得るために 
The Science of Stability


木のポーズでぐらぐらしたり、不安定な戦士のポーズIIIでよろけたりしたことは誰にでもあることでしょう。それでも、私たちはバランスを保っています。良いバランスは、食料品の買い物袋を持ったり、背の高い棚の上の物を取ったりといった日常の作業や、ダンスやウェイトを持ち上げるなどもっと複雑な動きをするのに役立ちます。ヨガポーズで体を安定させるのに苦労している時は、実は、まっすぐ立ったり必要な姿勢で安定し続けるための体の部位を訓練しているのです。ここでは、体のバランスに関係のある3つを見ていきましょう。視覚、内耳、そして体性感覚です。



・視覚:目で見る感覚によって、体がどこにあるのかを知ることができます。

・内耳(前庭):内耳の神経が頭の位置を脳に伝えることで、体を調整し安定させることができます。

・体性感覚:体の感覚が体の位置認識を刺激し、必要な時に体を再度調整することができます。






より良いバランスのために見て感じる


神経組織は、視覚や内耳、体性感覚それぞれから送られてきた情報を統合し、形や動きを通して脳が理解するよう、そのデータを送ります。


・見る:視覚は、脳が空間内の体の位置を知るのに役立ちます。目の前にある一点を見つめる(ドリシティ)ことで、戦士のポーズIIIなどの力強いポーズを続けやすくなります。なぜなら、視点が定まっていると、必要な調整をするために脳にとっての安定した参照点になるからです。


・バランス感覚を試すには、目を閉じます。視覚のインプットが失くなると安定感が減り、それを補おうと内耳や体性感覚が急発動します。



・聞く:内耳にある前庭は動きに敏感なセンサーで、空間にある体の位置に従って均衡を保つのに役立ちます。木のポーズで垂直になっている頭を、戦士のポーズIIIで水平に移動すると、内耳の骨の迷路内の液体が、前庭神経上皮、あるいは中枢神経の幹細胞を作っている有毛細胞(繊毛)を混乱させます。これらの有毛細胞が曲がると、電気信号が脳内の内耳神経に送られて、頭が重力に対してどの向きにあるのか(垂直、横向き、逆さま、あるいはその間)を特定します。


・山のポーズから戦士のポーズIIIに移行することで、内耳のインプットを探ることができます。ポーズしながらゆっくりと頭を縦横にふって、内耳組織を刺激してみましょう。このように頭の向きが動的に変化すると不安感が増すかもしれませんが、これは結果的に良いことです。疲れるまで筋肉を使うと強化されるように、不安定になるまでバランスを試すと、そのうちに、容易に体をまっすぐ保てるようになります。


・感じる:体感神経は頭頂葉に存在し、触覚や圧迫、温度、動き、痛みなどを作る体の感覚を処理します。


・このネットワークを変化させるには、折りたたんだブランケットなど柔らかいものの上でポーズを練習してみましょう。ぐらぐらすることは良いことです。神経筋がバランスの崩れに反応して安定性を取り戻す訓練となります。





活動する:復元力を作るための変化を起こす


木のポーズなど、良い姿勢でまっすぐ立ち続ける能力は、静止バランスと呼ばれます。固有受容感覚、つまり3次元の空間で体の部位がどこにあるのかを知る能力は、垂直に安定して立ち続けるのに大きな役割を持ちます。特に筋肉内や関節の周りなど体中にある小さなセンサーは、常に脳に体の位置のメッセージを送り続けています。マインドフルな動きや難しいバランスポーズの練習を通して、こうしたセンサーはより鋭敏で敏感になっていきます。


動的バランス、つまり歩く、自転車に乗る、地下鉄から降りるなど動きながら平衡を保つことは、太陽礼拝の流れや山のポーズから戦士のポーズIIIなど難しいポーズへ移行する時に大切です。片足のバランスポーズでは触れる部分が少なくなるので(体のインプットが減る)、視覚や内耳によって安定を得ることになります。このバランスが移動する形が重要なのは、ほとんどの転倒が姿勢の移動や速い動き、方向転換の時に起こるからです。日々の生活は常に動くものですから、ヨガは変化に対応し復元力を作り上げるのに良い練習の機会となるのです。


バランス運動は、脳の平衡感覚や認知機能に深く関係する部分における新しい神経結合を作るのに役立つと研究によって示されています。これは、年齢を重ねるにつれて役に立ちます。(米国CDCによれば、高齢者4人のうち1人が少なくとも一年に一回は転倒しています。そして多くの場合、重傷あるいは死亡の原因となります)ヨガを通して安定性を強化すること、そしてマインドフルネスや体への気づき、自己受容、精神力などを組み合わせることが事故防止への鍵となるのです。


今度、戦士のポーズIIIでぐらぐらしている自分に気づいた時は、現在と将来の自分自身をケアしているのだと思い出してみましょう。






(出典)https://www.yogajournal.com/teach/anatomy-yoga-practice/the-science-of-stability/