2023年1月31日火曜日

ヨガで耳にする10の解剖学用語を理解する 
Demystifying 10 Anatomical Terms You've Probably Heard in Yoga


国際的に指導しているヨガティーチャーの記事です。

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ヨガを教え始めたころ、人体の解剖学や生物力学については実際には理解していませんでした。指導するのに多くの言葉を使いましたが、それは私の先生が使っていたからであって、伝言ゲームのようなものでした。何年か経って解剖学やそれに関する科学への探究が深まってくると、今まで聞いたから使ってきた言葉を深く調べ、そして古くから存在する体に関する専門用語と比較する必要が出てきたのです。


ヨガ指導者のトレーナーとして、今、私は解剖学と運動力学を教えています。生徒たちは度々、それまでの知識と新しい情報を比較するうえで混乱します。クラスの中で解剖学の言葉を使うことが必要ともいつでも役立つとも思ってはいませんが、使うのであれば、ヨガの指導者は正確性を持って使うことが重要だと信じています。
 

ヨガの生徒は、新しい動きのスキルを学ぶだけでなく、新しい言葉やポーズ名、サンスクリットの言い回し、そして解剖学や人体の動きについて学ぶ必要があります。
指導者であれ生徒であれ、おそらくヨガクラスで以下の言葉を聞いたり使ったりしたことがあるでしょう。そして明確に理解することがあなたのためになるのではないでしょうか。





1. 屈曲と伸展 (Flexion and Extension) 


筋肉を使ったり胴体を伸ばしたりするという意味において、「二頭筋(や他の筋肉群)を屈曲」とか「指先を通して伸展」という合図を受けたことがあるでしょう。筋肉を収縮させたり胴体に沿って伸ばすことが目的だとしたら、これは解剖学的に間違った用い方です。


屈曲や伸展は関節の位置を表します。両腕を頭上に伸展するという合図を聞いたことがあるかもしれませんが、それは解剖学における関節の動きを反映していません。腕を前にあるいは頭上に動かす時、肩関節(関節窩上腕関節)が屈曲します。肘を曲げる時、肘関節が屈曲します。同様に、腕を後ろに動かしたり肘を曲げるのは、どちらも伸展の形です。


正確にいえば、肘の屈曲には二頭筋の求心性収縮(短くなる)と三頭筋のが伸長性収縮(長くなる)必要となり、どちらの筋肉群にも関係することになります。反対に、肘を真っ直ぐにすると関節が伸展して筋肉の収縮に逆の影響を作り出します。屈曲と伸展は、脊椎や股関節、膝、手首、手指、足指でも起こります。



2. 座骨 (Sit bones)


この言葉は座骨結節を指しています。骨盤の底にある2つの骨突起で、様々な筋肉が付着する部位であり、座る際の支持基底面です。座位ポーズの主な基準点なので、「座骨を通して根付かせましょう」と指示されたこともあるでしょう。



3. 圧迫 (Compression)


圧迫とは、身体的な力が物や体の一部を押すときに起こる機械的な力のひとつです。この力は、関節の間で衝撃を和らげる(椎間板など)など多くの構造を持っている身体の中に分散されます。身体はまた、徐々に発達していくにつれ、より多くの力を受ける骨がより厚く密になるような適応力をも持っています。


例えば、発達の初期段階で仰向けから這い這いへ、座って、立ち上がるまで、脊椎は次第により圧迫力を受け、それによって腰椎の組織が、垂直になったときに少ない圧迫を受ける胸椎や頚椎と比べて著しく大きく密になります。


クラスでは、圧迫はダメージにつながるという意味で否定的に使われることがあります。例えば、ブリッジ・ポーズで、圧迫、あるいは仙骨のダメージを防ぐため、両足は平行に股関節はニュートラルに保つようよく言われました。


仙骨のように比較的厚い骨は高度の圧迫にも耐えられます。実際、これを読んでいる間も。仙骨はおそらく背骨に圧迫されていて、背骨は頭骨に圧迫されています。


例えば、背骨を上から吊るしたりぶら下げたり「圧力を下げる」ことは良いことかもしれませんが、耐えられないほどのレベルでない限りは圧迫を恐れることはありません。頭上に50kgの重りを乗せれば圧迫しすぎになるかもしれませんが、それくらいの圧迫を支持できるように鍛えているなら大丈夫でしょう。いつもと同じように、全く状況次第です。



 

4. 腰筋・股関節屈筋群 (Psoas, Hip Flexors)


この2つの言葉を同じ意味で使われるのをよく耳にします。それぞれを細かく見てみましょう。股関節屈筋群は股関節で短くなって屈曲を作り出す筋肉群です。腰筋は、股関節屈筋のひとつでしかありません。そのほかに、腸骨筋、大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜直筋があります。股関節を曲げる角度が異なれば異なる筋肉が使われます。


腰筋は、背骨の下方と大腿骨の内側の上部を繋いでいます。その主要な動きは股関節屈曲です。戦士のポーズI(前脚)、椅子のポーズ、船のポーズなどでは、腰筋は短くなります。脚が伸びているポーズ(三日月のランジの後脚、アップドッグ、上向の弓のポーズ)では、腰筋は長くなります。私たちは長時間座って過ごす傾向があるため、腰筋は短くなった位置で動かなくなって弱くなります。ですから、腰筋を強化し伸ばすことは、可動域を広げたり姿勢をよくするのに役立つのです。


 

5. 収縮 VS. 使う (Contraction, Engagement)


「四頭筋を収縮」とか「コアを使って」という指示を聞いたことがありますか?「収縮」や「使う」は、よく意味の区別なく使われる2つの異なる言葉ですが、実際に同じ意味です。厳密にいえば、筋肉の収縮は、筋肉繊維が長さを変えるときに起こります。筋肉繊維は短くなったり(求心性収縮)、長くなったり(伸張性収縮)、同じ長さに止まったり(等尺性収縮)します。しかし、これは筋肉の活性化とか動作のレベルを意味していません。
  

例えば、肘を曲げるとき、二頭筋が求心性収縮し、三頭筋が伸長性収縮します。腕のある位置とそこにある抵抗によって、その筋肉がより受動的になるのかより能動的になるのか(使われる)が変わります。


 

6. 肩甲骨の内転と外転 (Protraction, Retraction)


内転と外転は、肩甲骨が可能な6つの動きのうちの2つを指しています。肩甲骨が背骨の方へ動くのを内転、背骨から離れる動きを外転と言います。「肩を後ろに動かして」とか「腕の骨をソケットに差して」という合図は、大抵の場合は内転です。四つ這いのポーズやアームバランスで「床を遠くへ押して」と言われるとき、これは肩甲骨の外転です。内転と外転はどちらも、強化し動きを与えるのに役立つ動きです。体の他の部位においては、内転と外転は、背骨の一番上にある頭骨の位置との関係性です。


 

7. 上前腸骨棘 (ASIS: Anterior Superior Iliac Spine)


骨盤の前を触ると股関節の上、ウェストのすぐ下の両サイドに2つの骨の突起が感じられます。英語では「前腰骨」や「腰突起」と呼ばれることもありますが、これらの骨は股関節ではなく骨盤の一部なので、少し紛らわしいと思います。解剖学的には「上前腸骨棘(ASIS)」と呼ばれ、腸骨の突起の上前部です。


縫工筋の付着部で、ヨガクラスでは、骨盤の位置を見極める基準点に使われることが多いです(例えば「上前腸骨棘が正面に向くよう骨盤を回して」「前腰骨を肋骨の下に引き上げて」)。



8. 骨盤 VS. 股関節 (Pelvis, Hip Joint)


これらの言葉もまた、もっともな理由によりしばしば同じ意味で使われます。骨盤とは、胴体の土台にある大きな骨の組織です。水盤に例えられることもあり、ボウルのさまざまな方向へ傾く動きに似ています。背骨は仙骨で骨盤と繋がっており、両脚は骨盤の両サイドにある寛骨臼と呼ばれる二つの窪みに着いています。


股関節とは、大腿骨と骨盤をつなぐこの球関節のことを指します。骨盤の動きのほとんどが股関節の動きを伴う一方で、骨盤の位置を変えることなく股関節を動かすことが可能です。運動能力を深めることにより興味を感じるようになれば、股関節の動きと骨盤の動きを区別することが役に立つでしょう。



9. 前、後(Anterior, Posterior)


これらは、体の各部分間の位置関係を表す言葉です。前方とは、体の前の方向という意味で、後方とは体の後ろの方向を指します。例えば、肩甲骨は胸骨の後方にあり、恥骨は仙骨の前方にあります。


特によく使われる「前、後」は、骨盤の動きでしょう。骨盤を水盤と想像すると、前傾すると水は前にこぼれ、後傾すると後ろにこぼれます。骨盤の前傾は多くの場合股関節の屈曲となり、後傾は股関節の伸展となります。骨盤を本来の位置に戻すには骨盤の前傾や後傾が必要となりますが、解剖学的な中立の位置とは、この想像上の水がどちらの方向にもこぼれることなく支持されている状態を言います。


 

10. 前弯、後弯 (Lordotic, Kyphotic)


これらの言葉は、背骨の自然な曲線を指します。私たちの背骨には、さまざまな位置で個人個人で異なる湾曲がありますが、凹面(腰椎や頚椎)を前弯、凸面(胸椎)を後弯と言います。これらの湾曲の形は、胎児から幼児へと発達する間に形成され、最終的には私たちが2本の脚で直立するのを支えます。


背骨を屈曲させると、後弯が強くなり前弯が弱くなります。背骨を伸展するとその逆になります。この湾曲が強く出過ぎている「前弯症」「後弯症」という言葉を聞いたことがあるでしょう。この「症」という言葉は通常の範囲を超えてどちらかの方向に過度に湾曲しているということを指します。同様に「側弯症」は、背骨の横方向への過度の湾曲をいいます。



 


文脈と明確さ


もう一度注目すべきことは、ヨガや運動は、専門的な解剖学用語を使わなくても大変有意義に教わることも体験することもできるということです。正しく明確に説明して使わなければ、こうした用語を使ったインストラクションは多くの場合、明確というよりもより混乱を招くこともあり得ます。


この記事を通して、これらの言葉を間違って、あるいは一貫性なく使っていないか、または、あまり説明のないまま指導されていないか、言葉を理解しているのかを知ることができるほど明確にお伝えできていることを願います。またヨガは、その歴史や伝統がますます他の運動や知識とお互いに融合し続けており、ここでお伝えした用語がより広く多種の実践法とのコミュニケーションや繋がりの架け橋になるよう願っています。