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相互抑制
相互抑制を感じるためには、テーブルの前に座って、天板を優しく空手のチョップのように手の端で押してみましょう。上腕の後ろ側(三頭筋)を触ると固く力が入っているのを感じるでしょう。反対側の筋肉である二頭筋を触れば(上腕の前にある大きい筋肉)、弛緩しているのが感じられるはずです。
パスチモッターナサナでも同様のメカニズムが働きます。ハムストリングスが弛緩し、反対にある四頭筋が使われています。
テネシー州ナッシュビルの整形整体セラピストのデビッド・シアーは、患者の可動域の向上を安全に行うために相互抑制の理論を利用しています。ハムストリングスの柔軟性を上げるためにシアーの元を訪れるなら、彼は腿前面の四頭筋を鍛えハムストリングスの弛緩を促すでしょう。そして、ハムストリングスが最大に達すると、今度は荷重をかけてアイソメトリック、あるいはアイソトニックのエクササイズで強化するでしょう。
ナッシュビルにある「ヨガルーム」の、アイアンガーヨガのインストラクターであるベティ・ラーソンも、パスチモッターナサナで生徒らのハムストリングスをリリースさせるために相互抑制を理論を利用しています。
「生徒たちに四頭筋を収縮するように促すんです」と、ラーソンは言います。「脚の前面全体を持ち上げると、脚の背面は緩みます」ハムストリングスと背中を鍛えるために、彼女のクラスでは後屈も取り入れています。ストレッチする筋肉を鍛えることは、大変重要なことだと彼女は感じています。多くのティーチャーたちのように、最近やっと近代化学で理解されるようになった生理学的原理を適用する古いヨガの技術を利用しているのです。
シーアによれば、彼女は正しいと言います。最善の柔軟性というのは、可動域と強さの向上の両方が必要だと彼は主張します。「役に立つ柔軟性なのです。受動的な柔軟性だけを向上させてもそれをコントロールする強さがなければ、関節の深刻な怪我をしやすくなってしまうのです」
パスチモッターナサナに戻りましょう。今度は、骨盤を軸にして上体を前に伸ばしたところを想像しましょう。ハムストリングスは大抵は固いことでしょう。もっと曲げたいのに深く曲げられず、頑張れば頑張るほどハムストリングスは固くなってきます。インストラクターが、呼吸を続けて、ポーズを続けるために能動的に使われていない全ての筋肉をリラックスさせるよう促します。
自分の最善を尽くすのを諦めます。ポーズをとりながら判断をせずリラックスすると、ゆっくりとハムストリングスが弛緩し始めます。
無理に曲げようとしなくなった途端に、頭がゆっくりと脛に近づいていくのはなぜでしょう?科学(そして古代のヨギたち)によれば、柔軟性を制限しているのは身体ではないのです。それは心であり、少なくとも神経システムなのです。
伸展反射
伸展反射を理解するには、冬の散歩をイメージすると良いでしょう。突然、氷の上に乗ってしまい滑って足が離れて行ってしまうと想像しましょう。すぐに筋肉が目を覚まし、両脚をそろえてコントロールを取り戻そうとします。神経と筋肉に何が起こったのでしょうか?
各筋繊維には筋紡錘と呼ばれるセンサーのネットワークがあります。それらは筋繊維に垂直に走っており、繊維の伸びる長さや速さを感じます。筋繊維が伸びると、これらの筋紡錘へのストレスが増加するのです。
このストレスが速すぎたり長すぎたりすると、筋紡錘は神経的緊急「SOS」を発して、反射ループを活性化させて即座の防御的収縮を引き起こします。
これは、膝のすぐ下の靭帯を医者にゴムのハンマーで叩いた時、急に四頭筋が伸展するのと同じことが起こっているのです。この急な伸展が四頭筋の筋紡錘を刺激し、脊椎に信号を送ります。その後すぐ、神経ループが四頭筋の収縮で終わり、よく知られている「室外反射」を作り出すのです。
このように伸展反射は筋肉を守ります。そのため、専門家はストレッチの際に弾みをつけないように注意を喚起しているのです。ストレッチに弾みをつけると、筋紡錘が刺激されて反射的緊張を起こすため、怪我の確率が高まってしまうのです。
ゆっくりと安定したストレッチも伸展反射を引き起こすのですが、それは急なものではありません。パスチモッターナサナで前屈すると、ハムストリングスの筋紡錘が抵抗を生み、進展させようとしているまさにその筋肉の緊張を作り出してしまうのです。そのため安定したストレッチで柔軟性を高めるためには時間がかかるのです。筋紡錘のゆっくりとした調整を通して、神経ブレーキがかかる前により強い緊張に耐えれられるよう訓練することで、柔軟性が高められるのです。
(またまた次回に続きます)
(出展)https://www.yogajournal.com/practice/what-science-can-teach-us-about-flexibility