少し専門的(解剖学的)ですので、興味があれば目を通してみてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
編集注:この記事はヨガの実践者や指導者への一般的情報を提供しようとするものです。医療従事者による個人的アドバイスの代替とはなりません。
ダウンドッグ(下向きの犬のポーズ)の肩のアライメントを考える時、最初に頭に浮かぶのは何でしょう?ヨギの多くにとっては「外旋」かもしれません。例外もありますが、ダウンドッグで上腕を肩関節(肩甲関節窩)で外旋させるのは多くのヨガのティーチャー・トレーニングで教えられている基本的なアライメントです。
外旋の解剖学的動きは実際には特定の言葉を使ってきっかけを起こすことができるので、気づくことなく肩を外旋するように言われていることもあるでしょう。例えば「三頭筋を後ろに巻いて」とか「脇の下を向かい合わせにして」とか「肘の内側を前方に回して」など聞いたことがあるかもしれません。これらは全て肩関節の外旋を促しています。そしてこうしたものはもっとたくさんあるのです!
なぜ外旋?
ダウンドッグでの外旋がなぜそんなに基本的なアライメントなのでしょう?主な理由は肩の安全性にあります。頭上に腕をあげる際(肩の屈曲と呼ばれます)に上腕を外旋すると
肩関節の柔組織と肩峰突起と呼ばれる肩甲骨の「屋根状」の骨構造の間が広がります。
この肩関節内が広がることで、腕を頭上にあげた時に特定の柔組織(例えば肩回旋筋腱板腱や肩峰下包)の上腕骨頭と肩峰突起の間での圧迫が少なくなるのです。
腕の屈曲における肩関節の柔組織の圧迫は「肩関節インピンジメント」と言われます。屈曲の際に肩に痛みがあるときは、医師から「肩関節インピンジメント症候群(SIS)」だと診断されることがよくあります。
理論的には、肩関節の広がりが大きければ大きいほど、腕を上げた時に組織の衝突が少なくなります。よって、肩の痛みを和らげたり防止するために、ヨガ界ではダウンドッグだけでなく、例えばウルドヴァ・ハスタサナ(両腕が頭上)、ヴィラヴァドラサナI(戦士のポーズ1)、アド・ムカ・ヴルクシャサナ(ハンドスタンド、倒立)など肩を屈曲する他のアサナでも肩の外旋という解剖学的動きを強調するのです。
肩関節インピンジメントの研究からの新たな理解
肩関節インピンジメントのモデルは、医学や健康業界で何十年も使われて来ており、ヨガや他の運動の世界でも明らかに影響を受けてきています。しかし、近年のより新しい研究が肩関節インピンジメント症候群(SIS)のモデルに問題を提起しており、多くの臨床医の肩痛の見解が変わって来ています。
SISモデルに懐疑的になる理由を与える主な見解は、痛みと組織のダメージが常に1対1の関係にないことです。この研究は実は新しいものではないのですが、近年になって健康業界でより広く受け入れられ始めていることです。MRIなどのイメージング技術を使った数えきれない研究が、肩回旋腱板の裂傷、膝の半月板裂傷、脊椎の椎間板ヘルニアなど体の組織にダメージを持っていても痛みのない人が大勢いることを明らかにしています。そして、反対に、痛みを経験していても組織にダメージが全くないという人も多くいるのです。
これは、 私たちが伝統的に理解してきたよりも、痛みというのはより複雑なことがらなのだと示しています。体には、組織のダメージ以外に痛みの認識に関わる他の要素が数えきれないほど存在しています。というのも、痛みは非常に主観的なもので感じる人によって異なるため、ヨガの生徒の肩痛が実際に「肩関節インピンジメント」のせいだと特定する方法はないのです。(ヨガの指導者としては、痛みを診断する資格などそもそもありません)
肩関節インピンジメントのモデルに疑問を持つ第二の理由は、肩の組織と肩峰突起の衝突が組織のダメージを引き起こすかどうかはそもそも確認されていない仮説にすぎないからです。肩の組織は実際は、頭上に腕をあげる際には常に衝突しています。それは普通であって、腕を外旋しようがしまいが、腕を上げれば自然に起こる避けようのない事象なのです。事実、私たちが動く時には、全身で軟組織は骨と衝突しています。ですから、なぜヨガ界でこの特別な箇所にだけ特別の配慮や注意が向けられるのでしょうか?
また、肩峰突起の形状を変えて肩関節の空間を広げ肩関節インピンジメント症候群を「治す」ための手術は、大抵の場合、肩を強化し可動域を増やすよう設計された簡単なエクササイズ治療と症状を和らげる効果がほぼ同等であるという質の高い研究が多くあります。もしSISが、肩峰突起の変更で空間を広げる外科手術をしないで治療できるのなら、その痛みの原因はこれらの構造における組織の衝突以外にあるに違いありません。
もうひとつ考慮に入れなければならないのは、腱というのはとても強く、弾力性のある組織だということです。腱はコラーゲン繊維で作られていて、コラーゲンには鉄の強さがあります。コラーゲンは通常、強い力のかかった事故や医療手術などの状況においてのみ、断裂したり傷ついたりするものです。反対に、ヨガで行う肩の屈曲にかかる力というのはとても小さく、本質的に肩回旋筋腱板を傷つけることは少ないでしょう。
これらは全て、肩インピンジメントが組織ダメージが原因だというよく知られているモデルが間違いだと暗示する強固な証拠なのです。(はっきりするために言えば、腕を上げた時に肩に痛みを感じることはないと言いたいのではなく、単に痛みが軟組織のインピンジメントだけに原因があるわけではないと言いたいのです)
(出典)https://yogainternational.com/article/view/shoulder-alignment-in-downward-dog-is-external-rotation-the-best-cue
0 件のコメント:
コメントを投稿