今回は、Harvard 大学のサイトの記事(2014年9月)からです。
特にこんな時ですので免疫がどうのという表示はあちこちでみられますが、この記事によれば、実際のところその仕組みがあまりわかっていないようです。5年以上経っているので、もっと進歩しているのかもしれませんが。。
いろんな商品の宣伝文句に惑わされず冷静に判断したいものです。
ちなみに今回のCOVID-19の症状として「免疫の暴走」というのもあり、自分で健康な組織を壊してしまうそうです。
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免疫を高め病気と闘う効果的な方法
どうすれば免疫を高められるのでしょう?全体として、免疫システムは病気の原因となる微生物からあなたを守る驚くべき仕事をしています。もし免疫がうまく働かなくなれば、細菌が体に入り込んで病気になってしまいます。それを防いで免疫を高めることは可能なのでしょうか?食事を改善すればどうでしょう?ビタミンや薬草を摂るというのは?完璧に近い免疫反応を得るためには、ライフスタイルを変えるといいのでしょうか?
免疫を高めるためにできること
免疫を高めるという考えは魅力的ですが、その能力というのはいくつかの理由によりなかなか困難だとわかっています。免疫システムというのは、システムであってたったひとつで成り立つわけではありません。免疫がうまく働くためには、バランスと調和が必要です。研究者でさえも、免疫反応の複雑な相関性についてはわからないことがまだ多いのです。現在のところ、ライフスタイルと免疫機能の強さの直接的な関係性は科学的には証明されていません。
しかし、ライフスタイルの免疫システムに対する影響が興味深くなく研究するに値しない、というわけではありません。食事や運動、年齢、心理ストレスなどの免疫反応に対する影響は、人と動物の両方で研究者らによって調査されているところです。その間は、一般的な健康的な暮らし方というのが、免疫システムの働きをよくするのに良い方法ではないでしょうか。
免疫システムを強化する健康的な方法
防衛の最前線は、まずは健康的なライフスタイルを選択することです。一般的は健康へのガイドラインが、免疫システムを強く健康であるよう自然に保つため行えるたったひとつのベストの方法です。免疫システムを含む体の全ての部分が良く働くには、環境の攻撃から守られ、下記のような健康的な暮らしをしなければなりません。
- 喫煙しない
- 果物や野菜の多い食事をする
- 定期的に運動する
- 健康的な体重を維持する
- アルコールはほどほどに飲む
- 充分な睡眠を取る
- 頻繁に手洗いをする、肉は完全に火を通すなど、感染症を防ぐ対策をする
- ストレスを最小限にする
健康的な方法で抵抗力を高める
免疫を増やしサポートすると謳う商品がたくさん売られています。しかし、免疫を増大するというのは科学的にはあまり意味をなしません。実際、免疫細胞であれ何であれ、体の細胞の数を増やすというのは必ずしも良いことではありません。たとえば、「血液ドーピング(血液細胞の数を増やしパフォーマンスを高めるため血液を注入)」をするアスリートには、脳卒中の危険が伴います。
免疫システムの細胞を増やそうとすることが特に複雑な理由は、免疫システムにはとても多くの異なる微生物にとても多くの方法で反応するとても多くの異なる細胞があるからです。どの細胞をどれくらい増やすというのでしょう?今の段階で、科学者はその答えを知りません。わかっているのは、体が免疫細胞を作り続けているということだけです。体が使うであろう数よりずっと多くのリンパ球を作ります。余分な細胞は、アポトーシスと呼ばれる自然の方法で自らを殺します。活動する前のものもあれば、闘いに勝利した後のものもあります。免疫システムが最高レベルで機能するための細胞の数と各細胞の比率は誰にもわかりません。
免疫システムと年齢
年齢を重ねるにつれ免疫反応の能力は減少し、それにより感染しやすく癌になりやすくなります。先進国での寿命が伸びるにつれ、加齢性の病気になるケースも増えます。
健康的に歳をとる人もいますが、多くの研究の結論では、若年者に比べて高齢者はより感染症にかかりやすく、そしてより重要なのはそれによって死亡する可能性が高いということです。呼吸器感染、インフルエンザ、とくに肺炎は、65才以上の死亡原因が世界中で最多となっています。なぜそうなるのかは確認されていませんが、危険が高まるのはT細胞の減少に関係すると見る科学者がいます。加齢に伴う胸腺萎縮で感染と闘うT細胞の生産が減っている可能性があります。この胸腺機能の縮小がT細胞の減少であるのか、それとも他の変化が原因なのかは完全にはわかっていません。また骨髄が、免疫システムの細胞の元となる幹細胞を十分には作れなくなっているのではと考える人もいます。
感染への免疫反応の減少は、ワクチンに対する高齢者の反応によって証明されています。例えば、インフルエンザ・ワクチンの65才以上に対する研究では、健康な子供(2才以上)に比較して効果がかなり低いことがわかっています。しかし効果が低くなるものの、インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種により、高齢者の疾病率や死亡率はワクチンを接種しなかった人と比べて大きく下がっています。
高齢者においては、栄養と免疫に関連があるようです。豊かな国においても「微量栄養素栄養失調」として知られる栄養失調が驚くほど多く存在します。食事で得られたり補えたりする必須ビタミンや微量ミネラルなどの不足という「微量栄養素栄養失調」は、高齢者において多く見られます。高齢者は食事の量が少ない傾向があり、また多くの場合に種類が少なくなります。栄養補助食品が高齢者の健康的な免疫システムを維持するために効果的かどうかは、重要な問題です。高齢者は、この問題を老人栄養学に詳しい医師とともに検討するべきでしょう。栄養補助食品が高齢者に効果的で可能性がある一方で、この年代には小さな変化も深刻な悪影響を及ぼす可能性もあるからです。
免疫と食事
どんな兵士もそうであるように、免疫の軍隊も腹が減っては軍は出来ません。健康な免疫兵たちも一定のよい栄養が必要です、貧しい地域の人や栄養不良の人たちが感染症により脆弱だということは、以前から科学者らによって認識されています。しかし、病気の率が増加するのは免疫の栄養不良のせいかどうかは確かではありません。人間の免疫に対する栄養状態の影響は依然として比較的少なく、栄養状態が(治療に対して)病気の発生に直接影響するかに関連する研究はさらに少ないのです。
様々な微量栄養素(例えば、亜鉛、セレン、鉄、銅、葉酸、ビタミンAやB6、C、Eなど)の不足が免疫反応を変化させるという証拠は、動物実験や試験管実験でいくつか見つかっています。しかし、こうした免疫の変化の動物の健康に対する影響は明らかではなく、同様の栄養不良の人間の免疫反応に対する影響はまだ見極められていません。
では、何ができるのでしょう?もしあなたの食事が必要となる微量栄養素を満たしていないのではないかと思うのなら(例えば野菜嫌いだとか)、マルチビタミンやミネラルのサプリを毎日取ることで、免疫やその他の健康に対する効果 が得られるかもしれません。あるビタミンひとつを大量にとっても効かないでしょう。量が多ければいいというものでもありません。
ハーブやサプリで免疫は上がる?
お店に行けば「免疫サポート」とか免疫を上げるなどと謳った錠剤や薬草などがたくさん売られています。そのいくつかは免疫機能のある部分を変化させるということが知られていますが、それらが感染や病気から守れるほど免疫を実際に強化してくれるのかという証拠は今のところありません。その薬草(そういう意味での物質)が免疫を高められるかどうかを示すというのは、とても複雑なのです。例えば、血液の抗体レベルを上げるらしき薬草が実際に免疫全体になんらかの効果があるかは、科学者にもわかりません。
ストレスと免疫機能
現代医学は、肉体と精神の密接な関連性を正しく理解するところにまできています。胃の不調や蕁麻疹、また心疾患など広い範囲の病気が、精神的ストレスに関係しています。困難ではありますが、科学者らはストレスと免疫機能の関係性について積極的に研究をしています。
まず、ストレスは定義するのが困難です。ある人にとってはストレスの多い状況かもしれませんが、他の人にはそうでないこともあります。ストレスが多いと思う状況に晒された人が、どれくらいのストレスを感じているのかを計測することは困難であり、その人の主観的なストレス量への印象が正確なのかどうかを科学者は知ることができません。1分間の心拍数などのストレス反応を計測することしか科学者にはできず、そうした計測も他の要因の結果かもしれないのです。
しかしながら、ストレスと免疫機能の関係を研究している科学者の多くは、急な一時的のストレスの原因については研究していません。それよりも、家族や友人、同僚との人間関係から生じるストレスや仕事でよい結果を出すための持続的な難題など慢性ストレスとして知られるより不変の頻繁なストレスについて研究しようとしています。科学者の中には、長く続くストレスが免疫システムに影響を与えるかどうかを調査しているものもいます。
しかし、科学者が言うところの「管理された実験」を人間に対して行うのは困難です。管理された実験では、あるたったひとつの要因だけを変化させ(例えば、特定の化学物質量など)、その変化の影響を他の計測可能な事象として計測します(例えば、その化学物質に晒された時に特定のタイプの免疫細胞が作り出す抗体量など)。生きた動物、特に人間では、測定が行われる際にその動物や人間に起こることがあまりにも多すぎて、そのような管理はとても不可能です。
このようにストレスと免疫の関係性を計測する避けることのできない困難があるにもかかわらず、科学者らは前進し続けています。
寒さの中で免疫は弱まる?
ほとんどの母親はこう言ってきました。「上着を着ないと風邪をひくよ!」それは正しいのでしょうか?これまでのところ、この問題を研究してきた研究者らは、適度の寒さに通常の状態で晒されることで感染しやすくなるわけではないと考えています。多くの医療関係者らもまた、冬が「風邪やインフルエンザの季節」なのは寒いからではなく、細菌をうつす他の人との距離が近い状態で多くの時間を室内で過ごすからだらだと賛意を示しています。
しかし研究者らは、様々な母集団でのこの問題に興味を持ち続けています。いくつかのマウス実験では、寒さに晒されることが感染に対応する能力を下げる可能性があることを示唆しています。しかし人間ではどうなのでしょう?科学者らは、人々を冷たい水に浸けたり、裸のまま氷点下で座らせました。南極に住む人やカナディアン・ロッキーに遠征している人について調べました。結果は様々でした。例えば、冷気の中で激しい運動をする競争心旺盛なクロスカントリーのスキーヤー達に上気道感染の増加がありましたが、それが冷気のためなのか他に原因があるのか(例えば強度の運動のせいなのか、乾燥した空気のせいなのか)わかりませんでした。
同じ目的で行われた自らの研究など数百の医学研究を見直したカナダの研究者グループは、適度の寒さに晒されることに何の心配もないと結論付けました。つまり人間の免疫システムに悪い影響がないということです。外の寒さの中にいる時は着込んで暖かくするべきでしょうか?もしあなたが不快ならば、あるいはもし凍傷や低体温症の危険のある場所に長時間出かけるのであれば、答えは「イエス」です。けれど免疫のことは心配しなくていいのです。
エクササイズ:免疫にいいのか悪いのか?
健康的な生活のための柱のひとつが規則的なエクササイズです。循環器の健康を高め、血圧をさげ、体重を管理し、あらゆる病気から守ってくれます。しかし自然に免疫機能を高めて健康に保つのに役立つのでしょうか?健康的な食事と同様、エクササイズは一般的な健康に寄与するので、健康な免疫システムにも役立ちます。血流を高めるというより直接的な効果もあり、それによって免疫の細胞や物質が体内を自由に動きまわり能率的に仕事をしてくれるでしょう。
運動に感染しやすさへ直接の影響があるのかを明らかにしようとする科学者もいます。例えば、激しい運動を極限まで行うアスリートはより頻繁に病気になるのか、また免疫機能を悪化させるのかを調べる研究者がいます。そうした研究では、アスリートに運動を激しく行わせ、運動前後で血液と尿を調べて免疫システムに変化があるのかを調べます。いくつかの変化は記録されてはいますが、こうした変化が人間の免疫反応という意味でどういう意味を持つのか免疫学者にもまだわかりません。
しかし、これらは強度の運動を行う選ばれたアスリート達が対象となっています。普通の人の適度の運動はどうなのでしょうか?免疫を健康に保つのに役立つのでしょうか?現在のところ直接の効能は認められてはいませんが、適度で定期的なエクササイズが健康的な生活のひとつだと考えるのは理にかなっているでしょう。免疫だけでなく身体の他の部分も健康に保つ重要な方法である可能性があります。
エクササイズのようなライフスタイルの一要素が免疫を高めるのに役立つのかのより完全な答えを得るために役立ちそうなものが、ヒトのゲノム配列を利用するアプローチです。最新の生物医学技術を基にした研究が免疫に関するこの問題や同様の問題に対する答えを与えてくれるかもしれません。例えば、ヒトゲノムを基にした「遺伝子チップ」により、何千もの遺伝子配列が特定の生理学的条件(例えば、運動前後のアスリートの血液細胞)の反応でどのように同時にオン・オフするかを見ることができます。同時に多くの経路がどのように複雑に働くのかをより理解できるようパターンを分析するため、研究者らはこうしたツールを用いたいと期待しています。
(出典)
https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/how-to-boost-your-immune-system