2020年6月9日火曜日

マウスの脳内の小さな部分が呼吸のもつ鎮静効果を解く 
A Tiny Spot In Mouse Brains May Explain How Breathing Calms The Mind


鼻から深く息を吸い、そしてゆっくり口から吐いてみましょう。落ち着きましたか?


このようなコントロールした呼吸は、不安症やパニック発作、鬱などの防止になり得ます。多くの人が、メディテーションやヨガのプラナヤマ・クラスの後に落ち着きを体験する理由のひとつです。しかし、ゆっくりとした呼吸と平静との関係、速い呼吸と神経過敏の関係は今までずっと謎でした。現在では、少なくともマウスでその関係性が見つかったという研究者らが出てきています。


その鍵となるのは、その研究者らが呼吸のペースメーカーと呼ぶ脳内のわずか175のニューロンです。呼吸のピースメーカーとは、脳幹内に存在する3000ほどのニューロンの集まりで、自律的な呼吸をコントロールしています。マウスによる実験で、この175のニューロンが注意力や興奮、パニックに関連する脳の部分と呼吸のペースメーカーとの間を結ぶコミュニケーション・ハイウェイであるということがわかりました。つまり呼吸の速さと落ち着きや不安といった感情は、直接影響し得るのです。


このマウスの反応が人間にも同じように起こるなら、呼吸を遅くした後に冷静になる理由が説明できるでしょう。




これを理解するため、研究者らは呼吸ペースメーカーの3000のニューロンを遺伝子的に分けました。類似遺伝子を持つニューロンは脳内で類似の働きをするからです。このようにしてこの175のニューロンへ到達したのです。


次の挑戦は、これらの機能を理解することです。何かが行っていることを調べるには、それが終わってから何が起こっているのかを調べることが時に最適の方法です。それで研究者らは、これらのニューロンを不活性化させました。


そのために、まずそのニューロンだけに反応する毒素の受容体を持つよう、マウスを遺伝子操作しました。ジフテリアというバクテリアによって作られた毒素をマウスに注射し、そのニューロンだけを死滅させたのです。


ジフテリアは人間に深刻な呼吸器疾患を引き起こしますが、通常マウスには影響しません。しかし、この遺伝子操作されたマウスでは、175のニューロン細胞を毒素が死滅させることができたのです。このように、これらニューロンは眠らされ、残りは傷付かず完全に機能したままだったと Science 誌に掲載された研究の中で述べられています。


どんなに小さなマウスの呼吸でもその量と頻度を計測できるほど高感度の圧縮チャンバーの中にマウスを入れ、これらニューロンの欠損がマウスの呼吸や行動にどのように影響するかをついに調べることができました。


「ニューロンが不活性化すると、完全にマウスの呼吸が止まるか、呼吸パターンが大きく変化するのではないか(ハッと息を止めたり咳をするなど)と予想していた」と、その研究の責任者であるスタンフォード大学医学部の生物化学教授マーク・クラスノーは述べました。
しかし、呼吸パターンに変化はありませんでした。その後数日間、実験は全て失敗してしまったと彼らは考えていました。

チャンバーの中で、睡眠、二酸化炭素レベルを上げるなど様々な条件のもとマウスを置いてみた後、クラスノーは「マウスに変化はあったのだ」と気づきました。「落ち着いている。角が取れている」


175のニューロンを失くす前マウスはチャンバーの中で「やりたい放題」だったとクラスノーは言います。ニューロンが失くなった後のマウスは、リラックスしたり身繕いしたりといういわゆる穏やかな行動をして多くの時間を過ごすようになりました。より深く調査すると、マウスの呼吸がよりゆっくりになっていたこともわかりました。



このマウスの行動変化は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のサンドラー・フェロー(優秀な若い科学者のためのプログラムに選ばれた者)であるケヴィン・ヤックルを想起させます。彼は、警戒やパニックを誘発する脳の覚醒中枢機能を失った(人間を含める)動物に関する研究を率いました。彼らもまた「角が取れて」いたので、マウスの脳の覚醒中枢が、呼吸中枢からのインプットが全く受けなかったため警戒行動を取らなかったのではとヤックルは考えました。同時に、こうした呼吸中枢がパニックや警戒のメッセージを覚醒中枢から受け取らなかったため、呼吸はゆっくりとしたままだったのです。この脳の二箇所(175のニューロン)の関係は取り除かれていたのです。


この関係性が鍵だとクラスノーは言います。「喉をつまらせたり、ビニール袋で息ができなかったりしたら、目覚めて警戒しこの危機に対処するべきだ。呼吸パターンの中断以上に深刻なものはないからだ」


クラスノーとヤックルは、もしこのマウスの神経経路が人間にも存在するなら、その経路が過活性している不安症を持った人の治療に役立つ可能性があると考えています。コントロールした呼吸や瞑想は、パニックの感覚と呼吸回数をを減らすことで、この経路の活動を下げるのに役立つと推測しているのです。人間の脳には呼吸中枢と覚醒中枢があり、マウスとの類似性から希望が持てるとクラスノーは述べています。




「感情と呼吸の双方向の関連性は重要かつ不可解だ」ハーバード大学医学部の准教授であるロバート・バンゼットはメールの中でそう述べています。バンゼットはこの新しい研究には参加しませんでした。「ここから人間の感情と行動への道はとても遠いが、どこかからは始めなければならない」


サザン・メソジスト大学心理学准教授のアリシア・ミュレもまた、この研究には参加しませんでしたが、落ち着いたマウスの行動について確信を持ってはいません。「マウスの落ち着いた行動というものを特定するのは困難。彼らの行動を見ることはできても、ニューロンの欠損が感情にどう影響するかを知ることはできない」とミュレは言います。


この懸念にバンゼットは同意しています。「彼らは、毛繕いの増加が感情の落ち着いた状態とみな」しているが感情を推測しているだけだと。


ヨガや瞑想で行われるような深くゆっくりのコントロールした呼吸が不安や鬱を緩和することを示すという数多くの査読された研究が存在しています。呼吸中枢と覚醒中枢を繋ぐ人間のニューロンを特定することが研究の次なるステップだと研究者は言います。


「この呼吸と高次脳機能の関係性は、1000年に渡る知識だ」クラスノーは言います。「少なくともヨガのプラナヤマが作られた時代に遡る。プラナヤマなどの手法が精神を落ち着かせるためにやるのは、単純に呼吸をコントロールすることだ。・・・ゆっくりと・・・規則的に・・・」


こうしたことから、クラスノーと同僚たちは古代の実践法にちなみ、この175のニューロンと関連の神経経路を「プラナヤマ・ニューロン、そしてプラナヤマ経路」と呼んでいます。




(出典)https://www.npr.org/sections/health-shots/2017/03/30/522033368/a-tiny-spot-in-mouse-brains-may-explain-how-breathing-calms-the-mind

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