2021年2月26日金曜日

ヨガは神経システムにどのように影響を与えるのか 
How Yoga Affects Our Nervous System


神経システムについて、その素晴らしさ、そしてどのようにヨガがよい影響を与えるのかについて耳にしたことがあるかもしれません。神経システムを落ち着かせ穏やかに調整するのに役立つヨガの特別なテクニックについて聞いたこともあるかもしれません。もしかすると、神経システムの詳細についても聞いたことがあるかもしれません。


しかし、この複雑なシステムとそれがもたらすことについて本当に理解しているでしょうか?実際のところ、神経科学者でさえ神経システムを完全には理解できてはいない一方で、基本的な局面についてわかっているところもあり、ヨガが、それを調整するのに役立つというエビデンスも増えてきています。



神経システムとは?


人間の神経システムは、並外れて複雑で、その大部分は未知の部分ですが、運動を起こすため電気的・化学的エネルギーを発し、脅威を察知し、消化を行い、心拍を調整し、呼吸を行い、思考する、など多くのことに関わっています。


神経システムは大きくふたつの分けられますが、多くの人が考えているのとは異なり、交感神経と副交感神経ではありません。 そうではなく、中枢神経系と末梢神経系です。


中枢神経系は脳と脊椎を含みます。末梢神経系は、中枢神経系意外の神経組織であり、神経繊維や神経節(ニューロン細胞の塊)を含みます。


末梢神経系はさらに、自律神経系(呼吸などの不随意機能をコントロールします)と、体神経系(歩くなどの随意機能をコントロール)に分けられます。



自律神経系とは?


不随意機能の中枢として、自律神経系はさらに、交感神経(「逃走闘争」部分)と副交感神経(「休息消化」部分)、そして腸神経系(内臓部分)に分けられます。


ヨガは全ての神経系に影響を与える可能性がありますが、ヨガの指導者や実践者はまず交感神経と副交感神経に注意を向けがちなのは、それらが実践によってより直接影響力のある部分だからです。



副交感神経とは?


交感神経系は、多くの場合「逃走闘争」反応に関連付けられます。これの部分は、体が危険の可能性に警戒する役割を持っています。


私たちが危険を察知すると、心拍が上がり、瞳孔が開き、呼吸数が上がって、新鮮な酸素の多い血液を脳に送ります。私たちの体はまた、呼吸や心拍、感情など全てを調整する神経伝達物質やエピネフリン、ノルエピネフリンなどのホルモンを送り出します。消化器官は、ほとんど働きをやめ、大切な酸素が豊富な血液を骨格筋に送ります。こうした様々なことが、ほとんど一瞬で起こります。こうした変化が、究極的には脅威と闘うかその場から逃げる準備をするのです。これが、交感神経反応が自動車のアクセルペダルと類似している理由です。アクセルをいっぱいまで踏み込むと、全力で前へ走り出すのです。


しかし、私たちの体はとても賢く、交感神経系も生活スタイルの変化に飲み込まれたりはしません。例えば、体は生死を分ける脅威へのストレスと大切な会議のストレスをうまく区別しません。つまり、うるさい上司という脅威を、私たちの体はライオンに襲われる脅威と同じように受け止めるのです。


さらに、こういったストレスは慢性化します。毎晩、帰宅した後にもしょっちゅう送られてくる仕事のメールで、交感神経状態のままになり、慢性的に心身にストレスを受け続け、やがてはストレスに関連した病気だらけになってしまうのです。さらに、慢性ストレスによって内分泌系に刺激ホルモンをもっと作るよう信号を送り、体内のストレス反応の周期が継続されていくことになります。


しかし、ヨガの世界での悪い評判にもかかわらず、交感神経系は、実は私たちが完全であるために不可欠な部分です。危険と直面した時に安全を確保するためだけではなく、体全体のバランスをとるという複雑な基盤の重要な一部なのです。


実際、ヨガの練習の時は、交感神経系が活性化しています。より動的でより速いペースのフローやより長いホールド(より困難な)は、交感神経反応を刺激します。チャトランガへジャンプバックする時、心拍数が上がります。逆立ちのポーズで止まると、血液を骨格筋へと流す準備をします。ウォリアー3でバランスを取ると、神経伝達物質が多量に分泌され、活力を与えるホルモンが血管の中を流れます。この神経系の活性化はまた、ランニングなどの激しい運動をする時にも起こります。


つまり、交感神経系を刺激することは、実際は、全く健康的で普通のことなのです。  



副交感神経系とは?


副交感神経系は、多くの場合、「休息と消化」反応と言われます。自律神経のこの部分は、交感神経反応を抑制します。


「ブレーキ」と呼ばれることの多い副交感神経系は、心拍数を下げ、消化を刺激し、呼吸速度を下げ、血流を四肢から生命維持に必要な内臓へと戻し、アセチルコリンなどの穏やかにする神経伝達物質を分泌させます。


この神経系はまた、ヨガの実践では崇められており、過剰にストレスを受けた体や心をリラックスするのに役立つためです。リストラティブヨガなどの実践を、特にリラックスのために、より穏やかな状態になるように行います。


しかし、この神経系がヨガの世界では一般的によいものだと見えると言って、常に副交感神経系を活性化させる必要があるというわけではありません。交感神経と副交感神経の両方の間を、ごく自然に揺れ動くことができるのが健康です。そして、この揺れ動きを心拍数の変化で計測することが可能です。



心拍数の変異性


健康な人が息を吸うと、自然に、交感神経系が刺激されて心拍数がやや上がります。息を吐くと、副交感神経系が刺激されて心拍数はやや下がります。この心拍数の変異性は、全体的な健康の目印となります。一般的に、交感神経系と副交感神経系の間を素早く簡単に変動できる方が、全体的に、より健康的な神経系であると考えられます。


慢性的にストレス反応から「抜け出せない」人は、心拍数変異性に乏しいため、心拍数はおそらく慢性的に高いままでしょう。反対に、自律神経の健康的なバランスを保っている人は、心拍数変異性が高いため、ストレスの多い状況の後でもすぐに下げる調整が行えます。


ストレスにすぐに反応することが大切です。しかし、ストレスが過ぎたら容易に落ち着けることも大切なのです。ここで、ヨガの出番です。




ヨガが自律神経系に与える影響とは?


ヨガを通して自律神経系に影響を与える方法はたくさんあります。以下は、ヨガが自律神経系の異なった部分を刺激するのに役立つ方法のうちのいくつかにすぎません。


ダイナミックなヨガ


アシュタンガやパワーヨガ、ヴィンヤサなどのダイナミックなスタイルのヨガやエクササイズは、すでに言った通り、交感神経系を刺激できます。  これは激しい動きへの健康的で普通の反応であり、免疫の強化、呼吸機能の改善、循環器の健康増強などに役立ちます。


リストラティブ・ヨガ


リストラティブ・ヨガには反対の効果があります。その名の通り、リストラティブ・ヨガは、心身ともにとても穏やかでリラックスさせるものです。いわゆるリラクゼーション反応を刺激し、神経を副交感神経モードに移し、穏やかさや安心感、心地よさ、健康的な消化などを促進します。


プラナヤマ


プラナヤマは、自律神経系に作用する実に早く効果的な方法です。実際、上記のように、毎回呼吸をするたびに自律神経に影響(心拍数変異)を与えています。

迷走神経の一部が、喉頭や呼吸横隔膜を通っているため、呼吸はまた瞑想神経緊張にも影響を与えます。瞑想神経の活動量が迷走神経緊張です。迷走神経には多くの副交感神経繊維があ流ため、迷走神経が受ける刺激が強いほど副交感神経系が活性化されます。

呼気を長くするなどの特定の呼吸法は、特に副交感神経系と関係が深く、体を「休息と消化」反応へと移すことができます。反対に、吸気を強めると反対の効果があります。


シャヴァサナ


シャヴァサナで練習を終えるのもまた、自律神経系に影響を与えます。このポーズは落ち着きや内省を促すため、心拍数や呼吸速度などをゆっくりにし、特に刺激のある動的な練習の後には効果的です。その簡単な外見にもかかわらず、副交感反応を開始し神経系を鎮めるために大変効果的な実践法です。


瞑想


瞑想は、鎮静効果のあるもうひとつの実践法です。心身が平穏な時、私たちは慢性的に抱えている緊張を手放し始め、副交感神経系を刺激します。




ヨガの練習と総合的な健康の鍵はバランス


私たちにの体内の全ては、常に、総合的なホメオスタシスのために適合と調和を得ようと働いています。

ストレスの多い世界に生きる私たちは、副交感神経系を刺激するような練習から効能を得ることができます。しかし、それは交感神経系を全く無視していいというわけではありません。忘れないでください、本当の健康の指標は、どちらの神経系が活性化しているかではなく、どれほど効率的、効果的に素早くそれぞれの間を移り変わることができるかです。

結局のところ、生きている中で前進するには、アクセルとブレーキの両方が必要なのです。全速力で壁にぶつからないよう、適切な道具を適切なタイミングで使うことがでければいけません。そして幸いなことに、その道を進むために役立つヨガが、私たちにはあるのです。







(出典)https://yogainternational.com/article/view/how-yoga-affects-our-nervous-system

2021年2月19日金曜日

平均以上の可動域が必要な4つポーズ(追加) 
4 More Common Poses That Require Greater-Than-Average Mobility

前回に続き、可動域に関する追加の記事です。
こうなってくると、よく出てくるポーズのほとんどが、インスタで見るような形にはなれないかもしれないと気づくかもしれません。
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人はみな、形もサイズも違っていて、プロポーションが違い、生活スタイルも習慣も違うということを私たちはわかっています。けれど、ヨガマットの上に立った途端、なんとなくその違いを忘れてしまい、全てのポーズで同じ形、角度になると期待してしまいます。


教科書通りのアライメントは、多くのポーズで、(下記のように)基本的だと思われているものでさえ、平均以上の可動域を必要とします。けれど、「平均」とは計算して出てきたものであり、誰も実際に「平均」な人はいません。一般的に、私たちは平均よりも可動域が大きいか小さいのです。肩には大きな可動域があるかもしれないし、股関節では小さいかもしれません。もしくは、左右に可動域に差が出るような姿勢や仕事、スポーツが原因の筋肉の緊張を抱えているかもしれません。


なぜなら、私たちはみなユニークで、全てのヨガポーズで理論的に理想的にするために自分の体に無理をさせることは意味がありません。ですから、練習を探求と調査の機会ととらえ、自身の関節や筋肉、筋膜などのユニークな組み合わせを知る機会としましょう。


では、「平均」の可動域とよくあるヨガポーズの「伝統的な」バージョンを比べていきましょう。




1.戦士のポーズ1(ヴィラバドラーサナ1)


後ろの足首背屈 20−30° (平均 12-20°)
後ろ足の内反30-45°  (平均 5-35°)
肩の屈曲 180°   (平均 165-180°)

 
戦士のポーズ1(ヴィラバドラーサナ1)は、集中とエネルギーを上にもち上げて、力強い土台を作ります。後ろ脚の股関節屈筋をストレッチし、胸を開き、肋骨の横から広背筋を伸ばします。この基本的なポーズが、太陽礼拝Bの鍵となることを踏まえれば、このポーズは誰でもが可能なものだと考えるかもしれません。しかし、両腕を頭上に伸ばすことが困難な体がある一方で、多くの人にとって、このポーズの伝統的なアライメントを妨げているのは後ろの足首関節の可動域です。後ろの踵を地面においたまま、骨盤を前に平行にするのは心地よいものではなく、多くの生徒にとっては不可能ですらあり、前の膝を曲げ得るとその難しさはより深まります。このポーズで多くの人が追求しているアライメントは、足首の通常の可動域を超えているため、難しいのは当たり前なのです。


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2. 戦士のポーズ2(ヴィラバドラーサナ2)



後ろ足の内反 35-45° (平均 5-35°) 
前の股関節の外旋 70-90° (平均 40-50°)
前脚の外転 70-90° (平均 40-50°)  



戦士のポーズ2(ヴィラバドラーサナ2)は、安定した、固い決意を持った、力強い立位のポーズです。両足がしっかり床について、両腕は肩の高さ、これはこのリストの中で最もやりやすいものです(股関節の通常の可動限界という条件があれば)。


しかし、「教科書通り」のアライメントは、前脚を真っ直ぐ前に向けて90度に曲げ、股関節をマットのサイドに向けていますが、これは、特に前の股関節と後ろの足首に、ほとんどの体型の人よりもずっと広い可動域が必要となります。戦士のポーズ1のように、前膝を深く曲げるにつれ、後ろの足首の可動域がより必要となります。


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3. 牛の顔のポーズ(ゴムカアサナ)



上の肩関節屈曲 180° (平均 165-180°)
上の肩関節外旋 80-90° (平均 80-90°)
下の肩関節内旋 60-90° (平均60-90°)
股関節外転 30° (平均 20-30°)
下の股関節外旋 60-85° (平均 40-50°)
下の股関節外旋 50-70° (平均 40-50°)





牛の顔のポーズ(ゴムカアサナ)に関連する動きの組み合わせは、体のさまざま部位の効率的なストレッチとなります。腕の位置は、胸と肩のほとんど全ての筋肉に影響し、慢性緊張のよくある原因(三頭筋、広背筋、三角筋)をも含みます。そして、股関節を開くヨガポーズの多くが股関節を外転する一方で、ゴムカアサナは、両脚を体の中心線で交差させます。しかし、このポーズの複雑さはまた、どうして多くの人にとってこのポーズが難しいのかを説明しています。ひとつの局面では可能でも、他のところで伝統的アライメントの達成が難しいのかもしれないからです。


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4. 弓のポーズ(ダヌラアサナ)


股関節伸展 20-30° (平均 10-30°)  
肩関節伸展 80-90°(平均 40-50°)  
脊椎伸展(胸椎・腰椎) 50-75° (平均 35-55°)



胸を開く後屈は、肩を前に引いて胸を圧迫するという日々の姿勢への強力な対抗策です。そうした理由から、姿勢と呼吸の両方に効果があります。仰向けの後屈はより効果的かもしれませんが、頭と肋骨を重力に逆らって持ち上げることは、忘れられている体の背面を強化しることができます。弓のポーズ(ダヌラアサナ)は、この分類に入ります。しかし、両腕と両脚が繋がっているため、コブラ(ブジャンガアサナ)やバッタ(シャラバアサナ)のようなものより大きな可動域が必要となります。


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気づいていようと気づいていないであろうと、私たちはすでにそれぞれのヨガポーズを行う自分自身の道を見出しています。私たちの体は、私たちが理解しているよりも適応性と弾性がありますが、同時に限界もあります。全ての人に、全ての関節の動きに限界点があり、ヨガポーズでは、他の日常の活動以上にその限界点に直面することが多くあります。それは、基本とされているこうしたポーズにおいても、言えることです。その知識が、理論的な理想を手放し、肉体的な練習を変化させてくれるでしょう。心を開いて、私たちの練習の行く先にあるものに好奇心を持って、マットの上に立ちましょう。

2021年2月12日金曜日

平均以上の可動域が必要な5つのポーズ 
5 Common Poses That Require Greater Than Average Mobility


人の顔がひとりひとり違うのと一緒で、同じ体の人は一人としていません。大きさも長さも重さも角度も違えば、その部分部分を使って出来上がる形や動きもみんな違います。陸上競技に向いている人や器械体操に向いている人、重量挙げやレスリングに向いている人など、いろんなものの好みが人によって違うのと同じくらい、体の構造も違います。では、ヨガに向いている人と向いていない人がいるのでしょうか?いいえ、ヨガは誰にでもできるものです。では、みんなが同じポーズをしなければいけないのでしょうか?
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この記事では、Yoga Medicine®の指導者であるレイチェル・ランドが、お馴染みの5つのポーズを深く掘り下げ、アサナに対してよりオープンマインドなアプローチをする重要性について説明しています。




もし、生徒たちにやめさせたいことが一つあるとしたら、それは、「忍耐と努力で誰もが成し遂げられるポーズの形というのはたったひとつしかない、その理想形でないものは全て間違いだ」と信じることです。そういった誤解が多いのは、生徒たちから受ける多くの質問やコメントからわかります。「ダウンドッグでどうすればかかとが地面につくようになりますか?」とか「いつになったら、足を組んで座る時に両膝が床につくほど股関節が開くようになるでしょう?」とか「私のハムストリングスは硬いから、このポーズは苦手です」というような。


けれど、問題は生徒自身にあるのではなく、そのポーズやそのポーズが「どう見えるべきか」という期待にあるとしたら?というのも、基本的なヨガポーズでも必要とされる可動域を分析すれば、その多くが平均的な可動域を超えていることがわかるからです。


私たちのどんな関節の可動域も平均より大きい小さいがあり、つまり、ヨガポーズの理想形は可能かもしれないし不可能かもしれないということです。ありがたいことに、練習の恩恵を得るのに理想的である必要はなく、そこには、体力、安定性、バランス、集中力などが含まれます。そして、特定の形にポーズを取る必要性を手放した時、自身の個性的な身体の構造を尊重しながら、ポーズの恩恵を受けるためのスペースを作ることができるのです。




では「平均的な」可動域とは?


さらに進む前に、「平均的な」可動域とは何かを見ていきましょう。理学療法士や運動の専門家などが通常用いる可動域チャートは、大勢のサンプルにわたる特定の方向に対する関節の限界価を測定したものです。ですから、平均というのはそれらのサンプルから算出されていて、最も柔軟な人と最も柔軟でない人のおおよそ中間に当たります。


もちろん、可動域が平均よりも大きな人もいれば小さな人もいますが、平均値を理解することで練習の中で可能なことに対する期待をコントロールするのに役立ちます。




可動域は大きくできるのか?


端的に言えば、柔軟性とは、筋肉と筋膜の弾性、そして骨の形状と比率による強力な限界のあらわれです。限界を作っているのは、筋肉張力なのか骨の圧迫なのかはどのように知ることができるのでしょう?軟組織の張力は、関節の、動こうとしている方向と反対側にあることがほとんどです。例えば、前屈ではハムストリングスに引っぱりを感じます。骨の圧迫は関節の同じ側に感じます。前屈では、関節がぶつかっている前面の深い組織を感じ、それ以上の深い屈曲を妨げています。


ヨガによって、時間とともに軟組織の柔軟性が高まる可能性があるので、特定のヨガポーズでそれ以上深く動いていくのを妨げているのが筋肉張力であれば、そこに関連する筋肉をストレッチすることで可動域を大きくすることは可能でしょう。しかし、人の骨格というのはそれぞれ異なっており、変化しないので、全ての関節の可動域の限界は人それぞれだというわけです。


もし骨の圧迫がヨガポーズに限界を作っているのなら、骨による制限を避けるために位置を変えてアライメントを調整する方法があります。けれど、それをするには、教科書通りのポーズへの執着を手放し、よりオープンマインドなアプローチをする必要があります。


では、このアプローチによって改良される可能性のあるポーズをいくつか見ていきましょう。全てのレベルのクラスでよく行われ、平均以上の可動域が必要となるポーズです。




1. 下向きの犬のポーズ(ダウンドッグ)


股関節屈曲 90° (平均70〜90°)
肩屈曲 180° (平均165〜180°)
足首の背屈 45° (平均12〜14°)


ダウンドッグ(アド・ムカ・シュヴァナーサナ)がヨガクラスの定番なのには、正当な理由があります。ハムストリングスやふくらはぎ、大胸筋や広背筋をストレッチするポーズです。また、上半身と下半身のバランスを作るのに役立ち、両手でより楽に体重を支える準備となります。


下向きの犬のポーズは大抵休憩のポーズで使われますが、首の横を圧迫しないで両腕を挙げ、背中を丸めないで両脚を伸ばし、踵を床につけようとするのはとても休憩ではないと感じる人は多いはずです。こうした困難は、肩や股関節、足首に平均以上の可動域が必要だからだ、とは想像しないでしょう。


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2. 立位の前屈

股関節屈曲 160〜170° (平均70〜90°)



ヨガスタジオを見回して難なく二つ折りになっている生徒をみれば、立位の前屈(ウッターナサナ)は簡単なポーズだと思わざるをえません。けれど、ダウンドッグで平均以上の股関節可動域が必要だとわかった今、ウッターナサナはもっとずっと大変だということがわかるでしょう。


前屈はハムストリングをストレッチし、背骨と首を優しく牽引し、内側への集中を養う機会となります。けれども、胸と膝、あるいは頭とすねをくっつけるという目標は、ほとんどの人には単純に不可能なことです。股関節の平均可動域は、両脚を伸ばした状態では70〜90°で、前屈の半分にもなりません。このポーズにはある程度の変更が必要だという人がほとんどだということを示しています。


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3. 上向きの犬のポーズ(アップドッグ)


足首底屈 80°(平均20-50°)
背骨伸展 70-80°(平均35-55°)
手首伸展 90°(平均65-85°)



上向きの犬のポーズ(ウルドゥヴァ・ムカ・シュヴァナーサナ)は、一般的に、腹筋や股関節屈筋など、体前面の固まった筋肉をストレッチします。また、足の甲の筋肉を伸ばすという稀な機会を与えてもくれます。このポーズを含めた太陽礼拝はまた、より深い後屈に応用できるアライメントのレッスンにもなります。
しかし、手首や背骨、足首に驚くほど広い可動域が必要となるため、ヴィンヤサの練習の中で予想外に難しい部分となっています。


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4. 三角形のポーズ(トリコナサナ)


股関節外転 80-90°(平均40-50°)
股関節屈曲 90°(伸展した脚での平均70°)
股関節外旋 80-90°(平均40-50°)



開いた三角形のポーズ(ウッティタ・トリコナサナ)は、全レベルのクラスのシーケンスに取り入れることのできる素晴らしいポーズです。前脚のハムストリングスのストレッチ、中臀筋と体側上部の腰方形筋の偏心の強化、微細な開胸、そして両脚を床につけてバランスと安定性を築く機会を与えてくれます。けれども、このポーズがきついと思うのは、あなただけではありません。通常以上の前脚の可動域を必要としますし、特に手のひらを床に付けようとすると尚更です。


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5. 座位のツイスト(アルダ・マツエンドラサナ)


股関節内転 45-50°(平均20-30°)
腰椎・胸椎回転 90°(平均40-70°)
股関節外旋 80-90°(平均40-50°)



座位のツイスト(アルダ・マツエンドラサナ)は、ヴィンヤサクラスでよくみるポーズで、立位ポーズと床でのポーズの間の移行に使われることも多くあります。姿勢の癖を変えて、安定した土台から背骨を自由に動かすのに役立ち、私たちの観点も変える可能性もあります。また、股関節の外側や腿の筋肉を解放する素晴らしい機会を与えてくれます。しかし、このポーズを部分的な変更なしで行うには、背骨や股関節に平均以上のかなりの柔軟性が必要となります。



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私に透視能力はありません。生徒さんの骨や結合組織の構造は見えません。彼らの可動域が平均より上なのか下なのか、わかりません。ダウンドッグで踵が床につくことがあり得るのか、前屈で胸が腿につくことがあり得るのか、わかりません。幸いなことに、こうしたことをやるように伝えることが、指導者としての私の目標ではありません。効果のある結果をもたらすようなヨガの体験をしてほしいのです。




生徒さんたちをより現実的な可能性に向けて導くことで、イメージされるアライメントの概念から外れたものは間違いだという考え方から彼らを解放することができます。つまり、肉体だけの力づくの決意ではなく心を開いた好奇心を養うことができ、各ポーズの理想形ではなくポーズの効果を重要視することができるようになります。私について言えば、このアプローチは、ヨガの本質へとより近づく道になります。





(出典)https://yogainternational.com/article/view/5-common-poses-that-require-greater-than-average-mobility