--------------------------------------------------------------------------------
大叔母のハッティは、よく腰の痛みを訴えていました。時々、手のひらを腰に当ててかすかに聞こえる呻き声をあげながらゆっくりと立ち上がり、「腰が痛いんだよ」とよく訴えていたものです。大叔母は何年も腰痛を持っていました。
理学療法の訓練を受けた今になってみると、あの大叔母の「腰痛」は実は仙腸関節に関連した痛みだったのではと考えます。それは、骨盤の腸骨と脊椎の仙骨が合うところです。仙腸関節の機能障害は、これらの関節面の小さなミスマッチで、ヨガの生徒の中でも珍しくはありません。その理由を知る前に、この場所の解剖学を理解しましょう。
仙腸関節
骨盤(Pelvis)は「basin(たらい、盆地など)」を意味し、腹部の内臓の容器として守る役割をします。骨盤はまた、脊椎の基点を支持するとともに、下肢に繋がる場所でもあります。ゆるやかにカーブする仙骨は、25歳までに融合する5つの椎骨からなる楔形の骨で、一番下の腰椎と骨盤の腸骨の両方と繋がっています。私たちが立っているときは、仙骨は骨盤にしっかりと差し込まれるように作られていて、それが安定性を作り出します。座っている間はそのしっかりとした繋がりが失われ、また立ち上がる時に再度作られなければなりません。仙骨と骨盤の間の位置がずれていたり問題があると、この小さな動きに干渉します。これがおそらく大叔母が立ち上がろうとする時に感じる痛みを引き起こしており、「仙腸関節機能障害」とよばれます。
この関節を安定させているのは他に、骨盤に収まるよう仙骨を支えている強い靭帯群です。しかし、習慣的な非対称の立位、座位、寝相や、または軸の回転をするヨガのアサナ(後で詳しくみましょう)によってこれらを伸ばしすぎてしまうことがあるのです。骨同士を繋げる靭帯に加え、体の関節の多くは周りの筋肉を安定させるという機能があります(例えば、上腕外側の強い三角筋が肩を安定)。しかし、仙腸関節には梨状筋という小さな筋肉がたったひとつついており、この関節を横切って安定性を与えています。
それだけでなく、女性には仙腸関節を不安定にさせる要因が他にもあります。まず、男性は仙骨と骨盤が三箇所で繋がっている一方で、女性は二箇所しかありません。(この違いは、他の要因と同じく出産に関係しています。)次に、女性の仙腸関節面は男性に比べて浅くなっています。また、仙骨そのものも女性のものは幅広く、この幅によって歩行の際、脚の交互の動きが仙腸関節に対する自然な軸回転を強めることになっているのです。ホルモン変化もまた要因のひとつです。毎月の月経や妊娠、授乳などのホルモン変化は、仙腸関節の靭帯を弛緩させ、骨盤と仙骨の間の歪みを増やす可能性を高めるのです。出産自体がこの関節に外傷を与える場合もあります。
上は男性、下は女性 |
非対称の動き
ゴルフやテニスなどのスポーツのように、ヨガ・アサナの練習の時も、仙腸関節の一体性にストレスを与える可能性のある非対称の動きがあります。ゴルフやテニスのスウィングのように非対称で勢いのある動きは、仙骨と腸骨が逆方向に動くため、仙腸関節に障害を与える原因となり得るのです。ヨガでは、常に非対称の動きを行っていますが、特に前屈やツイストなどのポーズに多く見られます。
障害を起こしやすい前屈は、「ランナーズ・ストレッチ」と呼ばれるジャヌ・シルシャアサナです。このポーズは、床に座り片膝を曲げて足を反対の鼠蹊部に置き、最後に腿と膝を床に下ろして前屈します。上級の生徒の場合は、曲げた膝を横ではなく後方に向けることもあります。
このポーズは、座っている姿勢より仙腸関節が不安定になるため障害を起こしやすいのです。(立位の時に自然に作られている楔形の仙骨と骨盤の「自分でロックする」メカニズムは、座位では緩むことを思い出しましょう)さらに、このポーズは非対称ですから、仙腸関節あたりに回転のストレスを与える可能性があるのです。例えば、右膝を曲げて前方にストレッチすると、骨盤の右側が固定されるか後方へ動き、その一方で脊椎は前方に動きます。この骨盤と仙骨の乖離が、仙腸関節機能障害に関係し、すでにあるバランスの崩れを悪化させることもあるのです。
もし、仙腸関節の右側に機能障害があると診断された場合は、次のバリエーションを試しましょう。痛みの軽減、さらなる障害を防ぐ効果があるかもしれません。右足を左腿の内側近くに置かず、左の膝かふくらはぎの横に置きましょう。そして脊椎と骨盤が一緒に動くように、脊椎と同じく骨盤の右側を前に動かすよう注意して前屈します。
これが、ヨガポーズの練習と仙腸関節に関して覚えておくべきもっとも重要な概念です。全ての動きにおいて、骨盤に対して仙骨がどう動いているかに注意しましょう。こう考えるといいでしょう。「仙骨ってアイデンティ・クライシスになっている。脊椎なのか骨盤なのかわからなくなっている。脊椎と一緒に行くべきか骨盤と一緒に残るべきか?」仙骨を脊椎や骨盤から離して別々に動かすとしたら、それは仙腸関節にストレスとなるでしょう。なので、全ての座位ポーズでは、骨盤、仙骨そして腰椎が一緒に調和して前方に動くように股関節から曲げるように気をつけましょう。
数年前、私は仙腸関節に痛みを感じ、それからは何が原因なのかを突き止めるために、練習の間「探偵」となることに決めました。「捜査」の2日目は、座位のツイストだけを練習したのです。翌朝、私はベッドから起き上がるのも大変でした。骨盤を床に押し付けて固定し、ツイストを強めるためにまるで脊椎に武器を使うかのように腕や肘で強く腿を押してツイストしようとしていたことに気づいたのです。
今では、座位のツイストの準備で、股関節まわりで最大限に骨盤をツイストさせることを学びました。実際、「ツイスト」を始める前に途中まで行うのです。それに加え、体の後ろの骨(脊椎)からではなく、体の前の内臓からツイストすることに集中しています。骨盤から動かすこととゆっくりとした自然な呼吸と同時に行うこのアプローチは、仙腸関節痛の90%を緩和することができました。
治療的動き
仙腸関節が「アウト」な時、効果のあるシンプルな動きが2つあります。まずは、骨盤に対して仙骨が前傾しているか後傾しているかを知る必要があります。(おそらく、カイロプラクターや理学療法士が教えてくれるでしょう。)仙骨がどっちを向いているがわかったら、次の「どちらか」を試してみましょう。仙腸関節機能障害とは非対称であるせいですから、ヨガアサナとは異なり、どちらかのサイドだけ行うようにします。
あなたの仙骨が片方に後傾していたら、壁から1mくらい離れて立ちましょう。後傾がある方の脚を後方に挙げ、同じ方の手で足首を持ちます。反対の手は壁においてバランスを取りましょう。何度か優しく膝を前後に動かしながら、できればウェストの高さまでゆっくり後方へ挙げます。肘を伸ばし、足首と手を拮抗させながら後ろへ押しましょう。15cmくらいの幅で、12回程度膝を挙げたり下ろしたりします。胸は垂直にして骨盤は壁の方に向けましょう。そして脚を解放したら、もう一方は「行いません。」部屋を何歩か歩きましょう。そのあと何日かは、弓のポーズなど簡単な後屈をいくつか練習に組み入れます。
仙骨が前傾していたら、片脚を伸ばして横になり、前傾している方の膝を曲げて胸に引き寄せます。ふくらはぎと腿の間を持ち、膝が腋の近くに下りるよう12回程度優しく上下に動かします。足の裏が天井を向くように床と垂直に動かすとより良いでしょう。十分柔軟ならそうしましょう。上下にうごかしたら、膝を解放して片方に寝転がって立ち上がり数歩歩きましょう。数日は、前述したジャヌ・シルシャサナを同じ側の膝を曲げて行いましょう。傾いてしまっている方だけ行います。
このポーズは片方だけ行うこと、そして呼吸は優しく動きは楽に、が重要です。上下に動かす時に何度か自然に息を吐くのが私は好きです。また、自分の座り方、寝方、立ち方に気をつけることも役に立ちます。関節周りの靭帯を伸ばしすぎて不安定にしているのは、非対称な習慣的な動きです。仙腸関節機能障害は、大抵は立位、座位、寝相など姿勢に関係しています。骨盤と仙骨を一緒に動かすのを身に付けることが防止のコツです。複雑な問題へのシンプルな解決方法なのです。
(出展)https://yogainternational.com/article/view/yoga-tips-to-relieve-sacroiliac-joint-pain