2020年6月29日月曜日

解剖学のレッスン:あなたの練習が他の人と違って見える理由 
A Lesson in Anatomy: Why Your Practice Won’t Look Like Anyone Else’s

ヨガはポーズの形や見た目じゃないんですよ、とクラスで私はよく言います。
自身が苦労したからこそ体得できたヨガの教えかもしれません。

子供の頃からスポーツは得意でしたし走るのも早かったけれど、そんなに柔軟ではなく体操なんかは苦手でした。
そんな私が大人になってからヨガを始め、人よりは時間がかかったものの徐々に柔らかくなりこの年齢で「人生で一番柔軟な身体」になっているほどです。それでもやはり、もともと器械体操やダンスをしていたような柔軟な人たちとは違うことが多く、ひとりで悩んだこともありました。
そんな悶々としている中、とある陰ヨガのトレーニングで出会ったのがこの記事にあるような骨格の違いでした。それ以降、どんな先生のどんなクラスに出ても、自分を見失わないようにと気をつけることができるようになったと思っています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あなたは人と違う!この言葉は素晴らしいことを伝えています。この世界で、誰一人あなたと同じ人はいません。あなたは「標準」でもなければ「普通」でもないのです。本当のところは誰一人として標準的でも普通、通常の人などいません。あなたには他の人とよく似た特徴があるかもしれません。他の何百万人と同じサイズのヨガウェアを着ているかもしれません。あなたの靴のサイズはきょうだいと同じかもしれないし、あなたの知っているみんながそうであるように、全く同じ陽子と中性子、電子で作られているのかもしれません。けれど、あなたが全体として誰なのかを詳しくみた時、これらの部分部分がひとつなって完全に議論の余地なく唯一である「あなた」を形成しているのです。



これがどんな意味を持つか考えてみましょう。
「あなたが完全に唯一であるなら、健康のためにすべきことなどは他の誰かが必要なこととは全く違うでしょう」科学者、作家でありビタミンB5を発見したロジャー・ウィリアムズは、全ての人間が一人一人いかに大きく異なるのかを表現するのに「生化学的個性」という言葉を作りました。私たちを健康に保つものや病気にさせるものを考えるとき、その違いを作り出す差異のことです。医療やフィットネスの世界(ヨガ業界も含め)では、人間の差異という本質をかなり無視してきていますが、この間違いをウィリアムズ達が正そうとしています。18世紀の医師、バースのパリーはこう述べています。「どんな病気にかかっている患者がいるかよりも、どんな患者が病気に罹っているかが重要である」



ヨギにとっては、以下のように言い換えることができるでしょう。
「どんなポーズをしているかよりも、どんな生徒がポーズをしているかが重要である」



腰痛に関する医学研究者のスチュワート・マクギルは、選ばれたアスリートの訓練法アドバイスの中でこう述べています。「身体の部分的な長さや筋肉停止の長さ、筋肉と腱の長さの比率、神経伝達の速さ、内部組織耐性など、人の身体は個々人で異なった比率を持っている。ステレオタイプの『最適な』テクニックを行うと、大抵の場合はアスリートの素質を最最大に引き出すことはできない」私の尊敬するヨガティーチャー、ポール・グリリーはこれを認識しておりヨガにも取り入れ、影響力のあるDVD「Anatomy for Yoga」を2004年に制作、わたしたちの唯一無二の身体がどのようにヨガの練習に影響を与えるかを伝えています。


body

図1:ナディア(左)は、股関節ソケットの前傾のため股関節で少し内旋しており、両脚はまっすぐ。マーゴット(右)の両脚には明らかな内反があり、ガニ股になっている。股関節ソケットの後傾と大腿の捻れのため、彼女の股関節もまたかなり外旋しており、爪先が外に向いている。これが彼女にとっての自然なアライメントだが、ナディアにとっては違う。



 


図2:こうした解剖学的な差異は見た目だけでなく、ヨガポーズを行う能力にも影響がある。バタフライ・ポーズ(バッダコナサナ)で、マーゴット(下)はナディア(上)よりも膝が床に楽に着けることができる。




あなたの歯型が誰とも違うのと同様に、あなたの骨格、背骨、股関節と同じ人は誰もいないというのが事実です。今のあなたにできることがあり、そのうちできるようになることがあり、そして絶対にこれから先もできないこともあるのです。これはあなたの能力を批判することでもなければ、あなたの個性を非難することでもなく、修正が必要な欠陥というわけでもありません。単にあなたという存在の現実だというだけです。150cmのバレリーナがアメフトのライトタックルとしてプレイすることはなく、アメフトの右タックルがオリンピックの金メダルをフィギュアスケートで勝ち取ることはないのです。これはバレリーナに欠陥があるわけでもライトタックルが怠け者というわけでもありません。



「差異は欠陥ではない」と集団遺伝学者のテオドシウス・ドブジャンスキーは言いました。私たちは様々なところで異なっていますが、それは構わないのです。そうした違いはときに何かの結果であることもありますが、そうでないこともあります。私たちがその違いを無視したり否定するとそれは問題となります。それらは事実であり、そして正常なのです。



私たちを測る方法を考えてみましょう。身長、体重、年齢、学歴、収入、家族、出身地、血圧、心拍数、脊椎と腕の長さの比率、股関節ソケットの後傾、大腿骨・脛骨・上腕骨の捻れ率、両脚の湾曲などなど、どこまでも続きます。これらの中であなたが「平均範囲」に入るものがいくつかあるかもしれませんが、その他のパラメーターを付け加えていけば平均的な人からは遠く離れていくことでしょう。平均の人などいないのです。これは、「平均的な人(実際は存在しない)」に当てはまることは、あなたには当てはまらない可能性があると言うことです。



ロジャー・ウィリアムズの言葉を再度引用しましょう。「現実的に、すべての人間は何らかの部分で逸脱している」正常も異常もないのです。あなたの唯一性の中にあなたが存在し、この世で与えられるもの全ての中であなたは何を手に入れることができるのか、そして知性を持って何を手放すべきかを、この唯一性が左右するのです。







図3:大腿骨の捻れを比較しよう。左のマーゴットの大腿骨は前捻がマイナス4度で、外旋が比較的簡単だと感じている。右のナディアの大腿骨は前捻47度で、内旋が比較的簡単だと感じている。




最終的には誰もが蓮華座(パドマサナ)ができるようになるはずだと信じている先生のヨガクラスに参加したとしましょう。今日はできないかもしれないけれど、力を尽くした練習と揺るぎない指導(そして正しいルルレモンのパンツと最高のヒマラヤのお香)をもって、この足を組む難しいポーズがどうすればできるようになるか見せてくれることでしょう。あなたには一度も足を組んで快適に座れたことがないとしたらどうでしょう?あなたは膝がちょっとした捻れているという感覚を無視しトライするでしょう。そしていつの日か、クラスが終わっても治らないほど痛みがエスカレートしていくのです。あなたは内側膝半月板を痛めてしまい、それでもヨガを始めたころから全く蓮華座に近づいてはいない。その先生はあなたの唯一性を無視しています。あなたの骨盤と大腿骨のせいで、あなたには蓮華座ができるようにはならない、そしてできるようになろうとすることで膝を壊しているのです。



ヨガは自身を選択する練習です。特定のポーズをするのが容易な形状をした骨格を持つ人は、それを練習し続け進歩します。最大の可動域を得るのを妨げる張抵抗を最後まで伸展し、そして望み通りの場所まで到達するでしょう。しかし、そんなに理想的な骨格でない人、張力ではなく圧迫(骨と骨がぶつかるところ)で止まってしまう人は、絶対にそのポーズをすることはできないのです。先生たちにこっそり教えてもらったのは思い違いなのに、どこか深いところで個人的な欠陥がこの進歩を妨げているのだと確信し、不満を感じてやめてしまうのです。



ロジャー・ウィリアムズはこう説明しています。「差異は全ての構造にわたる。脳、神経、筋肉、靭帯、骨、血液、内臓の重さ、内分泌腺の重さなど。これらの構造は、個々人でとてつもなく異なることが多い」また、こうも指摘しています。「解剖学者らは何世代も前からこの差異に気づいている。しかし、教育的理由により彼らは『標準』に焦点を当て今まで存在してきた可能性の重要性についてあまり(あるいは全く)示してこなかった」



もし私たちみんなが解剖学書の中の図のようだったら、また私たちの骨格が全て解剖学の教室の隅にかかっているプラスチックの骸骨のようだったら、素晴らしいことだろう。しかしそうではない。同じ人はいない。あなたは唯一であり、あなたができることも人とは違う、そしてあなたのヨガもそうであるべきです。



あなたの身体です!あなたのヨガをしませんか?







2020年6月22日月曜日

五感を冷やす:夏のセルフケア 
Cool Your Senses: 7 Summer Self-Care Tips

地球温暖化のせいでしょうか、年々、夏の気温が高くなってきています。うまく冷房を使うことも必要ですが、体の中から涼しくいられる方法を暑いインドで考えられたアーユルヴェーダから探っていきましょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アーユルヴェーダでは、3つのドーシャ(ヴァータ、ピッタ、カパ)が、人それぞれの肉体、精神そして感情の健康を司っているとされます。水と火に関係のあるドーシャであるピッタは、暑い夏の間にその力を強め、オイリーで浸透し、熱い、軽い、液状の特性を持ちます。適度であれば、こうした性質は体にも精神にも効能があり夏の日を魅力のあるものにしてくれるのですが、過多になると問題となります。例えば、日中の最も暑い時間に戸外でスパイシーなものを食べ、激しい口論をしたりすると体の中に熱が作られ、あせもや偏頭痛、胸焼け、イライラなどの高ピッタの症状を引き起こします。


夏の時期をより快適にするため、五感(聴覚、触覚、視覚、味覚、嗅覚)のバランスを取る以下の方法を行い、過剰になったピッタを鎮めましょう。




聴覚


海の波、泉に流れる水、あるいは静かで心地の良い音楽など、優しく心が落ち着く音を聞くと、燃え盛るピッタを鎮め落ち着かせることができます。また、楽しい人との心地よい会話も良いでしょう。一方で、激しい音楽、建設工事の音、口論、交渉などはピッタを増やすことになります。これらは少なくしておくことが最善です。



触覚


柔らかく優しい触感はピッタを鎮めます。ココナツオイルなどの冷やすオイルを少量使ったマッサージに素晴らしい効果のある人もいますが、あまり好きでなければ、優しく涼しい風にあたってピッタを鎮静しましょう。また、冷たい布に自然のローズウォーターをスプレーし、目の上におくのも良いでしょう。ピッタが多くなりすぎた時は、日焼けや熱いお風呂は避けましょう。



視覚


7色のうちの涼しい方の色(ライトブルーやグリーン)にピッタを鎮める傾向があります。花を家の周りに植えたり、部屋の中においたりすれば、嗅覚も刺激されます。


満月の下のウォーキングもまた、ピッタに効果的です。月の冷たいエネルギーと優しいそよ風、また快い人と一緒にいるという組み合わせが、ドーシャのサーモスタットを確実に下げてくれるはずです。ピッタに注意して、暴力的な映画や赤い服装は止めておきましょう。




味覚


アーユルヴェーダの医師は、苦味、渋味、甘味のあるそして冷却作用のある食べ物やハーブで、過剰になったピッタを下げます。これらには、青野菜(特にケールやブロッコリーレイブ、コラードなど苦味のあるもの)、果物、野菜、牛乳、ギー、ある種の豆、大麦やオーツ麦、米、小麦などの穀物、アマラキなど炎症に効くハーブなどがあります。


一般的なルールとして、夏には酸味、塩味、辛味を減らしましょう。そしてもちろん、理論的にピッタを鎮静させる食物(牛乳など)でも自身に合わなければは摂取しないでください。


また、ピッタを減らすホームメードのスイカジュースでレフレッシュすることも良いでしょう。種を取り小さく切ったスイカをブレンダーに入れて(水は加えません)液状にし、濾したら、はい、美味しく栄養のある夏のジュースの出来上がり。夏に発疹が出たら、スイカの瑞瑞しい皮を擦り付けると鎮静し、皮膚の治癒を助けます。


嗅覚


アーユルヴェーダでは嗅覚は土の要素に関係しており、ピッタの軽い質を落ち着かせます。自然のローズ、ベチバー、倫理的に採取されたサンダルウッドなどの、冷却効果のある甘く苦いエッセンシャルオイルを、首、手のひら、みぞおちに付けましょう。あるいは、同じ香料をお香やアロマセラピーとして使ったり、上記のように家の中に新鮮で香りの良い花を飾り魔性。ピッタを落ち着かせるため、強く刺激のある香りや科学的な香りは避けましょう。







(出典)https://yogainternational.com/article/view/cool-your-senses-7-summer-self-care-tips

2020年6月12日金曜日

精神衛生と免疫のためにヨガを実践 専門家が語る 
Practice Yoga for mental health and immunity, says expert

News Today の記事からです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー


チェンナイ:ヨガセラピストのランジャニー・クマラヴェルによれば、健康維持に特化したヨガは、特にコロナウィルス発生に続くこの辛いロックダウンの間、精神衛生と免疫を向上しながらマット上の辛い運動を減らすことができる。


ヨガセラピーの研究者であるランジャニーは「Covid-19は、特にこの辛いロックダウンの中、みんなに恐怖を急速に広めている。家での生活を楽しみ、テレビのニュースを見て遠く離れて悲しむ一方で、この新しい生物の勢いを受け入れられずにいる。それでも私たちの中にどんどん侵入してくる」


「Covid-19と共生することに慣れる必要がある。ヨガは古代の科学であり、病気の予防や治療を見つけるための頼りになる道へと急速になりつつある」


「SVYASAヨガ大学によるヨガセラピー研究は、内側深くからCovid-19に対処するため免疫を向上する治癒効果をヨガセラピーが持つことを明らかにしている」



「ヨガの神秘とは、MIテクニック(精神衛生と免疫)を身に着ける力。ウィルス発生がこのMIを圧倒し生態系自体を崩壊させている。パンデミック時に闘うため必要なもの」


リシヴィグナン高等教育センターの創立者でもあるランジャニーは言う。「精神衛生とは、内なる自身との精神内界関係性と繋がっている。この精神内界関係性は、私たちを健康に保つ免疫機能と直接繋がっている」


ヨガセラピーについての質問にはこう答えた。「内と外の健康を統合し、食品衛生、習慣的な実践、正しい呼吸、自分自身とそして他人との関係性、運動と休息を統合、自身を発見しMIを強化する」


「ヨガセラピーには、個々人に沿ったそれぞれのモジュールを作り上げる自由がある。健康維持に特化したヨガは、精神衛生と免疫を向上しながらマット上の辛い運動を減らすことができる」


「免疫反応は、感染者の中で潜伏期間と軽症の段階で働く。Covid-19による生命を脅かす程度の呼吸器不全の主な原因は肺の炎症」


「特別に作られたアサナ、適切なプラナヤマ、そしてリラクゼーション、瞑想、マントラのチャンティングが、ウィルス感染と闘うための様々な免疫を作る」と彼女は付け加える。


「超越瞑想を行っている健康な人の研究では、瞑想をしない人と比較すると、脳活動との深い関係がある血液の状態が良い」


これらの全てが、ヨガと健康の関係性を示す証拠だと、彼女は結論付けている。




(出典)https://newstodaynet.com/index.php/2020/06/08/practice-yoga-for-mental-health-and-immunity-says-expert/

2020年6月9日火曜日

マウスの脳内の小さな部分が呼吸のもつ鎮静効果を解く 
A Tiny Spot In Mouse Brains May Explain How Breathing Calms The Mind


鼻から深く息を吸い、そしてゆっくり口から吐いてみましょう。落ち着きましたか?


このようなコントロールした呼吸は、不安症やパニック発作、鬱などの防止になり得ます。多くの人が、メディテーションやヨガのプラナヤマ・クラスの後に落ち着きを体験する理由のひとつです。しかし、ゆっくりとした呼吸と平静との関係、速い呼吸と神経過敏の関係は今までずっと謎でした。現在では、少なくともマウスでその関係性が見つかったという研究者らが出てきています。


その鍵となるのは、その研究者らが呼吸のペースメーカーと呼ぶ脳内のわずか175のニューロンです。呼吸のピースメーカーとは、脳幹内に存在する3000ほどのニューロンの集まりで、自律的な呼吸をコントロールしています。マウスによる実験で、この175のニューロンが注意力や興奮、パニックに関連する脳の部分と呼吸のペースメーカーとの間を結ぶコミュニケーション・ハイウェイであるということがわかりました。つまり呼吸の速さと落ち着きや不安といった感情は、直接影響し得るのです。


このマウスの反応が人間にも同じように起こるなら、呼吸を遅くした後に冷静になる理由が説明できるでしょう。




これを理解するため、研究者らは呼吸ペースメーカーの3000のニューロンを遺伝子的に分けました。類似遺伝子を持つニューロンは脳内で類似の働きをするからです。このようにしてこの175のニューロンへ到達したのです。


次の挑戦は、これらの機能を理解することです。何かが行っていることを調べるには、それが終わってから何が起こっているのかを調べることが時に最適の方法です。それで研究者らは、これらのニューロンを不活性化させました。


そのために、まずそのニューロンだけに反応する毒素の受容体を持つよう、マウスを遺伝子操作しました。ジフテリアというバクテリアによって作られた毒素をマウスに注射し、そのニューロンだけを死滅させたのです。


ジフテリアは人間に深刻な呼吸器疾患を引き起こしますが、通常マウスには影響しません。しかし、この遺伝子操作されたマウスでは、175のニューロン細胞を毒素が死滅させることができたのです。このように、これらニューロンは眠らされ、残りは傷付かず完全に機能したままだったと Science 誌に掲載された研究の中で述べられています。


どんなに小さなマウスの呼吸でもその量と頻度を計測できるほど高感度の圧縮チャンバーの中にマウスを入れ、これらニューロンの欠損がマウスの呼吸や行動にどのように影響するかをついに調べることができました。


「ニューロンが不活性化すると、完全にマウスの呼吸が止まるか、呼吸パターンが大きく変化するのではないか(ハッと息を止めたり咳をするなど)と予想していた」と、その研究の責任者であるスタンフォード大学医学部の生物化学教授マーク・クラスノーは述べました。
しかし、呼吸パターンに変化はありませんでした。その後数日間、実験は全て失敗してしまったと彼らは考えていました。

チャンバーの中で、睡眠、二酸化炭素レベルを上げるなど様々な条件のもとマウスを置いてみた後、クラスノーは「マウスに変化はあったのだ」と気づきました。「落ち着いている。角が取れている」


175のニューロンを失くす前マウスはチャンバーの中で「やりたい放題」だったとクラスノーは言います。ニューロンが失くなった後のマウスは、リラックスしたり身繕いしたりといういわゆる穏やかな行動をして多くの時間を過ごすようになりました。より深く調査すると、マウスの呼吸がよりゆっくりになっていたこともわかりました。



このマウスの行動変化は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のサンドラー・フェロー(優秀な若い科学者のためのプログラムに選ばれた者)であるケヴィン・ヤックルを想起させます。彼は、警戒やパニックを誘発する脳の覚醒中枢機能を失った(人間を含める)動物に関する研究を率いました。彼らもまた「角が取れて」いたので、マウスの脳の覚醒中枢が、呼吸中枢からのインプットが全く受けなかったため警戒行動を取らなかったのではとヤックルは考えました。同時に、こうした呼吸中枢がパニックや警戒のメッセージを覚醒中枢から受け取らなかったため、呼吸はゆっくりとしたままだったのです。この脳の二箇所(175のニューロン)の関係は取り除かれていたのです。


この関係性が鍵だとクラスノーは言います。「喉をつまらせたり、ビニール袋で息ができなかったりしたら、目覚めて警戒しこの危機に対処するべきだ。呼吸パターンの中断以上に深刻なものはないからだ」


クラスノーとヤックルは、もしこのマウスの神経経路が人間にも存在するなら、その経路が過活性している不安症を持った人の治療に役立つ可能性があると考えています。コントロールした呼吸や瞑想は、パニックの感覚と呼吸回数をを減らすことで、この経路の活動を下げるのに役立つと推測しているのです。人間の脳には呼吸中枢と覚醒中枢があり、マウスとの類似性から希望が持てるとクラスノーは述べています。




「感情と呼吸の双方向の関連性は重要かつ不可解だ」ハーバード大学医学部の准教授であるロバート・バンゼットはメールの中でそう述べています。バンゼットはこの新しい研究には参加しませんでした。「ここから人間の感情と行動への道はとても遠いが、どこかからは始めなければならない」


サザン・メソジスト大学心理学准教授のアリシア・ミュレもまた、この研究には参加しませんでしたが、落ち着いたマウスの行動について確信を持ってはいません。「マウスの落ち着いた行動というものを特定するのは困難。彼らの行動を見ることはできても、ニューロンの欠損が感情にどう影響するかを知ることはできない」とミュレは言います。


この懸念にバンゼットは同意しています。「彼らは、毛繕いの増加が感情の落ち着いた状態とみな」しているが感情を推測しているだけだと。


ヨガや瞑想で行われるような深くゆっくりのコントロールした呼吸が不安や鬱を緩和することを示すという数多くの査読された研究が存在しています。呼吸中枢と覚醒中枢を繋ぐ人間のニューロンを特定することが研究の次なるステップだと研究者は言います。


「この呼吸と高次脳機能の関係性は、1000年に渡る知識だ」クラスノーは言います。「少なくともヨガのプラナヤマが作られた時代に遡る。プラナヤマなどの手法が精神を落ち着かせるためにやるのは、単純に呼吸をコントロールすることだ。・・・ゆっくりと・・・規則的に・・・」


こうしたことから、クラスノーと同僚たちは古代の実践法にちなみ、この175のニューロンと関連の神経経路を「プラナヤマ・ニューロン、そしてプラナヤマ経路」と呼んでいます。




(出典)https://www.npr.org/sections/health-shots/2017/03/30/522033368/a-tiny-spot-in-mouse-brains-may-explain-how-breathing-calms-the-mind

2020年6月4日木曜日

呼吸の「失われた技術」が睡眠や回復に影響する 
How The 'Lost Art' Of Breathing Can Impact Sleep And Resilience


呼吸についての「Breath: The New Science of a Lost Art」の著者ジェームス・ネスター氏のインタビュー記事です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ヒトは一般的に毎日およそ25000回の呼吸をしている。大抵の場合はそれについて考えたこともない。しかしCOVIDー19のパンデミックで、呼吸器疾患とこれまで当たり前だと思ってきた呼吸が新たに注目を集めている。


ジャーナリストのジェームス・ネスターは数年前、彼がたびたび悩まされる肺炎と気管支炎を緩和するため呼吸のクラスを取ってはどうかと医師に勧められてから、呼吸器に興味を持つようになった。


著書「Breath: The New Science of a Lost Art(呼吸:失われた技術の新しい科学)」のために呼吸の科学や文化を調査していた時、ネスターはある研究に参加した。そこでは10日間完全に鼻に栓をされ口だけで呼吸することになった。それは心地のよい体験ではなかった。


「最初は夜間に数分いびきをかく程度だったが、3日たつといびきは4時間に及んだ」口呼吸を強制されたことについて彼は語る。「睡眠時無呼吸症になった。ストレスのレベルが異常になった。神経は無茶苦茶になった。最悪だった」


「こうやって身体は空気を取り込もうとするんだ」ネスターは言う。「正しく呼吸をすれば、そして本当に横隔膜を使えれば、心臓の負荷を減らすことができる」



インタビューのハイライト


なぜ鼻呼吸が口呼吸よりもいいのか?

鼻は、空気を濾過し、温め、処理する。みんなそれを知っている。しかし、あまりに多くの人が(少なくとも私は)鼻で息を吸うと身体の中に様々なホルモンを流す引き金になるということに気づいていない。そして、血圧を下げ、心拍数を調整し、記憶する手助けすらする。つまり、バランスを取るために体内の無数の機能を調整するという素晴らしい臓器なんだ。



鼻には勃起組織がある

鼻は他の臓器よりも生殖器と深い関係がある。同様の組織で覆われている。そのため、ある部分が刺激されると、鼻もまた刺激される。その関係が深すぎて、下の方が刺激されるとくしゃみが止まらなくなる人もいる。そしてこの状態は、ハネムーン鼻炎と呼ばれるほど一般的である。


また非常に興味深いことに、勃起組織はそれ自体で鼓動する。つまり、片方の鼻腔を閉じて他方の鼻腔から息を吸うようになったり、その鼻腔が閉じて息を吸ったりする。身体というのは勝手にそれをしている。


これを研究した多くの人は、このようにして私たちの身体はバランスを維持していると考えている。右の鼻腔で呼吸する時は血流が速くなって身体が熱を持ち、コルチゾールのレベルが上昇、血圧が上がる。そして左の鼻腔で呼吸するとよりリラックスするからだ。体は自然にこれを行っている。そして、口で呼吸すると身体のこの能力を使わせないということになるのだ。



呼吸が不安症に与える影響

神経心理学者と話をしたら、不安症や恐怖からくる症状などを持つ人は大抵の場合呼吸が多すぎるのだと説明してくれた。つまりそれほど多くの呼吸をするということは、自分を絶え間なくストレス状態へと置いていると言うことだ。つまり、神経の交感神経側を刺激しているのだ。そしてそれを変えるには、深く呼吸すること。考えてみて欲しい、虎が君に向かってやってくるとか、車に引かれそうだというストレスのある時は、できるだけたくさん呼吸して呼吸して呼吸するはずだ。しかしゆっくり呼吸すると、これがリラクゼーション反応と関係する。横隔膜が下がり、より多くの空が肺に入り、身体はすぐにリラックスの方へと切り替わる。



息を吐くとリラックスできるのはなぜ?

息を吐くことが副交感神経反応だからだ。今、心臓の上に手を置いてみて。ゆっくりと息を吸うと心臓が速くうつのを感じるだろう。息を吐くと、心拍も下がるはずだ。つまり息を吐くことは身体をリラックスさせる。そしてとても深く呼吸すると他のことが起こる。息を吸うと横隔膜が下がり、大量の血液 ー 夥しい量の血液だ ー を胸腔に吸い上げるんだ。息を吐くと、その血液は身体の方へと戻っていく。



浅い呼吸の問題とは

呼吸をボート漕ぎだと思えばいい。とても短くぎこちないストロークでたくさん漕いで、目的地へ向かウトする。いつかは着くだろうがとても時間がかかる。それとも、たくさんの水をかいて長いストロークで漕ぎ、もっと効率的にたどり着くか。空気を体内に取り込むために簡単な方がいいだろうし、特にそれが1日に25000回も行うことなら尚更だろう。だから、この呼気吸気をちょっと長くして、横隔膜をもう少しだけ上げ下げすれば、血圧や精神状態に大きな効果が得られる。



フリー・ダイバーは数分間息を止められるよう肺の容量を増やす

世界記録は12分半だ。ダイバーの多くは7、8分間も息を止められるが、それでも信じられないほどだ。それを見たのは数年前で、フリー・ダイビングの競技についてのレポートのために私は送り出された。この選手は、水面でひとつ大きく呼吸をすると海の中へと肝ぇんに消えてしまい5、6分間戻ってこなかった。私たちが何を持っていようと、何を持って生まれようと、それは生きている間ずっと続くもので、特に臓器に関してはそうだと言われてきた。けれど、肺の容量に関しては全くもって変化させることができる。こうしたダイバーたちの容量は14リットルで、普通の成人男性の約2倍だ。彼らもそんな肺を持って生まれてきたわけじゃない。彼らの身体に大きく影響を与えられるような方法で呼吸するよう自身を訓練したんだ。




(出典)https://www.npr.org/sections/health-shots/2020/05/27/862963172/how-the-lost-art-of-breathing-can-impact-sleep-and-resilience