2020年9月25日金曜日

下位交差症候群を正す練習
Corrective Exercises for Lower Crossed Syndrome



では最後に、下位交差症候群を正すエクササイズに入っていきましょう。下位交差症候群の傾向は上位交差症候群の傾向を持続させる可能性があり、その逆もあり得ることを覚えていてください。全ては繋がっています!下位交差症候群のバランスを覚えていますか?弱くなった臀筋と腹筋そして固まった股関節屈筋と腰の筋肉。これを正すには、腰や股関節屈筋、腸腰筋を伸ばして、腹筋下部と臀筋を強化しなければなりません。まずは、悪い癖や間違った固有受容性感覚を防ぐため、可動性を高めてから強化していきましょう。




可動性


腰とハムストリングスのストレッチ、ツイストのシークエンス

パヴァナムクタサナ(膝を胸につけるポーズ、風抜きのポーズ)、スプタ・パダングスタサナ(仰向きの足親指を掴むポーズ)、スプタ・マツエンドラサナ(横たわった魚神のポーズ)は、硬くなった腰や股関節の筋肉をほぐし下位交差症候群の傾向のある人にとってバランスの取れた可動性を養うための素晴らしいポーズです。


両脚を伸ばして上向きに横たわり、右膝を胸に引き込みましょう。脛の前で指を組みます。頭と肩をリラックスさせ、左脚の後ろ側を床に押しつけます。これが、腰と左股関節屈筋の距離を広げます。上交差症候群のエクササイズでやったように首を頷かせても良いでしょう。首の後ろを優しく床に押して顎を引き、首の後ろをストレッチします。ここで5〜7呼吸しましょう。





固いハムストリングスは腰の緊張にも関係するので、右足の土踏まずにストラップをかけて右脚を伸ばすハムストリングスのストレッチを行いましょう。必要なら力を抜いて構いません。左脚の後ろを床の方へ根付かせたまま、左右の腰の位置を揃えましょう(右胴部が短くなってしまわないように)。ここでまた5〜7回呼吸しましょう。





 
ツイストをするため、右脚を胸に再度引き込み、左手で優しく右膝を体の左側へ移動させましょう。右膝が床につかない場合は膝の下にブロックを置きます。骨盤は上下に重ねるようにしましょう。右肩が床から持ち上がっていても構いません。お腹や胸、肩を柔らかくして優しく呼吸しましょう。反対側で繰り返します。







ランジのバリエーション


股関節屈筋のストレッチ

腰と股関節が開いたので、次は四頭筋と股関節屈筋をランジのバリエーションで開いていきましょう。


ソファや重い椅子、壁などの前で、右脚を前にして(膝は90度)左膝をソファなどのすぐ前の床に下ろしたロー・ランジになりましょう(必要なら後ろの膝下にブランケットを置いて保護しましょう)。では、左足をソファなどに向かって持ち上げます。両手でサポートした右腿を下方へ押し、胴部を持ち上げます。これが難しい場合は、両足をソファなどにつけた四つん這いから左足を持ち上げて、徐々に膝を下げて行っても良いでしょう。最終的には、右足をランジの位置まで前に歩かせますが、これは任意で行いましょう(右膝をついたままでも構いません)。


左の腰を前に引き、腰が丸まってしまわないよう下腹部に力を入れ続けましょう。尾骨を床の方へ伸ばします。左股関節の前が左腿の前面(四頭筋)に向かってストレッチされるのを感じるでしょう。このストレッチを深めるには、左膝を床と垂直になるまで家具や壁に近づけていきます。ストレッチを緩めるには、左膝を家具や壁から遠ざけ右足は立てたまま両手を床に下ろします。腰をリラックスさせ、ハッピーに、そして反らさないように再度確認しましょう!


これはとても強度の高い四頭筋ストレッチですので、呼吸を忘れないでください!ポーズから出る時は気をつけて、両手を床に下ろし、左膝を壁などから離して前に戻し足の裏を床につけましょう。ばねのように急にポーズから出ないようにマインドフルに動きましょう。反対の脚で繰り返します。








強化


下腹部:プランク(クンバカサナナ)

クンバカサナはプランク・ポーズとして知られています。しかし、語源のクンバカには「鍋」や「船」の意味があり、呼気吸気の最後に息を止めることを指します。プランクを練習する際に安定した呼吸を保つには、腹筋、背筋、横隔膜、そして骨盤底筋群で強い「船」を胴体の中に作るイメージをしましょう。


プランクは、背骨周りの筋肉全てを強化する素晴らしいポーズです。腕立て伏せの形になりましょう。これが辛い場合は、両膝を床に下ろします。手首に問題がある時は前腕を下ろします。どのバリエーションであっても、膝、股関節、肩はまっすぐにキープするようにしてください。腰が崩れないよう下腹部を引き、おへそを背骨の方向に引いて、尾骨をかかと方向に向けます。両手(あるいは前腕)を通して強い土台を保ちましょう。両肩のハッピーな中間点を見つけましょう。つまり、肩が落ちて向けが床の方へ下がってしまわないよう、そして上背部を丸めすぎて胸が縮まらないように。実際、間違って練習し続けると上位・下位交差症候群の傾向を正すことができません。マインドフルに行いましょう。ここで5〜7呼吸キープするか、長くできるなら良いフォームのまま疲れるまでホールドしましょう。






臀筋:ブリッジのバリエーション

後屈といえばブリッジ・ポーズ(セツバンダ・サルヴァンガサナ)を思い浮かベルかもしれませんが、このバリエーションは後屈ではなく臀筋の活性化と強化が目的です。


ヨガブロックを近くに置いて上むきに横たわり、両膝を曲げて足の裏を床に、かかとは坐骨に近づけましょう。ブロックを腿の間で強く挟みます。両腕を手のひらを下にして体の脇に
置き、足と腕を下に押しながら腰を持ち上げます。セツバンダ・サルヴァンガサナのように後屈はしません。臀筋を使って、膝と腰と肩が一直線になる位置まで腰を持ち上げましょう。臀筋をより使うため、爪先を持ち上げてかかとで床を押します。これが簡単すぎたら、片脚を上げてみましょう。5〜7呼吸キープするか、腰の上げ下げを10〜20回繰り返します。









このシーケンスは、下位交差症候群が原因の悪いバランスを正すのに役立ち、姿勢を向上させ、体全体の運動連鎖に効果をもたらします。これらの動きを試してみて、体のバランスが作られていく感覚に気づいてください。体の強さと緩さ、スティラとスッカのバランスを訓練すると、どこか足りない場所の埋め合わせをする必要がなくなります。スティラとスッカのバランスを育むことで、体全体とこの運動連鎖に沿った調和を見つけることができます。スティラとスッカのよいバランスがもたらす効果は、他にあなたの人生のどの部分に現れるのでしょうか?


2020年9月21日月曜日

下位交差症候群のためのヨガ 
Yoga for Lower Crossed Syndrome

今回は上位交差と逆のパターンについてです。
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重力が下方と前方にかかると、腹筋の力が抜けて骨盤が傾きます。座った状態でこうなると骨盤は大抵の場合(必ずではない)後傾し(坐骨が前方に回り込む)、立った状態では骨盤は大抵の場合(必ずではない)前傾します(坐骨が持ち上がる)。どちらの場合も、上体が沈み背筋の下部により大きい圧力がかかり、背骨(脊柱起立筋)の屈曲を妨げ、その結果より多くの緊張を股関節屈筋にかけることになります。この姿勢は、座位の場合は特に臀筋を十分に使うことができず、腰筋や股関節屈筋が受動的に短くなります。そのため、慢性的に臀筋と腹筋が弱まり股関節屈筋と腰の筋肉が固まるのです。


体を横から見て「X」の字を書いてみましょう。片方が弱い場所でもう一方が緊張している場所です。上半身で同様の問題が起こっている上位交差症候群に似てますよね?これはご想像通り「下位交差症候群」と呼ばれます。




弱くなった腹筋      固くなった胸腰椎伸筋
固くなった股関節屈筋     弱くなった大臀筋


股関節は背骨を支えるベースです。股関節や周囲の筋肉の動きや強さに制限がかかると、腰椎への負荷が増えます。私たちの多くが腰痛を持っているのも不思議なことではないのです!この場合、腰の筋肉と股関節屈筋は「ヒーロー」となり、本来担うよりも多くの仕事を行います。例えば、ウトカタサナ(椅子のポーズ)を姿勢を正さずに後方へ座った時のことを想像してみましょう。全ての悪いバランスが強調され、臀筋と腹筋は使われないまま股関節屈筋と腰がもっと働きます。




パターンがわかりましたか?運動連鎖に沿って起こることは、周りの関節や部分に影響を及ぼすのです。弱かったり使わなかったりすると、その関節の上下にある筋肉が緊張したり使いすぎが起こったりします。つまり埋め合わせです。この観点はあらゆる関節に適用します。膝と足首を例にしてみましょう。私たちの多くは、大腿四頭筋とふくらはぎが硬くハムストリングスと脛が弱く、もうひとつの「X」を作りながら弱さと緊張を体に作っています。多くの場合、関節や特定の部分の痛みはその場所の上下の関節や部分の動きの欠落に原因があります。腰が痛い?おそらく、腰や足首の動きが少ないための埋め合わせでしょう。これは物を極端に単純にみていますが、私たちの体を、繋がったひとつの機能単位や「運動連鎖」としてみなすことから始めるのはよいことではないでしょうか。



私たちの体は、埋め合わせと効率の達人です。では、特に無意識の場合はこうしたバランスの崩れを克服するためにどうすればよいのでしょうか?まずは、マインドフルネスから始めましょう。あなたは車や机の前でどのように座っているのでしょう?スーパーで列に並んでいる時、どんな姿勢で立っているのでしょう?ヨガクラスでタダサナ(山のポーズ)や座位のポーズをしているときどう感じるのでしょう?今はどうですか?この記事を読みながら座っていますか?立っていますか?首や肩、腰、股関節はどうなっているでしょう?左右対照に感じていますか?体のある部分に頼りすぎて他の部分を無視していませんか?より安定して強くなれば(スティラ)、あるいはより可動性や柔軟性が高まれば(スッカ)よいと思われる場所はどこでしょう?



この下位交差症候群の崩れたバランスを正すために、まずは股関節屈筋を開く動きから始めましょう。後ろの膝をおろして腰を開くランジのバリエーションや、パヴァナムクタサナ(膝を胸につけるポース)が良いでしょう。また、プランクなどの腹筋の強化や動きのためのポーズやウトゥカタサナなどの臀筋を強化するポーズも行いましょう。



ヨガの練習を、あなたの体とその癖を知るよい機会だと考えてください。一度わかれば、それをつかって安定と弛緩のバランスを取ることができるようになり、ヨガの練習がよりバランスの取れた、楽しめる、痛みのない、体に効果的なものとなるでしょう。そして、おそらく、そのバランスがあなたの人生に違う観点を与えることになるかもしれません。






2020年9月17日木曜日

上位交差症候群を正す練習 
Correcting Exercises for Upper Crossed Syndrome

それでは、具体的にみていきましょう。
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上位交差症候群の崩れたバランスを構成しているのは何か覚えていますか?
固まった胸筋や前三角筋、弱くなった僧帽筋中下部、菱形筋、前鋸筋、硬くなった僧帽筋上部、肩甲挙筋、そして弱くなった首の屈筋です。この上部交差症候群のせいで硬くなった筋肉に対処するため、胸や前三角筋(肩の前)、僧帽筋上部、肩甲挙筋を開き、同時に首の屈筋、僧帽筋下部、菱形筋、前鋸筋を強化しなければなりません。


ではどこから始めましょうか?正しい場所の可動性を広げることから始めましょう。安定性は、正しい固有受容性感覚(体の動きや空間位置の認識)から得られますが、動きに制限がかかっていると、この感覚は正常に機能できません。正しい動きができるようになれば関節の制限が減り、より効果的に強化することができます。では、上位交差症候群のバランスを正すのに役立つ動きと強化ポーズ、エクササイズを行いましょう。




可動性


胸部:三角筋前部のストレッチ

背骨(仙骨から頭骨)が完全に支持されるようにフォームローラーの上に横たわります。(長いものがなければ半分のものでも、または巻いたブランケットやタオル、マットでもOK)膝を曲げて両脚の裏を床につけます。肘と肩で90度に曲げ、上腕がローラーと直角に、前腕が並行になるようにします。肘と手首の力を抜いて床に下ろしましょう(床につかなくてもいい)。前腕を床と並行に保ち、肘よりも手首が床から高くなろうとするのを防ぎます。胸筋が左右に、そしてもしかすると肩の前も伸びるのを感じるでしょう。肘や手首が床につかなくても大丈夫です。肋骨の下部が突き出ないようにしましょう。体の力を抜いて胸と肩を開いて5呼吸以上行います。
フォームローラーがない場合は、戸口に立って腕を横に伸ばし90度曲げてみましょう。肘と前腕をドア枠につけたまま一歩前に出て、ストレッチを感じましょう。






腕:牛の顔のポーズ(ゴムカアサナ)

このポーズはどこでも座っても立っても行える素晴らしいストレッチです。
息を吸って右腕を天井に向けて伸ばし、左腕を床に向けて下ろします。息を吐きながら、両肘を曲げて指を伸ばしましょう。右肘は天井へ向け、左肘は床の方へ向けます。左掌は顔と反対方向に、右掌は背中の方向に向けます。指同士がつかなくても心配しないで。ほとんどの人はつかないものです。その場合は、ストラップかタオルを使ってつなげましょう。顎が下がらないよう、胸は引き上げ続けて肋骨下部が突き出ないように気をつけてください。肩は床と並行になるようにして、片方がもう片方よりも高くならないようにしましょう。


このストレッチでは右腕を(上の腕)伸ばすのだと思っている人が多いのですが、実は左の肩(下の肩)、特に前の三角筋に効果があります。左肩は、内側・前に巻き込み肩甲骨が「羽のように」突き出てしまう傾向があります(つまり最も抵抗のない道)。しかし、三角筋に本当に効かせるためには、肩甲骨を後方下方に下げ、肋骨に対して肩甲骨が並行になるようにし、左肩の前を伸ばしましょう。

両サイドで 5〜7呼吸ホールドしこのストレッチを味わいましょう。






頸部:僧帽筋ストレッチと筋膜リリース

座っても立っても構いません、右の耳を右肩の方へ力を抜いて下ろしましょう。両肩はどちらかが高くなってしまわないよう床と並行に保ちます。左手で床の上の何かに向かって伸ばすように、左腕の力を抜いて下ろします。ストレッチを強めるには、右手を頭の左側において優しく押しましょう。顎を少し下げたりあげたりしてよりよいストレッチを探しましょう。特に固まった場所を見つけたら、そこで数回リラックスして呼吸しましょう。反対側も行います。





テニスやラクロスのボールがあれば、壁に押し当てて首や僧帽筋上部のトリガーポイントを見つけてみましょう。壁を背にして立ち、ボールを首や僧帽筋上部と壁の間に入れます。優しくボールに寄りかかって固まった筋肉により圧をかけましょう。固まったスポットは探さなければならないかもしれません。特に酷い場所が見つかったら、そこにボールをあてたままリラックスした呼吸を5回以上行いましょう。固まった場所やトリガーポイントに圧をかけることで、脳に緊張を解いていいんだよと伝えます。このテクニックは床でも行えますが、やや強いものになります。







強化


頸部のうなづき

床に横たわるか壁を背に立ち、後ろの床や壁に首の後部をつけるような動きをします。首の後ろは付きませんが、顎が少し引かれて頭頂部分が持ち上がるのを感じるでしょう。二重顎のような感覚です。首の後ろに巻いたタオルを置くと押し付けることができるので良いかもしれません。この動きは、首の前にある筋肉を強化し、頭骨底部の筋肉を伸ばし、頸椎に最適な長さと強さのバランスを作ります。そのままリラックスし他呼吸を7回行うか、10-15回繰り返しましょう。この動きはまた、特にパヴァナムクタサナ(膝を胸につけるポーズ)や仰向きの4の字ストレッチなど仰向きで横たわったポーズなど、ヨガの練習の間に簡単に行えます。









レジスタンス・バンドを引く

およそ腰の高さ(ドアノブがよいでしょう)で何かの周りにレジスタンス・バンドで輪を作ります。ドアノブなど回した場所の方をむいて、背筋を伸ばし肘を入れ(外に開かないよう)レジスタンス・バンドを自分の方へ両腕をつかって引きましょう。バンドの強さによって立つ距離を調整します。肩甲骨どうしを寄せ肘を後ろに引きましょう。胸は引き揚げたままコアを使います。バンドに引っ張られないようにより安定して立つために脚を前後に開いても良いでしょう。疲れるまでできるだけ多くの回数を、良い姿勢を保ったまま行いましょう(15-40回)









これらのエクササイズは上位交差症候群に関連する悪いバランスを正すのと同時に、不快感や怪我を防ぎ姿勢を改善します。こうした姿勢の改善はまた、呼吸を効率的に行えることにつながり、体により多くの酸素を取り込むことでより多くの酸素を筋肉へ供給することができます。それにより、体力や気分が上昇します。心や体をバランスのよい形(スティラでスッカ)になるよう訓練すればするほど、関節や体はより健康になるということを忘れないでくださいね!












2020年9月14日月曜日

上位交差症候群のためのヨガ 
Yoga for Upper Crossed Syndrome

「上位交差症候群」と聞くとなんだか難しそうですが、簡単に言えば「猫背」です。
思い当たる方も多いのでは無いでしょうか?まずは「猫背」について知ることから始めましょう。

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毎日気づかないままに、体がどれだけ多くの活動をしているかを少し考えてみましょう。呼吸をしていること、朝食を消化していること、犬の散歩で足を一歩一歩前に出していることに気付くのは素敵なことですよね。体はどうすればいいのか、ちゃんと知っています。毎日の活動を楽にできるように動かす生まれ持った直感であり、適応能力を持っています。


この体が生まれ持った知性のおかげで、知らないうちに体が勝手に「最も抵抗のない道」をとっていることに気付きます。例えば、朝早く仕事にいこうとに車を運転している時の姿勢と、帰宅中の姿勢を比べてみましょう。時に私たちの姿勢は劇的に変化していて(両肩は前に、胸と上背部は丸くなり、腹部の力が抜けていたり)、サイドミラーやバックミラーで姿勢を直さないとならないほどです。いつの間にそうなったのでしょう?1日、1週間、1ヶ月、1年と、私たちの体は重力に屈していきがちです。関節を支持するための筋肉群をバランスよく使うことなく、より結合組織(腱や靭帯、筋膜など)に依存するようになり、本来周りの筋肉組織と分担するべき仕事を一部の筋肉が全て担うことになります。(例えば、腹筋を使わなかったり弱い場合、それを補うために腰の筋肉が過度に働くこともあります)。


これが起こると体は補正しようとします。ある部分が必要以上に強く働き、弱い部分が緩みます。この「最も抵抗のない道」を体に選択させることで、結果的に姿勢や体力、総合的な健康にまで大きな問題を引き起こしかねません。補正は時には良いものですが、膝や足首に痛みを持ったことのある人は、体がそれを長期間補正しなければならない状態では何が起こるかを身を持って体験したことがあるでしょう(片足を引きずって歩くなど、怪我や痛み制限にもかかわらず必要な動きをするなど)。多くの人が、怪我をした脚が治る間に、怪我をしていない方の脚が痛くなってしまいます。怪我のない方の足にあまりにも負担がかかるからです。長期的な補正はバランスを崩し、痛みの原因となり、機能が下がって怪我のリスクを大きくします。こうした補正をヨガクラスで行うとか、よりアドバンスのポーズを試すとか考えてみてください。おそらく良いことではないでしょう。まずは基本の姿勢や動きに注意し、ポーズの「スティラとスッカ(安定性と安らぎ)」のバランスを養う必要があります。


体の全ては繋がっています。つまりあなたが行うことは全てあなたの体に影響を与え、補正は関節に「少しづつ」悪い影響を与えます。例えば、膝の変形は足首に影響を与え、同様に股関節、背骨、肩、首にも影響します。これは「運動連鎖」と呼ばれます。どんな変化もその連鎖に繋がる他の筋肉や関節に影響するのです。


デスクワークの人の典型的な姿勢をみてみましょう。一般的に重力は前方と下方へとかかり、肩は前方へ丸くなり胸は前へ曲がります。これを補おうと、首が伸び頭は前になり、前に何があるのか(PCやテレビ、本など)を見るために、亀が甲羅から頭を出しているような姿勢になります。


この姿勢では、胸の筋肉(胸筋)、肩の前(三角筋前方)が縮まって背中の真ん中(僧帽筋の中下部、菱形筋、前鋸筋)が弱くなり、そして首と上背部の伸展筋(僧帽筋の上部、肩甲挙筋)が縮まり、首の屈筋(胸鎖乳突筋を含む首の前方の筋肉)が弱まります。これが上部交差症候群とよばれるものです。体を横から見て肩を通った「X」の文字を描いて見ると、X のラインの片方は弱った筋肉を示し、もう一方は緊張した筋肉に関連していることに気付くでしょう。これは一般的に悪い姿勢や動き方、そしてバランスの悪いトレーニングの結果です。オフィスやお店などどこでも周りを見回してみれば、これの姿勢の人がとても多いことに気付くでしょう。





首の屈筋と中背部を使っていない時には、僧帽筋上部と胸筋が代わりに働きます。胸筋と上背筋が英雄となり、全ての重荷を背負うなんてなんて素晴らしいことでしょうか。まあそれにしても、それは肩や首、背中のバランスが崩れ不快感や痛み、さらには怪我をする可能性もあります。バランスの悪い関節に重みがかかると、その悪いバランスを放置したり悪化することになり危険です。例えば、プランクやチャトゥランガを練習している時にこの姿勢を保ったら肩関節がどうなるか考えてみましょう。周りの筋肉群と分かち合うべき大きな圧力が肩関節にかかります。決してバランスの崩れた関節に負荷をかけてはいけません。そうではなく、関節に負荷をかけようとする前に少し立ち止まって姿勢とアライメントを正しましょう。


これらの崩れたバランスを正すには、まずは固まった筋肉(僧帽筋上部、肩甲挙筋、胸筋)をゴムカアサナ(牛の顔のポーズ)などのストレッチで伸ばして開き、カクタス・アームで胸と肩を開き、肩を耳に竦めて僧帽筋上部と首を伸ばすことから始めましょう。また、弱くなった筋肉群(首の屈筋、僧帽筋下部、菱形筋、前鋸筋)を顎を引くことで(例えばアパナサナで首の後ろを床に向かって伸ばすなど)首の屈筋を強化し、ボート漕ぎなどのエクササイズで上背部を強化する必要があります。これらの練習を時間をかけて行うとよりよいバランスの姿勢になっていくはずです。


ヨガは私たちの体を知る練習です。自分の体の癖をよりよく知れば知るほど、補正や非対称に打ち勝って運動連鎖に健康的なバランスを作るのが容易になります。「スティラ・スッカム・アサナム」つまり安定しているけれど安らいだ姿勢が目標です。体のバランスを作るとで、一生続くサステナブルな練習を高めることができるのです。




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次回は、実際の練習法です。

2020年9月7日月曜日

ヨガマットは本当に必要なのか?
Yoga Mats: Are They Really Necessary?


現代のヨガを最もよく表しているシンボルは、ヨガマット以外には無いでしょう。ヨガマットはもはやヨギが使う道具という以上の物です。ヨガマットは象徴です。ストレスが多く混沌とした予測できない毎日の中で、私たちの心が少し安らぐことのできる場所を表現しているのです。



ヨガマットの略歴


アンジェラ・ファーマーは、地球上で最もよく知られ尊敬されているヨガ・ティーチャーの一人です。彼女はヨガを40年以上教え続けています。若い頃に受けた手術が原因で、彼女の手足に汗がかけなくなったそうです。何もかもが乾ききった冬に、硬い木の床でヨガを練習したことはあるでしょうか?手足がスリップしてあちこちに滑ってしまう悲しくも可笑しい状況に似ています。ダウンドッグや立位のポーズは特に滑りやすいものです。

その症状があってもファーマーは、1960年代のロンドンで教えていたBKSアイアンガーとともに練習することをやめようとはしませんでした。アイアンガーは、気泡ゴムのマットレスを使ったり手に水をかけたりすることを許しませんでした。1968年にミュンヘンで教えていた時、彼女はカーペット工場で薄い下敷きに出会います。それこそが彼女の問題のための完璧な解決法だったのです。

ロンドンに帰った彼女の「カーペット下敷きヨガマット」は、生徒達の間でとても人気になりました。やがてアンジェラの父親が、ドイツのカーペット工場のオーナーと繋がり、故郷のヴァンクーバー・アイランドで最初のヨガマット小売店を始めました。

アンジェラ・ファーマーが開発したヨガマットは、治療の一環でした。マットの粘着性が症状を緩和することができたのです。



ヨガのストレッチ化


では、ある症状のために作られたヨガの道具が世界中のヨギの標準アイテムとなった時何が起こったのでしょう?


このマットの粘着性は、歩行の変わりに使われるモーター付きのカートと同じというわけではありません。モーター付きのカートは間違いなく便利ではあります、、、歩行に問題があれば、です。しかし、そんな症状を除けば、私たちの最悪の特徴を強める可能性もあります。ピクサー映画の「ウォーリー」を見たことがありますか?映画の中の未来の人間は、もう立って歩くことができず、一生テレビの付いたカートで移動しています。


芝生や砂の上でヨガをする時、あるいはブランケットの上でさえ、立位のポーズに柔軟性よりも強さが必要なことがわかるでしょう。手足が滑っていってしまわないようにする力はアイソメトリック(等尺性)の収縮です。


表面にある程度の不安定性がなければ、くさびのようにポーズをホールドすることになります。結果的に、膝や股関節、肘、肩が「ぶら下がる」ことになります。この関節の「ぶらさがり」は、ニューヨーク・タイムスに掲載されたウィリアム・ブロードの最近の誤診問題の主な原因ですが、この記事はヨガにおける柔軟性は不利になるということを示唆しています。股関節や膝の摩耗は、おそらく柔軟性ではなくマットかもしれません。マットの粘着性が高まると、ヨガの練習で必要となる強さと柔軟性のバランスが崩れることになります。


ウティタ・トリコナサナ(三角形のポーズ)の前足がいい例でしょう。マットの粘着性が十分なら前足は動かないでしょう。そして、脚の筋肉を上方にひきあげないまま、前足にまっすぐ「よりかかる」ことになります。前足をブランケットの上に置いて三角形のポーズをし、前足の感覚の違いに気付いてください。きっと力が入っています。前足が滑ってやるはずのなかったぎこちない開脚になってしまわないよう力が入って、少し震えているはずです。


ヨガマットは、ヨガをストレッチ化しています。おそらくアサナには、以前はより筋力が必要出会ったでしょうが、今はより柔軟性が必要となっています。



ヨガ・スペースのプライベート化


あなたが無限の宇宙へ広がるのを想像してみましょう...そしてマットから飛び出すのです!


想像してみましょう。
活気のあるヨガスタジオの大きなクラス。クラスが終わって、気分がすっかりよくなったヨギ達がドアから次々と出てきて、マットを持った熱心な生徒たちの次の波が入ってきます。彼らの大好きなヨガスタジオのワイルドウェストで、自分の取り分を探しているスピリチュアルな探索者で賑わっているゴールドラッシュです。


ヨガマットは、ただ粘着質の表面を与えてくれるだけではありません。マットはあなたのスペースを明確にします。実践者としての自分をより正しく表現するようなマットにします。ただ好きな色を選ぶというだけではありません。材質がPVCなのかエコなマットなのかを選択しなければなりません。また、サイズや厚み、運びやすさ、デザインも選ぶ必要があります。最新のスーパーエコのグリップが最強のジョン・フレンド・マンドゥーカのマットなのか、マイソールのラグなのか、ウォルマートで買ったハスの花の絵のついた10ドルのPVCマットなのか。


ヨガマットは垣根としての役目を果たします。個々人のスペースを分けます。誰も私のマットに足を入れることはできません。手足を「私の」ヨガスペースに伸ばすことはできません。混んだヨガのワークショップもクラスもプライベートなヨガスペースへの滑稽な一面を提供しています。並んだマットの間を爪先で通りすぎ、ボルスターや水筒の間を縫ってぴょんぴょんとんでトイレへと向かいます。おかしいですよね。


床は公共のスペース。誰もが好きなように歩いていい。ヨガマットはプライベートなスペース。ティーパーティーのモットー「私の上を歩かないで」の現代バージョンですね。


皮肉なものですよね。私たちは、自身の境界を緩めて、皮膚で分けられ拘束された自分およりもより広がりのある体験を得るための練習をしているのに。そして、私たちはこうすることで、自分の派手な色の四角いプライベートなヨガスペースに閉じ込められているのです。


選択と自由


ヨガが人間が自由になる技術だとしたら、ヨガマットはだめだから使うのはやめるべきだといって終わるのは馬鹿げています。それは自由ではありません。自由とは、選択に気付き自分の選択をする力です。私たちは時々、権力にしたがって決断することもありますが、それもまた選択です。


アンジェラ・ファーマーがカーペット下敷きを使っていたことでBKSアイアンガーを感心させることはありませんでしたが、彼女は、体だけでヨガをするべきだというアイアンガーのこだわりのために彼女自身のヨガの旅を閉じることはしませんでした。(おもしろい話があります。数十年後の1989年、ファーマーはアイアンガーが彼女のマットを使ってデモンストレーションを行っているのをみたのです!)


ですから、ヨガマットを使うか使わないかの問題では無いのです。決断を判断すること、そして練習に関する決め付けを見つけることをも時には意味します。ヨガの練習にマットは必要だと決め付けていませんか?そこにはどんな利点と欠点がありますか?憶測に対してより気付きを持てば、私たちのヨガもより自由へのマインドフルな練習となるでしょう。





(出典)https://yogainternational.com/article/view/yoga-mats-are-they-really-necessary

2020年9月4日金曜日

30分の瞑想が痛みを緩和する 
Even Thirty Minutes of Meditation Can Help In Reducing Pain

数ヶ月前から、生徒さんのリクエストもあり瞑想に特化したクラスを始めています。瞑想にも様々な方法があり、合わないものや間違った方法で行うと逆に負の効果がある可能性もありますが、正しく行うと多くの効果が期待できます。
今日は、瞑想の研究発表の記事です。

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ニュー・ヘイヴンのイェール大学で精神医学と心理学の準教授であるヘディ・コーバーが率いた研究結果が、日課に瞑想を加える効果についての医学文献に書き加えられた。


瞑想の健康効果についての現存の研究は、様々な効能を強調している。日常的な瞑想は緊張を解きストレスを緩和に効果があるだけでなく、多くの身体的な症状にも効能がある。これが、癌患者や心臓疾患患者、複数の合併症を持つ高齢者などを含む深刻な健康状態の治療を受けている人々に、医療従事者らが瞑想を勧める理由である。


さらに、瞑想は病気のリスクを下げたり症状の防止に効果あるだけでなく、治療の効果をより高める働きをすると、研究者らは述べている。


精神的な健康と身体的な健康に強い関係性があることはすでに複数の研究によって証明されてきているため、瞑想などのリラックスするための実践法は必要である。しかし、瞑想の効果についての現在の研究は、一般的に長期間瞑想を行っている人を対象にしている。


そこで、the journal Social, Cognitive, and Affective Neuroscience に掲載された新しい研究の研究者らは、いままで瞑想をしたことのない人の毎日30分間の瞑想をした場合の効果の可能性に注目した。

そのため、コーバーが率いる研究者チームは、瞑想に触れたことのない人々を対象とした。被験者の年齢は全員18歳から45歳の間である。


まず、30分間の瞑想をどう実践するのかを被験者に教えた。そして、2つの異なる状況を観察した。
最初の条件では、被験者に30の当たり障りのない画像と30の悲観的な画像を見せた。2つめは、暖かい温度と痛い刺激をそれぞれ30分間体験させた。
どちらの状況でも、研究者が感情的な反応の基準を推定できるように、被験者は通常の反応をするようにと指示された。
脳画像を使って、被験者がこの2つの異なる条件に反応している間、研究者らは基準を設けることができた。その後、被験者にはこの2つの状況で痛みを感じているか質問された。
例えば、額に熱を当てられている間、痛みの感覚について被験者は話す必要があった。ほとんどの被験者は、瞑想の状態にある時は痛みが和らぎ全体的な悲観的感情も減ったと報告した。


これらの変化は、脳内の変化と共に起きていたと研究者は言及している。「マインドフルな容認を使った感情のコントロールは、痛みや悲観的な影響の減少、悲観的画像に対する扁桃体反応の減少、そして中央と側面の痛みシステムの熱喚起反応の減少に関連性がある」といった文で説明している。


論文の主要著者であるコーバーは、これらの発見に対し、耐えられる程度の高温の方が非常な高温よりも脳が反応しているようであると述べ、コメントしている。


彼はさらに、「痛みや負の感情を体験した時にその瞬間に止まることのできる能力は、長期の瞑想の実践が無くても、マインドフルネスの実践が慢性疾病に医学的効果がある可能性を示唆している」という言葉でその重要性を示し、研究を結論づけている。