陰ヨガは一般的に、受動的なストレッチだとみなされますが、おそらくはそのためにより柔軟な人には効果のないヨガだと考える人もいます。陰ヨガの目的が、可動域を広げるためだとするなら、そうかもしれません。けれど、幸いなことに、陰ヨガは柔軟性を高めるだけではありません。
その他にも、陰ヨガには、とても柔らかい人でも得られる4つの利点があります。
1. コラーゲン合成
陰ヨガの対象となるのは結合組織や筋膜で、骨や筋肉、臓器、神経、血管、リンパ管などを囲んで包み込み、繋ぎ、互いに浸透しあっています。筋膜は適応性が高く、その場所の状態で必要となることへ常に反応しています。
ですから、陰ヨガのポーズは、筋膜をストレッチするというよりは、微細だけれど持続的な「ストレス」(圧迫や捻り、回転力なども含む)をも筋膜に与えています。これは、筋膜内の繊維芽細胞と呼ばれる特別な細胞を刺激し、ストレスの方向にコラーゲン繊維を新しく築いているようです。コラーゲン繊維は、軟組織の構造や強度を支え、体の各部分をひとつに繋いでいます。
この適応性は、筋膜だけに特有というではありません。筋トレで筋肉が強化されたり、カーディオトレーニングで心肺機能が高まったりすることはご存知でしょう。ですから、柔軟な人には、すでに柔らかい組織を弱めるのではなく、筋膜を強化し弾力性を高めることが陰ヨガには可能です。その鍵となるのは、深いストレッチではなく、感覚が持続するような優しい陰ポーズを行うことです。
柔軟な人が、深いストレッチではなく微細で持続する「ストレス」 を優先したバタフライポーズをするためには、膝の下にブロックを 置き、両手を床に置いて腕を伸ばし背骨を支える。 |
2. 水和反応
筋膜へのかすかなストレスには、筋膜層の液体を一時的に絞り出すなどの複数のフローオン効果があります。上記のように線維芽細胞をも刺激した結果コラーゲン合成が起こり、ヒアルロン酸という化学物質が作られます。保水力の高いヒアルロン酸は、周囲の組織から水分子を集めて筋膜へと戻し、陰ヨガを終えても数時間続く加水(再水和)を始めます。
スポンジを水中に浸けるのを思い描いてください。スポンジを絞ったり、捻ったり、引っ張ると残留した液体が出ていき、再度スポンジを満たしていく新しい水のスペースが作られます。
筋膜の健康的な機能に、良い水和(加水)が不可欠なのには、次の主な理由があります。
• 水和によって、筋膜層間がより滑らかに動くようになり、体表と体組織の間にある動きや血流が活発になり、炎症や癒着の可能性を下げます。
筋膜の健康的な機能に、良い水和(加水)が不可欠なのには、次の主な理由があります。
• 水和によって、筋膜層間がより滑らかに動くようになり、体表と体組織の間にある動きや血流が活発になり、炎症や癒着の可能性を下げます。
• 水には、圧迫に対する素晴らしい耐性があるため、しっかり水和している体組織は、日々の動きに対してより強くより弾力性を持ちます。水分に満たされたシステムの構造的な強さを思い描くには、水の足りていない植物を想像するとわかりやすいでしょう。葉の重さで茎がうなだれているところに、水をやるとすぐにまたピンと立ち上がります。
ツイストの優しい圧力で、陰ヨガの後も何時間も続く再水和の プロセスが始まる。 |
3. リラクゼーション反応
生理学的には、陰ヨガは、心拍数や呼吸、瞳孔の拡張、筋肉の緊張など無意識あるいは付随意の体のプロセスを制御している自律神経のバランスを整える効果があります。自律神経には2種類あります。交感神経は、闘争逃走反応を刺激し、感じ取った脅威に対して素早く明確に行動を促します。副交感神経はリラクゼーション反応を司り、日々の生活ではこちらが優勢であることが理想的です。血液を筋肉から消化器官、生殖器官、そして免疫系の臓器へと流す働きをします。
現代の生活はとても「陽」だということに異議を唱える人は少ないでしょう。行動していることを重要視し、途切れのない刺激に晒されています。今日の猛烈なペースの生活では、私たちの生態が意図しているよりもずっとSNSの方が活発であり、この崩れたバランスが私たちの体や心の健康に反映されているのに多くの人が気づいています。
陰ヨガは、交感神経を鎮静させるのに必要な、健康を取り戻す静寂を見出すための時間と場所を与えてくれます。陰ヨガポーズで、本当に休めるように体を支えられれば、警戒心が解かれて心拍数、血圧が下がる一方で、免疫や消化、再生機能が向上するのを感じられるでしょう。
大きな可動域を持つ人は、どんなポーズでも筋膜へのストレスを感じることはないでしょう。けれど、ただ静寂の中へと落ち着いていくことで、神経系への鎮静効果を得ることができるのです。
とても柔軟な人がバナナサナの大きなストレッチを感じないとしても、 静寂の中で休むことで神経系の大きな効果を得ることができる。 |
4. エネルギーの流れ
同じ土地の道路地図と天気図が全く異なって見えるのと同様に、体の西洋的な見解と東洋的なエネルギー体モデルは、無理なく共存しています。陰ヨガでいうエネルギー体とは、中医学から来ていて、「経絡」という特別な経路を通ると考えられている生命力の「気」で成り立っています。
中医学では、陰ヨガポーズで作られた体のストレスは、経絡を通る気の流れを刺激すると考えられています。お腹を圧迫するポーズは、腹部の臓器を圧迫することで胃の経絡にエネルギーを与え、健康的な消化を支えると考えられます。背骨に沿って伸展するポーズは、胸腰筋膜やハムストリングスに優しいストレスをかけるだけでなく、膀胱の経絡の内省的な質を高めて落ち着かせます。
中医学では、陰ヨガポーズで作られた体のストレスは、経絡を通る気の流れを刺激すると考えられています。お腹を圧迫するポーズは、腹部の臓器を圧迫することで胃の経絡にエネルギーを与え、健康的な消化を支えると考えられます。背骨に沿って伸展するポーズは、胸腰筋膜やハムストリングスに優しいストレスをかけるだけでなく、膀胱の経絡の内省的な質を高めて落ち着かせます。
西洋世界では、物理的な体のようにエネルギー体のことを身近に感じられないかもしれません。けれど、照明のスイッチを点ける時に、その効果を得るために電気の流れを見たり理解する必要はありません。同じように、陰ヨガ後の感覚の違いを感じるために中医学をしっかり理解する必要もありません。とても柔軟な人であっても、気の流れをよくする陰ヨガの効果が十分に得られるでしょう。
プロップスを用いたキャタピラー・ポーズは、柔軟な人が内観し元気を 取り戻すことのできる素晴らしいポーズ。中医学によれば、このポーズは 膀胱の経絡の内省的質を高める。 |
特に可動域の広い人がこの効果を高める鍵は、それぞれのポーズで以下の3つの原則に従うことです。
• ポーズの深さを緩めます。いつもの深さまでいくのではなく、ゆっくりとそれぞれのポーズに入り、最初に感覚を感じるところで止まります。それは、いつものポーズの50%程度の深さになるかもしれません。リストラティブヨガと異なり、目的はいくらかの感覚を感じることですが、大切なのは「いくらかの」ということです。
• リラックスできる場所を見つけましょう。新しいバージョンのポーズを掴んだら、時間をかけて、筋肉ができるだけしっかりとリラックスできるような姿勢をとります。床と体の間の空間を埋めるためにプロップスを使ったり、腕や壁にもたれてもいいでしょう。あるいは、座位の前屈をする代わりに、床に横たわって壁に脚をあげるというような、違うバージョンのポーズになるかもしれません。
• 静寂の中に留まりましょう。陰ヨガで対象とする組織である筋膜には、とても適応性があります。置いた場所の必要性に絶え間なく反応します。けれど、その反応はゆっくりで段階的です。ゆっくりと反応する筋膜に働きかけるため、リラックスした同じ姿勢で、少なくとも2分間は留まる必要があります。
• ポーズの深さを緩めます。いつもの深さまでいくのではなく、ゆっくりとそれぞれのポーズに入り、最初に感覚を感じるところで止まります。それは、いつものポーズの50%程度の深さになるかもしれません。リストラティブヨガと異なり、目的はいくらかの感覚を感じることですが、大切なのは「いくらかの」ということです。
• リラックスできる場所を見つけましょう。新しいバージョンのポーズを掴んだら、時間をかけて、筋肉ができるだけしっかりとリラックスできるような姿勢をとります。床と体の間の空間を埋めるためにプロップスを使ったり、腕や壁にもたれてもいいでしょう。あるいは、座位の前屈をする代わりに、床に横たわって壁に脚をあげるというような、違うバージョンのポーズになるかもしれません。
• 静寂の中に留まりましょう。陰ヨガで対象とする組織である筋膜には、とても適応性があります。置いた場所の必要性に絶え間なく反応します。けれど、その反応はゆっくりで段階的です。ゆっくりと反応する筋膜に働きかけるため、リラックスした同じ姿勢で、少なくとも2分間は留まる必要があります。
陰ヨガが、もう少し柔軟になりたいという人に役立つのは疑いようもありません。けれど、陰ヨガにはまた、しっかりと水和し、弾性と回復力のある軟組織を維持し、現代生活の絶え間ない刺激から神経のバランスを取り戻し、エネルギーの流れを調整する力があります。とても柔軟な人でも、陰ヨガを繊細に行うことでその効果を得ることが可能です。ポーズに深く入りすぎず、リラックスできる姿勢を見つけ、そこで辛抱強く静かに留まります。その鍵は、どんなヨガにもあてはまるように、何をするかではなく、どのようにするかということなのです。
(出典)https://yogainternational.com/article/view/why-flexible-people-can-still-benefit-from-yin-yoga
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