2017年12月8日金曜日

ヨガにおける対称でなければという俗説 
The Myth of Symmetry in Yoga

タダーサナ、または山のポーズは、他の全てのアサナの「青写真ポーズ」として知られています。この基礎的なアサナは、「解剖学的体位」に関係し、解剖学のテキストブックの身体図では一般的に「中立位」と称されます。つまり、左右対称で垂直に積み上げた姿勢でまっすぐ立つことです。タダーサナは、しばしばサマスティティという言葉と同意義に使われます。「均等な立位」という意味で、身体の両側が等しく対称であるということです。

この左右対称で等しい位置は、ヨガの生徒ならそれを身につける努力をするよう教わる理想形です。タダーサナの多くの効果には、姿勢を改善する、筋肉のアンバランスを矯正する、他の全ての立位ポーズの基礎を教えてくれるなどがあります。このタダーサナのような対称性を強調することで、多くのヨガの生徒たちは身体のどんな非対称性も本質的な問題だとみなしてしまいます。実際のところ、身体の非対称性の懸念はヨガ界だけに限られず、ボディワーカーや理学療法士、カイロプラクター、フィットネスや医療従事者などから対称のアライメントの重要性を教えられています。

例えば、立った時に片方の足が他方よりも外向きになりがちだと気づくと、これはバランスが崩れていて両足を前に向けるよう矯正しなければならないと感じます。あるいは、ジャヌ・シルシャサナ(頭を膝につけるポーズ)を練習していて片方の脚の方向の方が他方よりも前屈しやすいことに気づくと、左右が非対称なので等しくするために何かしなければならないと考えるのです。片方の肩が他よりも高かったり、片方の腰が他方よりも外転していたり、骨盤が中心から少し外れているなど、他の身体の非対称についても同じことが言えます。

ヨガでは理想的な対称性が直感的に価値があると思えるのですが、実際はこのよくある思い込みを裏付けする強固な証拠は存在しません。数え切れない科学研究が、身体の非対称性と痛み、機能障害、不健康になんら関係性はないことを導き出してきています。この認識は驚くべきことで、私たちの多くがヨガのティーチャートレーニングで教わったことと完全に正反対に思えるかもしれませんが、身体の中の構造を見ることが、私たちの対称に対する考え方を再調整し始めるのに役立つかもしれません。


内的には私たちはみな非対称である


ヨガが呼吸を中心にした練習であるにも関わらず、二つの肺がそもそも大きさも構造も異なっていることを正しく認識しようとはあまりしません。右の肺は三つの葉(よう)からできていますが左の肺はたった二つ、そして左の肺は実際は心臓の場所を作るために右の肺よりも小さいのです。そして心臓が中心の左にあると共に、大きな肝臓は中心の右にあります。あまり知られていない事実ですが、心臓と肝臓が非対称にあることで、主要な呼吸筋である横隔膜もまた非対称なのです!実際は横隔膜の右側は少し高い位置にあり、左側はやや低い位置にあります。
左右の肺

もしこうした非対称が私たちの体内構造の中で自然に作られたものならば、外見的に身体が非対称だったり非対称の動くことが本質的な問題だと考えるのは論理的なのでしょうか?いくつか例を見ていきましょう。


脊椎側湾症と背痛


脊椎側湾症、中心線の左右に反った脊椎カーブは、背中の痛みや機能障害の原因となる問題のある非対称だと教えられています。重症の脊椎側湾症は痛みを起こすこともあルノは事実ですが、穏やかで軽い側湾症と背痛や機能障害に因果関係を特定することに多くの科学研究が失敗してきているのです。

脊椎側湾症で身体の痛みを感じる人がいたとしても、それだけでは痛みが側湾症からきているという訳ではないことを忘れずにいることが重要です。相互関係は因果関係という訳ではなく、痛みとは、多数の単純化しすぎたモデルよりももっと複雑で多くの要因が関係する現象なのです。

側湾症の非対称が本当に痛みの必然的な原因なのならば、側湾症の人全てに背痛があるのが普通でしょうが、科学の文献によればそんなに単純なものではありません。実際、最近のある研究では、25歳から64歳の背痛のない500人を調査し、そのうちの13.4%が側湾症だとわかりました。他の研究では、50歳以上の男女760人の胸部レントゲンを調査したところ、全体の25%に側湾症が見つかりました。これらの研究は、側湾症というのは私たちが思っている以上にもっと一般的であり、痛みを全く感じない人でも全く気づかないまま側湾症である場合もあるということを示唆しています。


両脚の長さの違い


その他、身体の非対称で問題だと思われているのが、片方の脚が他方より長いという脚の長さの違いです。この脚の長さの違いが骨盤や成虫の非対称を作り、背痛を引き起こすと考えられています。しかし、こうした考えと異なり、多くの科学研究によって、脚の長さの違いと背痛に因果関係のないことがわかっています。そして驚くことに、若干の脚の長さの差異には、私たちのほとんどが全く気づいていないのです(その数90%だと裏付けが示しています!)。これは、ほとんどの脚の長さの差異というのは良性であって、非対称が全て病気に繋がる訳ではないことを示唆しています。


筋肉のアンバランス


ヨガの世界で注目を集めている他の非対称と言えば、筋肉の強さのアンバランスです。このアンバランスは、しばしば痛みや機能不全、悪い姿勢の原因だとされています。典型的な例としては、胸の筋肉(胸筋など)が強すぎ一方で上背(菱形筋など)が弱すぎるためだと考えられている肩が前に丸まった姿勢でしょう。このように理解されたアンバランスに取り組むため、ヨガの指導者は大抵の場合、タダーサナで生徒の身体を再調整し、中立で理想的な姿勢を見出す手助けをします。

しかしながら、筋肉のアンバランスが痛みや機能不全の原因となるという考えは、そもそもそれを支持する証拠に欠けています。筋肉のアンバランスは、習慣的に行う動きに対して身体が行った正常で健康的な調整の結果であることが多いのです。例えば、ギター奏者を見てみましょう。ギターを習慣的に弾き始めると、片方の手(通常は左手)の指に特徴的なタコができることはよく知られています。これは、ギターを弾く行為に適応する身体の正常の反応です。この非対称のタコは楽器が弾きやすくなるためには通常望ましいと考えられており、こうしたタコが病的であって左右を対称にするためにギター奏者は右手にもタコを作らなければならないと考えることなどありません。そんなこと馬鹿げています!

筋肉のアンバランスも同じように考えることができます。私たちの身体は、かかる負荷に反応して強くなっていき、その負荷は対称でも非対称でも同じです。例えば、テニス選手の筋肉や骨は、利き腕の方が強くなります。サッカー選手なら、両脚の強さはアンバランスになり、四頭筋とハムストリングスもアンバランスになりますが、そのせいで膝の怪我をしやすくなるわけではありません。オーストラリアのサッカー選手らの腰筋では、キックする脚の方が大きかったのですがこの非対称が怪我に関係するわけではないとわかりました。そして皮肉にも、クリケット選手で筋肉が非対称である者よりも対称である者の方が痛みが多いこともわかりました。

ヨガとタダーサナの議論にもっと関連した研究では、そのように広く信じられているにも関わらず、前かがみの肩が痛みと関連しているとか、胸筋と菱形筋のアンバランスが肩関節インピンジメント(肩の痛みの原因だと一般的に考えられている状態)と関連しているという証拠はないのです。


自然は非対称で溢れている


自然を見れば、自然界の生物は皆、バランスを保っていますが対称というわけではありません。木を考えてみましょう。木は完全にバランスのとれた構造をしており、そのまっすぐな姿勢を保つことができます。けれど、その中心にまっすぐな線を描いたと想像すれば、左右に対称ではないことは明らかです。

木の外見は、それが育った環境によって作られています。どの方向からどれくらいの風に晒されてきたのか、水平なのか傾斜した地面なのか、どの角度で陽の光が当たるのかなどの要素全てが、その木の最終的な構造を形作るのです。私たちが木を見るときそれが木だとはわかりますが、最適な健康状態と寿命のためにまさにあるべき構造を示す理想的な形というのは存在しないのです。

木にも自然な多様性があるように、人間の身体の形状にも自然な多様性があるのです。


対称のためではなくバランスのためのタダーサナ


タダーサナはヨガの生徒が練習しなければならない中心的なアサナです。タダーサナのアライメントの理論は身につけるために役立ちますが、自分の身体と自分のアライメントをより明確に見るためのものなのです。ヨガの指導者がタダーサナの「中立位」のアライメントを、痛みや機能、健康を理由に当然のこととして重視するのなら、生徒には逆効果のメッセージを送ることになります。

タダーサナは、身体が取れる無限にある状態のたったひとつでしかありません。人間の身体は適応可能で柔軟、そして痛みなく多くの様々なアライメントでちゃんと機能することができます。非対称でも、脊柱が曲がっていても、両脚の長さが異なっていても、筋肉のアンバランスがあってもです。対称的なアライメントが他のアライメントよりも理想的であるという信念は、科学的証拠に基づくものではないのです。

興味深いことに、ヨガの世界では、同じ部屋にいるより「上級者」であろう生徒と自分を比較することを避けなければならないという広い認識があります。同じポーズで他の人がどう見えるのかを思い煩わないで、その瞬間の自分の身体に適したヨガポーズの型を受容するということ学ぶべきだと教わります。

しかし、タダーサナのようなポーズで対称で「最適のアライメント」をイメージするとき、私たちは誰かと比較していることはあまり認識されていません。想像上の、対称で垂直に立った解剖学テキストの図の人と比較しているのです。解剖学について学ぶというゴールのためにはそうした図は有用なものですが、身体があるべき最適な位置を示しているわけではないのです。それはただ解剖学と医学分野での参考として使われる任意の位置に過ぎないのです。

身体の対称性を強調するより、ヨガでもっと効果的なのはバランスに注目することです。この二つのことを一緒にしたくなるのですが、対称が左右が同じだということに対し、バランスとは安定した位置であることです。木が倒れないようにその環境に適応したようにです。

例えば、ヨガのウッティタ・パルシュヴァコナサナを見てみましょう。このポーズでは前脚に無意識に寄りかかってしまうことがよくあります。そのため後ろ脚からのグラウンディングの感覚を失い、安定を失ってしまいます。後ろの腰から後ろの踵までの床に下ろす感覚が得られると、もっとバランスのとれたポーズに入れる人は多いのです。対称である必要はなく、バランスが必要なアサナなのです。もしこのような人がこのポーズをしていたら、倒れてしまうことはないでしょう。もっとバランスのとれた方法でポーズを捉えているからです。

この理論は、タダーサナや他の全てのヨガポーズに全体的に当てはまります。安定感や地に着いた感覚、身体の安らぎを感じることができるなら、自然に非対称な身体はその完璧なバランスを見出しているでしょう。



(出典)https://yogainternational.com/article/view/the-myth-of-symmetry-in-yoga

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