腰痛の原因と改善法のひとつを紹介した記事です。
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「左右で目で見える違いはある?」私はそう聞いた。私の友人でマッサージ・セラピストのジュリアは、私の腰まわりにある常に固まった筋肉をほぐしてくれていた。
「そうでもないわ」彼女は言った。
私は、枕から頭を上げて驚きを示した。時々、身体の左右が全く違っていて、まるで完全に分かれた2つの身体の中で生きているように感じることもあった。
「ちょっと待って」彼女が言った。「そこに寝ているときは、すごく対称に見えるんだけど。動くと、背中の筋肉に力が入って違ってくるの。わかった!」
「頭をあげる時に片方の筋肉だけが立ち上がる」彼女は続けた。「もう一方はそうならない」
それは、慢性的に痛む側弯した脊椎だけに関係しているわけではなかった。脊椎の横に走っている脊柱起立筋の片方だけがいつも堅く、痛みを感じている。
身体には、脊椎をまっすぐ安定させ続けるための方法がいくつかある。骨や靭帯、筋膜鞘など受動的な非収縮性の構造や、能動的に収縮する筋肉などが使われ、脊柱の安定性に重要な役割を担うことが研究により示されている。
長い筋肉の下で脊柱に平行に走る筋肉は多裂筋と呼ばれる。まあ、多裂筋はまるでひとつの筋肉のように言われることもあるが、実際は、腰から首にかけて脊柱の棘突起の長さで走っているとてもたくさんに分かれた筋肉だ。各多裂筋は、2〜4つの椎骨の長さで脊柱の棘突起についている。
腰にある筋肉全てが脊柱を支持する役割を担っているが、多裂筋の役割は重要だ。脊柱の複数の各関節間を支える役割の大部分を担っているのだ。「The Multifidus Back Pain Solution」の著者、理学療法士ジム・ジョンソンによれば、実際のところ多裂筋は脊柱の筋肉支持のなんと3分の2に寄与している。
多裂筋の重要な役割
脊柱全体に伸びているが、多裂筋は厚いので腰のあたりで容易に触診(触れること)ができる。自分の多裂筋を感じるには、肋骨の下そして骨盤の上にある腰のあたりの腰椎の横に指を置いてみよう。次に少し歩いてみる。動くたびに脊柱を安定させている多裂筋を指の下で感じるはずだ。
多裂筋は、最近注目を集めてきている「不良」筋肉のひとつだ。過去10年でとても多くの研究がなされてきている。というのも、近年、超音波により腰痛を持つ人の中に、多裂筋が片方だけ(つまり痛みのある方だけ)小さいか弱いということを示してきているからだ。
先の研究では、腰痛の治療を1年間受けた者の中で、多裂筋のエクササイズを行なったボランティア・グループのうち痛みを再発したのはたったの30%だったのに対し、エクササイズを行わなかったコントロール・グループでは一年後までに痛みを発症したのは84%になった。
今や悪評高くなっている多裂筋だが、たったひとつで孤立して生きる筋肉など存在しないということを忘れないのが重要だ。多裂筋は、身体の内側のコアを作る4つの筋肉のひとつにすぎない。あとの3つは、腹横筋、横隔膜、そして骨盤底にある筋肉群だ。
しかし、多裂筋は独特で、非常に多くの筋紡錘がある。筋紡錘とは、筋肉にある感覚受容器で、筋肉の長さの変化と感知しその情報を中枢神経へと報告する。中枢神経はその情報を使って体の今の状態を計算する。
どんな時でも、それぞれの部分がどこにあるのかを感じる体のこの能力は、固有受容性感覚と呼ばれる。固有受容性感覚のおかげで、フォークを持ち上げた時にどこに口があるのかわかり、また目を閉じた状態で鼻を触ることができる。(酔っ払っていなければ)
姿勢筋は体を支え、相性筋は体を動かす
姿勢筋は反重力の筋肉で、体を直立させる役割をする。これらは一般的にからだの深部にある。時に遅筋とも呼ばれる。例えば、桃の前にある大腿直筋は姿勢筋で立位を保つ。姿勢筋として、多裂筋は前屈に抵抗するのに左右対称(つまり脊柱の両側)に働き、そのおかげで何かを拾おうとかがむ時にも前に転げることはない。
相性筋は姿勢筋の補完的なパートナーだ。相性筋は体を動かす役割をする。一般的に表面にあり、速筋とも呼ばれることもある。例えば、大臀筋は歩く時に体を前に進ませたり座位から立ち上がる時に体を持ち上げたりする力強い相性筋だ。大臀筋が体を動かしている一方で、多裂筋は脊柱を直立維持させるのに忙しいのだ。
姿勢筋も相性筋も骨格筋で、随意筋に分類される。随意筋は内臓を作る滑らかな筋肉と相反する。内臓は意識的なコントロールや同意なしに(例えば、小腸が何をしているが考えることもない間に)働き続ける不随意筋である。
「良い姿勢」を再考する
「良い姿勢」と言えば、単純に慎重で怠惰に打ち勝ち「まっすぐに立つ」ことを思い浮かべることが多いだろう。一般的にはそうではないのだ。
姿勢というのは、認識の表面下にある意識の氷山の一角に圧倒的に支配されているものだ。解剖学書には随意筋とされているにも関わらず、姿勢筋の多くは、実際には自律神経に支配されている。つまり、それらのほとんどは無意識に調整されているということだ。
特に私たちのように座ってばかりの社会では相性筋が怠けがちな一方で、姿勢筋は働きすぎて過敏になりがちだ。多裂筋も働きすぎたり、働かなすぎたりするが、腰痛に関して言えば、私が見てきた研究のほとんどがその十分に働かない、あるいは抑制されている傾向に焦点をあてている。
すべての筋肉は、何をするかを伝える神経系に依存しており、確かな情報伝達が不可欠だ。抑制は単に筋肉の強さ弱さの問題ではない。伝達の問題なのだ。
中枢神経系は、効率的で習慣の虜である。委任すべき仕事があるときは、もっとも信頼できる「最初に反応するもの」に呼びかける。これによってある筋肉が慢性的に使用され続け(神経的に刺激が多すぎる)、その一方で抑制された筋肉が神経系に習慣的に無視され続けることになる。
弱い筋肉を強化するのは良いことである。しかし、中枢神経との伝達がうまくいっていないために抑圧されている筋肉に強化のエクササイズをしたらどうなるだろうか?身体の筋肉バランスがもっと良くなるのか、それとも補完のパターンを強めることになるのか?私は、どちらもありうると考える。
テーブルトップの状態から多裂筋を強化する標準的な方法を見てみよう。補完パターンを防ぐ慎重な方法を取り入れてもいい。
- 両手を肩の外側の幅(これは、鎖骨の間にある喉下の窪みから両方に水平に伸ばした両肩の外側への最大の長さ)に開き、両膝を腰の下に置いて「テーブルトップ」になる。
- 顎と上半身を柔らかにする。
- 下腹を引き締め、肋骨の前を床から離して持ち上げ、ハンモックのように垂れて背中を圧迫しないようにする。
- お腹の力を抜かずに尾骨を伸ばす。「怖いハロウィンの猫」みたいに床に落ち込まず、「ハッピーな猫」のように上へと解放する。これをお腹のサポートなしで行うと、可動域の大きい人は特に腰を圧迫する可能性大だ。
- 右足を身体の後ろへ。今は足指の付け根を床につけたままで、ゆっくりと呼吸する。急いで動かないように。腰が左に傾いているのに気づいたら、センターに戻る。肋骨の前を床から遠ざけ続けるのが難しいかどうか観察する。これは思っているより難しいかもしれない。
- 歩く時に感じていた多裂筋を思い出そう。そのあたりに意識を向ける。脊柱の両側にある多裂筋が、エレベーターのドアのように閉じるのをイメージする。多裂筋が抑制されているなら、想像することで神経系がもっと明確な地図を描く助けとなるだろう。
- センターで肋骨を持ち上げ続けられたら、ゆっくりと後ろの脚を腰の高さまで持ち上げる。そこで数呼吸。
- もし、上記の姿勢を保つことができたなら、左腕を身体の前にまっすぐ床と平行になるよう伸ばす。左の親指をヒッチハイカーのように天井に向け肩を開き続けよう。
- なめらかな動きを続けながらテーブルトップに戻る。
- 快適なニュートラルのポジションで数呼吸休む。このステップはとばさないように。休むことで、神経系が動きを処理して学ぶ機会を得ることができる。
- 強くになってきたら、このエクササイズを両サイドで数回続けよう。
いくらか驚き、興奮さえしてくるが、このエクササイズは使いすぎた多裂筋に効果がある。筋繊維を短くしている神経の状態を、この筋肉を使うことで改善することができる。筋肉を使った後は、神経系がその筋肉を休んだ長い状態にリセットすることができるのだ。
多裂筋が単に弱いなら、このエクササイズで筋肉を使うことで強化できる。もし抑制されているのなら、エレベータードアのイメージをしながら使うことが役立つだろう。
多裂筋は、左右対称の安定させる筋肉なので、背骨の左右両方に効く。背骨の両側の筋肉が適切に対象なら問題ではない。がしかし、脊椎側湾症などの場合、片側が抑制されている一方で反対側は促進されている。その場合、多裂筋を左右対称で動かすのは良い方法ではあるが、ほかの動きも考えられるだろう。
安定に加えて、多裂筋はまた、背骨の伸長、あるいは後屈を補助する。特に重力に反して行うコブラ・ポーズ(ブジャンガサナ)やバッタ・ポーズ(シャラバーサナ)のような伏臥の後屈においてだ。また、側屈や反対側への回旋もできる。
私のフェイスブックページで聞いたバカな質問に応えて、理学療法の学生でありヨガインストラクターのマーガレット・ピトキンは、その筋肉だけを特に動かすことに対する実現性や必要性について疑問をしめした。理学療法の動向は機能運動に向かっており、近視眼的な特定の運動からは離れて行っている。
機能運動は、よい生体力学的筋肉と関節機能をもって、痛みや無理なく日々の中で行える動きだ。異種の機会的な部分であるかのように筋肉を隔離するというのとは、全く異なるアプローチだ。機能運動は、ヨガのホリスティックなアプローチとうまく合うようだし、私のヨガを教えるアプローチとも似ている。