前回は、ヨガにおける肩の健康に影響を与える解剖学的な隠れた不均衡を探りました。ヨガは完全な「バランスの良い」実践だと言われることが多いのですが、アサナの動きを分析するとそうでもないことがわかります。伝統的なヨガは、肩の「押す」筋肉を強化するにはとてもよい働きをしますが、反対のグループである肩の「引く」筋肉を強化することはありません。ヨガは無数の効果がある素晴らしい活動であることに違いはなく、ヨガの持つこの不均衡は決して欠陥ではありません。それはただ引くための対象を用いないマット上での実践であるというだけです。この押す・引くという動きの不均衡にが結果的にヨギたちの肩の機能的強さのバランスを崩し、長期的な怪我のリスクを高めることもあるのです。
幸いにも、ヨギがこの強さのアンバランスを直すために可能な効果的で創造的な方法はたくさんありますが、伝統的なヨガではない他の運動にも目を向ける必要があります。ヨガマットの上で行う押すポーズとのバランスを取るための引く動きを習慣的にやれば、肩に本当に機能的なバランスを取り戻すことができるでしょう。それではここで、ヨガで行う押す動きとのバランスをとるための方法をいくつかご紹介しましょう。
ブランケットを使ったサーフィン
これは私の好きな動きの一つです。とても効果的な肩を引くエクササイズで、ヨガの練習に取り入れやすいです。
ヨガブランケットをヨガマットのサイズくらいに折りたたみ、硬いフローリング(あるいはその他なめらかな面)に置きます。ブランケットの上にうつ伏せになり、手のひらを床に向けて腕を耳の横で前に伸ばします(腕以外の全身をブランケットに乗せて置きます)。息を吐きながら、両手を床にしっかりと置いたまま体を手の方向へ引きます。体とブランケットを前に滑らせながら、左右の肩甲骨を引き寄せましょう。動きの最後には、肘が曲がり両手は胸の横あたりにあるはずです(手首の可動域によって、胸よりも前後するかもしれません)。そこでまた腕を前に伸ばし、てのひらを床に根付かせて繰り返します。
プルヴォッターナサナ(上向きの板のポーズ)
ヨガでこのポーズを好きな人はほとんどいないことに気づいていましたか?これは実際に肩を引く筋肉を使う珍しいアサナだからです!そして、一般的に肩を引く筋肉は肩を押す筋肉よりもかなり弱いため、多くのヨギにとってこのポーズはとても難しいのです。プルヴォッターナサナは、厳密に言えば、自分の方に何かを引くわけではないので肩を引く動きではありませんが、引くための筋肉の一部に効果的です(全ての筋肉ではないにしても)。ヨガの指導者には、この素晴らしいポーズを飛ばすか、クラスに一度くらいしかやらない人が多いです。けれど、ヨガでかなりの肩を押すポーズをすることを考えると、プルヴォッターナサナはできるだけ行った方が良いのです!
まずは、ダンダーサナ(杖のポーズ)で、指を前に向けた手を腰の後ろ20センチあたりに置きます。息を吐きながら、両手両足を床に押して腰を空へと持ち上げます。そのまま5回呼吸してから、ゆっくりと腰を床まで下ろしましょう。
レジスタンス・バンドでボート漕ぎをするダンダーサナ
私の解剖学の先生であるジェイソン・レイ・ブラウンは、数年前にヨガに押す・引くの不均衡があることに気づきました。創意に満ちた彼は、クラスにレジスタンスバンドを取り入れて、以下のような運動をシーケンスに入れることにしました。レジスタンスバンドという従来は使われていない補助具を必要とはしますが、どんなヨガクラスにも簡単に組み込むことができます。
ダンダーサナから始めます。レジスタンスバンドを足指の付け根にかけて、バンドの両端を手を持ちます。息を吐いて、肘が後ろの壁の方へ移動するようにバンドをまっすぐ引きます。息を吸って、ゆっくりと前に腕を戻しましょう。筋肉が疲れるまで何度も繰り返します。バンドの硬さによりますが、20ー50回ほどボート漕ぎをします。
ぶら下がりと懸垂
ぶら下がりは、ハンドスタンドなどの逆立ちに対するほぼ完全な補完と言えるでしょう。ハンドスタンドが、両手を地面に置いて行う垂直に押す動きである一方、ぶら下がりは、バーを掴んだ両手でハンドスタンドの逆をするようなものです(垂直に引く動き)。逆立ちを習慣的に練習していなくても、ぶら下がりはヨギにとって(そして体を持つ誰にとっても!)とても良い肩を引く動きであることに違いはありません。
もし、ほとんどの人と同様に、子供のころのジャングルジム以来ぶら下がったことがないのなら、いきなり完全にぶら下がらないことが重要です。肩というのは、体重全てを支えながらぶら下がる動きには適していません。まずは安全に懸命に、怪我をしないでぶら下がれるようになる必要があります。完全なぶら下がりで体重を支えられるほど肩の引く筋肉が強くなってから、何の補助もなく完全な懸垂がマスターできるよう練習してみましょう。
ロック・クライミング
ロック・クライミングは、ヨガの不均衡に対抗するすばらしい活動です。ヨガは、床から体を押して話す動きばかりですが、ロック・クライミングは、登っている岩肌に向かって体を引く動きだけで成り立っています。やったことがない場合、ロープやハーネス、特別な靴などについて知っておいて損はないでしょう。ほとんどのジムでは初心者クラスもあるので、すぐに基本が身に付くはずです。
これらは、肩を引く筋肉を強化するための数えきれないほどある選択肢のほんの一部でしかありません。いくつかを試してみて、ヨガの練習で慣れている押す動きとの違いに気づいてみましょう。多くの場合、体をさまざまな方法で動かせてみればみるほど、同じ動きを繰り返すよりも、ヨガの練習で得ようとしている本当のバランスと健康を養うことができることでしょう。
(出典)https://yogainternational.com/article/view/does-traditional-yoga-lead-to-muscular-imbalance-part-2/