2021年4月26日月曜日

初心者のためのムーラ・バンダ(ルート・ロック) 
A Beginner’s Guide to Mula Bandha (Root Lock)

前回は、骨盤底筋についてでしたが、今回は伝統的なヨガにおけるバンダのひとつとしての観点を探った記事をみていきます。

ーーーーーーーーーーーーーーー

ムーラ・バンダ(ルート・ロック)は、重要なヨガの実践であるが、大抵の場合ヨガの教本の後ろの方に押しのけられている。サンスクリット語の「ムーラ」の意味は植物や木の根のことである。英語において「ルート Root」はまた、物体の足や土台、ものの出どころ(問題の原因など)といった意味もある、ここでは、「ムーラ」は胴部の基部、つまり会陰を表し、脊椎に沿って存在するエネルギーの中核で最も低いムーラダーラ・チャクラと深い関係がある。


「バンダ」という言葉には多くの意味があり、矛盾したものもある。例えば、この言葉はこれまで「束縛する、遮断する、抑制する、妨害する、制止する、固定する」などと訳されてきた。この意味において、バンダは川を堰き止めるものと描写される。しかしまた、「結合する、接続する、合わせる、統合する、組み合わせる、連結する」などとも解釈される。この意味では、バンダは川にかかる橋である。これらの異なった意味をどのようにとらえればいいのだろうか?ムーラ・バンダの実践を詳しく調べれば、おそらく答えそのものが自ら姿を表すはずである。




ヨギがムーラ・バンダを練習する訳


ムーラ・バンダは、安定と鎮静をもたらす。また集中のエネルギーを高める。


ムーラ・バンダは、プラナヤマや瞑想のどちらでも行われ、呼吸法が終了し瞑想が始まる時の一貫性をもたらす。権威のある「ハタヨガ・プラディピカ(ハタヨガの光)」の著者であるスヴァートマーラーマはこう述べている。「ムーラ・バンダを実践することにより・・・総合的な完成が得られることは疑いの余地がない」これは大変印象的な言及である。しかし、これを真剣に受け止めて良いのか、また、この実践を学ばせるための誇張表現だろうか?では、心身を支えるエネルギーのシステムを見ていこう。それによってスヴァートマーラーマが主張する観点が見えてくるはずだ。


プラナの主軸は脊柱であり、会陰から頭骨の基部へと立ち上がっている。この軸は、シュシュムナと呼ばれるエネルギーの経路(ナディ)の中心だと言われている。イーダとピンガラとして知られる他のエネルギーのふたつの経路は、脊柱にそって基部からそれぞれ左右の鼻腔へと上方に向かって絡み合っていると記述されている。通常では、これらのふたつのナディは、複雑で階層に分かれたエネルギーの経路ネットワークを司っている。どちらかが活性していると、全システムの機能に影響を与える。


ウパニシャッドではプラナを、止まり木に繋がれた鳥のように、イーダピンガラに繋がれていると例えている。枝のあちこちに飛び回って、決して自由を見つけることなく生きている。ヨガの達人たちによれば、イーダとピンガラが無意識に交代することを制止し、このふたつに分かれたエネルギーの流れを統合することができるという。これが文字通りハタヨガの意味である。ヨガとは、(右の息)と(左の息)を結合することである。これらの流れが統合されたとき、プラナは自由になり脊椎の中心の経路を上昇して、頭頂にある究極点サハスララまで達する。このプロセスの最初の段階は、シュシュムナの覚醒だと言われる。この覚醒を得るための練習が完全さをもたらすのだが、それがスヴァートマーラーマがムーラ・バンダを賞賛する理由のひとつである。




3つのバンダ


ヨガの達人たちによれば、エネルギーの外側への流れを制止しシュシュムナの上向きの流れと統合するための3つの実践があるという。胃部のロックであるウッディヤナ・バンダでは、息を吐き腹部を脊椎に向かって引き込む。これが臍の中心のエネルギーを活性化させる。顎部のロックであるジャランダーラ・バンダでは、顎を喉元に引き下げ、そこにあるイーダとピンガラを通るエネルギーの通常の経路を力で止める。3つ目がムーラ・バンダで、会陰中心で筋肉を強く収縮させる。これらの筋肉収縮は、神経系や循環器系、呼吸器系、内分泌系に影響を与え、特に重要なのは、内的エネルギーのシステムであるプラナに影響することである。


スヴァートマーラーマは、これら3つ全ての実践は秘儀であると主張する。つまり完全な効果を得るためには、正確なヨガの方法で行わなければならず(自身の師により教わる)、ただ身体的に動かすだけではないということを彼は意味している。これらのテクニックに関する完全なサッダーナ(実践のルーチン)は、秘密にしておかなければならず「宝石のように、そして、妻との個人的な関係を他者に話さないのと同じように、誰にでも話すことではない」多くの抗議もあるが、師も生徒も同様に、より高度な実践は、訓練の準備段階を終え精神の指導者との直接的な関係を持った十分な資格をもった志望者のためのものであると彼は忠告している。とはいうものの、ムーラ・バンダの準備段階バージョンは、全ての生徒に適しており、健康とともに自己認識によい効果をもたらす。



簡単な解剖学レッスン


ボウルの形をした腰帯(寛骨)は3つの融合した骨からなっている。腸骨、坐骨そして恥骨だ。骨盤は底面が開いていて(骨盤下口)、そしてこの開口部の基部を会陰と呼ぶ。上から見ると、会陰はダイアモンドの形をしている。尾骶骨(脊椎の基部)はこのダイアモンドの背部にあり、ダイアモンドの前部は、ふたつの恥骨の間の関節である恥骨結合。左右の角は二つの坐骨である。


ムーラ・バンダは、会陰の中央と密接に関連している。男性では、ムーラ・バンダは肛門と性器の間にある会陰体の周囲にある筋肉群を収縮させることで得られる。いくつかの書物では、この部分の下部に軽い圧力をかけることで(巻いた柔らかなソックスや特別に作られたクッションの上に座る)、収縮が刺激される。片方のかかとの上に座って圧力をかける姿勢も記述されている。女性では、ムーラ・バンダは会陰体ではなく子宮頸部のあたりに感じると言われている。男性と同様、会陰中央に柔らかいクッションを置くと刺激されると言われる。


実際的に言えば、意識を会陰の後部、前部、中央すべてに同時に集中しなければならない。ムーラ・バンダを練習するには、会陰を中央で活性させる方法を学ばなければならない。


ムーラ・バンダが快適に維持できるようになれば、プラナヤマや瞑想の間も使えるようになる。



ムーラ・バンダの練習法


大抵の場合、会陰部の筋肉群だけを収縮させることは困難であるため、ムーラ・バンダの気づきを得るには毎日の練習が問題となる。焦ってはならない。というのは、ゆっくり段階的に練習すれば筋肉を強化させるとともに精神的な識別力が養われるからである。練習で厄介なのは、会陰の筋肉群は一緒に働く傾向にあり、一箇所を収縮させると全てが収縮することが多い。また、会陰筋肉群とともに呼吸筋群もまた無意識に緊張してしまい、身体の他の部分でも余計な交感神経的な緊張が起こりやすい。そこだけを選別するよう注意してたくさん練習をしなければならない。



STEP 1

最初の課題は、会陰の筋肉群を収縮・弛緩する単純な能力を養うことだ。まずは、瞑想をする直立姿勢で座る(できれば脚を組んだ座法で)。目を閉じ身体を休め、呼吸をリラックスさせ、胸郭の左右が広がったり縮んだりするのを感じながら、上腹部の緊張を解く。
  
調整しようとせず自由に呼吸をし、前方、中央、後部と会陰全体の筋肉を内へ上方へと締め付けて収縮させる。呼吸はできる限り安定させ、止めることなく流れるように保つ。ゆっくりと締め、収縮が完全になったらゆっくりと解放する。このエクササイズでは、それぞれの部分を区別しようとせず、意識を高めながら会陰全体の筋肉群を強化する。これを25回繰り返す。


STEP 2

次は、会陰の筋肉群全てを収縮させ、快適な範囲で保持する。緊張を保っている間もゆっくりと滑らかな呼吸を続ける。肛門あたりを感じ、そして会陰体や子宮頸部の中央部を収縮させ、そして最後に泌尿生殖器あたりの収縮を丁寧に観察する。それぞれに集中しながら締め上げて、その感覚を感じよう。そして、ゆっくりと全ての収縮を解いてリラックスする。


STEP 3

今度は、呼吸とともに会陰部全ての収縮をまとめる。息を吸い込んで会陰を収縮し、ゆっくりを息を吐き出して緊張を解く。呼吸と同期するように収縮のタイミングを合わせよう。ぎこちない動きやコントロールを失うことも、時間とともに徐々に減っていく。この練習の間、会陰の中央部分に集中するようにし、ムーラ・バンダにと深くつながっていく感覚に特に注意を向ける。このエクササイズを25回繰り返す。


STEP 4

最後に、準備ができたら、注意を会陰の中央に集中させ、そこの筋肉を収縮しながらも肛門や泌尿器あたりをできるだけ動かさないようにする。これがムーラ・バンダの初期段階バージョンであり、これを得るには時間がかかるだろう。急ぐ必要はない、それよりも時間をたっぷりかけて練習する方が良い。


STEP 5

一旦、呼吸に影響することなく、他の交感神経系の筋肉緊張を弛緩させたまま収縮を維持できるようになれば、しばらくの間は快適にムーラ・バンダを維持できるようになるだろう。



ムーラ・バンダの利点


この記事の最初で、バンダという言葉の二つの意味について答えを探った。ひとつはエネルギーの流れを堰き止めると解釈し、もうひとつはエネルギーを統合するための橋と表現していた。ここに述べられている練習を行えば、反対の意味を持っているようなこれらをすでに内的に納得しているだろう。ムーラ・バンダには、会陰でエネルギーを制止する効果があり、その意味では安定させ鎮静させるものである。また、集中するエネルギーをやさしく高める効果もある。また、意識の声がより明確に聞こえるように、ラジオの周波数を正しく合わせるようなものである。


ムーラ・バンダに関連する身体的な利点はさまざまである。この練習を通して得られるのは、生理不順が規則正しくなる、呼吸数が遅くなる、心拍数や血圧が下がる、交感神経の興奮が抑えられる、消化力が向上する、泌尿生殖器機能が調和するなどである。こうした効果はヨガの達人らによって言及されているが、これらを調査した科学的研究はまだ数少ないようだ。ヨギにとってより重要なのは、ルート・チャクラにあるエネルギーの下方への動きと、ハート・チャクラにある上方への動きが逆になって、これらのエネルギーが統合されると言われていることである。この内なる統合が気づきの広がりをもたらすのだ。


ムーラ・バンダの習慣的な練習により、少なくとも、筋肉の収縮が集まる場所がより確かに感じるようになるだろう。そこが、ムーラダーラ・チャクラの場所であり、そこから身体のエネルギーが精神へと広がると言われている。このエネルギーが穏やかで安定していれば、人生自体もよりリラックスしたものになるのだ。





(出典)https://yogainternational.com/article/view/a-beginners-guide-to-mula-bandha-root-lock



0 件のコメント:

コメントを投稿