2022年12月23日金曜日

冬の便秘:原因とアーユルヴェーダの療法 
Constipation In Winter: Causes And Ayurvedic Remedies


冬になると便秘になりがちですか?水分不足、食べ過ぎ、お茶やコーヒーの摂り過ぎなどは全て、便秘の原因となり、冬の体調を悪化させる可能性があります。どうすれば冬の便秘を防ぐことができるでしょう?腸の健康のためのアーユルヴェーダ療法を見ていきましょう。


ビルラ・アーユルヴェーダでアーユルヴェーダ・コンサルタントをしているアヌ・シュリーダー医師によれば「お通じが1日置きでも、全く正常だという人もいます(とは言っても、アーユルヴェーダでは毎日になるような方法を勧めてはいますが)。また、1日でもお通じがなければそれは全くの便秘である人もいます。アーユルヴェーダにおけるほとんどの事柄と同様に、何が健康で正常であるかというどのような万人にあてはめる定義よりも、個々人の状況(と環境)の方がより重要なのです」



便秘とは?


便通が困難、あるいはしばらくの間全く動きがないことを便秘と言います。しかし、以下の1項目以上の症状がある場合、便秘であることも多くあります。

  • 排便の際の圧迫感
  • 排便ができない
  • 腸の動きが不十分だと感じる
  • 閉塞感を感じる
  • 便そのものが小さく、固く、乾燥している(必ずしも便秘とは限らない)



便秘の原因とは?


便秘は、食物繊維、薬、健康状態など、さまざまな原因によって起こります。

アーユルヴェーダでは、体内で働くエネルギーのタイプを3つのドーシャに分けています。人はそれぞれ3つすべてのドーシャを持っていますが、そのうちのひとつが優勢になっているのが普通です。個人の体質、特徴、体力などは全てその人のが持つ優勢なドーシャの現れです。


3つのドーシャの概要は以下です。
  • ヴァータ:「風」「空」のエネルギー、動きに関連
  • ピッタ:「火」「水」のエネルギー、代謝に関連
  • カパ:「土」「水」のエネルギー、体格に関連

3つのドーシャが組み合わされて、体の機能をコントロールしています。病気や機能不全などはこれらのバランスが崩れたことによって起こります。

アーユルヴェーダでは、便秘はその中心が腸にあるヴァータの乱れによって起こるとされています。



アーユルヴェーダの視点からみた便秘


アーユルヴェーダによれば、便秘は、ヴァータの冷たく乾いた性質が腸を混乱させ通常の働きを阻害することが原因とされています。増え過ぎたヴァータを鎮める方法は、水分や熱、油分を体に与えることです。そのガイドラインや治療法に従うことは、腸の規則的な動きを取り戻すためには大変効果的です。特に、ヴァータの冷たく乾いた性質を抑えることができるからです。


お白湯やハーブティーを多く飲む

毎日、少なくとも240ccの水やハーブティーを飲みましょう。最も良いのは、ヴァータの冷たさを中和する温かいあるいは熱い水分です。また、そうした水分のほとんどは食事の前後に摂ることが大切で、食事の20分以上前の摂取が理想的です。


ギーを入れた牛乳や水につけた亜麻仁を摂る

就寝前に、ティースプーン1、2杯のギーを入れて沸かした牛乳をカップ一杯、あるいはテーブルスプーン一杯の亜麻仁(フラックスシード)をカップ一杯の水に入れて2、3分沸かしたものを飲んでみましょう。どちらも冷めてから少しずつ飲みます。就寝前のこの飲み物と1日の最後の食事との間は、少なくとも1時間(できるなら2時間)空けましょう。




便秘のためのアーユルヴェーダのお薬について


気分が悪くなったり、ライフスタイルを変えてみても全く効果がなかったりする時は、便秘のためのアーユルヴェーダ治療を試そうとすることもあるでしょう。アーユルヴェーダで使われるハーブの調合薬は、腸の動きを刺激して消化器系のバランスを取り戻すために使います。こうした治療は、自然に腸の動きを促すためにその根本にある問題に働きかけます。以下は、便秘のためにアーユルヴェーダのお薬の例です。


●アバヤリシュタム

ハリタキを主成分の消化シロップです。ハリタキは、便秘の最もよく効くハーブの一つです。腸の動きを落ち着かせ消化管をきれいにするのに役立ちます。また、腹部膨満感、腹痛を緩和、消化を助けます。アバヤリシュタムには、やや利尿、下剤の効果があります。腸管のデトックスのためにも使用します。


アバヤリシュタムの効果:
  • 便秘の緩和に使用される伝統的なアーユルヴェーダのお薬です
  • 免疫促進、肝臓保護
  • 便秘の緩和、痔の痛み、肛門の痒みやチクチクした痛みの緩和

使用法:

最小有効量を1日に1、2回、できれば食事のすぐ後に12ー24ml摂取します。アーユルヴェーダ医師の助言に従って、同量の水で希釈しても良いでしょう。



●ヒングワディ・グリカ

拒食症、消化不良、食欲不振、腹部不快感、膨満感、消化不良、下痢、睾丸瘤、てんかん、喘息、咳、セリアック病、吸収不良症候群などは、アーユルヴェーダの胃のお薬ヒングワディ・グリカで治療が可能です。

ヒングワディ・グリカの効果:
  • アーユルヴェーダ療法で胃腸病に最もよく使われるもののひとつがヒングワディ・グリカです。
  • 拒食、消化不良、食欲不振、胃腸の不快感、膨満感、胃酸逆流、胸焼け、下痢、便秘など全てに効果があります。

使用法:
アーユルヴェーダ医師の処方に従って、就寝前に1、2錠を水で飲みます。



●アヴィパティ・クールナム

排泄・消化器官に効果があります。ピッタドーシャに働きかけ、消化管の酸の分泌を通常に戻します。

アヴィパティ・クールナムの効果:
  • ピッタのバランスの崩れからくる様々な病気からの回復を促します。
  • 便秘を治療し、健康的な消化、適切な排泄を促します。
  • 医師の処方に従ってのみ摂取できます。







便秘にならないよう、食物繊維の多いもの(豆類、野菜、果物、全粒シリアルやふすまなど)を食事に取り入れましょう。加工食品や肉、乳製品など繊維の少ないものの摂取を制限します。規則的な運動をして、できるだけ活動的でいましょう。ストレスのない生活をしてみましょう。そう、ストレスが多すぎると、腸の動きを妨げて便秘になる可能性があります。









2022年12月3日土曜日

マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラ:自身を癒し、世界を癒す Vol.2 
The Maha Mrityunjaya Mantra: Heal Yourself, Heal the World

前回からの続きです。

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恐怖を克服する

その昔、死は存在しなかったと言われています。しかし、世界が混雑してきて、命の源が枯渇しそうになりました。そこで、自然のバランスを取り戻し地球の苦しみを解くため、生き物に死をもたらす役目がヤマに与えられました。


死には、その任務を果たすためのしもべが必要となりました。病気や飢餓、事故、老化がその役割を担い、死のメッセンジャーとして働きました。しかし、宇宙の秩序における死の役割を理解せず、全ての生き物は死を恐れました。若くして死んでいくものを見て、ふさわしい時が来る前に命が失われるのではないかと心配しました。その時が来た時には、死への恐れはより大きい苦悩となりました。


この恐怖を克服するため、シヴァ神はマハ・ムリッチュンジャヤ・マントラを人に与えたと言われています。無気力、ストレス、悲しみ、病気の時、死の恐怖が意識に押し入って来る時はいつでも、この素晴らしいマントラを、癒しや生命力の維持、そして避難する場所として利用することができるのです。


マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラは、健康や幸福を取り戻し、死と向かい合った時に穏やかさをもたらします。勇気や決意が閉ざされた時、マントラが現れて障害を取り除きます。体と精神の奥深くに到達する癒しの力を呼び覚ますのです。


植物が土から忍耐強く栄養を集めるように、癒しや育みの力は、食べ物や薬、支えとなる感情や勇気を与えてくれる思いを通して、人の体の中へと入ってきます。マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラは、こうした力を引き寄せ、その効果を高める精神的な環境を創り出します。このように、このマントラは、回復のプロセスが行われている時はいつでも利用することができます。


このマントラは、薬を服用する時に、その効能を最大にするために体や心の準備として唱えることができます。インドでは、体に聖なる灰をつける際に(薬あるいは精神的な行為として)このマントラが唱えられます。そのように、健康や生命力、育みや死に関連する恐怖から逃れるなどの問題が現れた時はいつでも、マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラが、対処法や慰めとして自然に唱えられるのです。


また、治療に関わる職業の人たちにとって、マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラを日常的に唱えることでその恩恵を得ることができると言われています。マントラを通して、命が育まれる癒しのチャンネルを開き、尽きることのない源からエネルギーを得ることができるため消耗を防ぐことができるのです。



癒しの力を目覚めさせる


ムリッチュンジャヤとしてのシヴァ神を讃え、マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラの実践を讃える物語は多数存在します。その多くは比喩的で、登場人物や筋書きに象徴的な意味があります。それ以外は、主として高揚感を与えるもの、特定の実践について詳細を明らかにさせるものもあります。


このマントラのパワーは、ネトラ・タントラの中でシヴァ自身によって、シヴァと妻パールヴァティの会話として語られてきました。聖典の始まりでパールヴァティは尋ねます。「あなたの目はとても美しい。涙と思いやりで溢れています。どうして、その目から恐ろしい火を放ち死そのものを灰にしてしまうことが可能なのですか?」


シヴァは言います。「ああパールヴァティよ、ヨガで共になりなさい、それによってのみ、私の目に宿る火が不死の万能薬だということを理解できるだろう。私の目の中の光は全てを見通すのだ。あらゆる方向に向かっていて、目覚めていても夢を見ていても眠っていてもそこに存在する。全ての生きるものの命の源なのだ。ヨガの実践によってのに理解することができ、自己努力のない者には決して体験することができない。


「私の目の光は、それぞれの人の輝きと同じだ。それは自明の理である。精神の力の最も崇高な形である。永遠であり、オージャス(物質を命で満たす輝くエネルギー)である。意志の力であり、魂の不屈の意志である。そこに、全知の種が存在し、知る力、行動する力が存在する。私に本来備わったこの力を通して、私は破壊し創造するのだ。


「全宇宙はこのエネルギーで満たされて保たれている。実際、意志、知恵、行動の力は共に私の目にある。それらは不死の源であり、癒しと育みの究極の力である。私の輝かしい生命力の具現である。マントラの科学を知る者は、これを『死の克服』、ムリッチュンジャヤと呼ぶ。それは、あらゆる形の苦痛からの解放を得させてくれる。それは全ての病を破壊するからである。ムリッチュンジャヤ・マントラという形で現れる輝かしい光は、現世の精神的な貧困の焼け付くような熱を冷ましてくれる。それは、純粋で平和で絶えることがない。


「このマントラにより人は、怒りや嫌悪、嫉妬、強欲など全ての敵対するものを克服することができる。それは、長寿と健康、幸福の源である。異なる種類や形状であると仮定すれば、この光の力、ムリッチュンジャヤ・マントラは全宇宙に行き渡る。身体的、精神的、霊的な全ての保護の源である。私の目の神秘、そこに存在する火、そしてその火がどのようにムリッチュンジャヤ・マントラの形で現れるか、それ以上に崇高な神秘は存在しない」


ーネトラ・タントラより抜粋(パンディット・ラジマニ・ティグネイト博士英訳からの和訳)




癒しのマントラの使い方


そうした言葉に刺激されたり、実践の伝統を保存し続けている指導者から指示されたりして、多くの瞑想者がマハ・ムリッチュンジャヤ・マントラを日々のルーティンの一部としてきました。マントラを使うためには、マントラを学んで実践する制限もなければ、マントラに関する神話を信じる必要性もありません。ただ、敬意をもって行えば良いだけです。


まずは、マントラを正しく唱えることを学びます。長く感じるかもしれませんが、32音節しかありませんので、少しの努力で覚えられるでしょう。ゆっくりと繰り返しながら、一句一句の意味を見直すと、覚えやすいかもしれません。


マントラが覚えられたら、日々の瞑想を始めるときに、いつもの実践に対する祈りのひとつとして思い出してみましょう。体と呼吸を穏やかにしてから、3回、11回、21回、あるいは36回唱えます。そして、一行ごとのその音とリズムに心を集中させます。マントラで、意識を胸の中心や眉の間など最も自然だと感じる場所へ向けます。そして、その中心を意識の集中点としましょう。健康の問題のためにマントラを唱える場合は、意識をおへその中心に集中させます。


与えられた回数よりも、もっと繰り返して唱えたくなるかもしれません。そうしたくなるのには、多くの理由があります。不健康な、あるいはエネルギーの低い時期にあるのかもしれません。より深い安心感や自信を求めているのかもしれません。日々の暮らしの出来事にストレスを感じたり疲れているのかもしれません。あなたの死や、あなたが捧げている誰かの死が近づいているのかもしれません。


けれど多くの場合、この実践に惹かれる感情は、健康問題によるのものというよりは、命そのものとの調和の一部になりたいという深い衝動に促されることが多いのです。マントラの育みの性質は、人の心や感情の中で、光や水、土の力が植物の命に対するのと同様に働きます。このマントラは、人生の目的や意味を与えてくれる人格の質を強めてくれます。


マラ(108個のビーズでできた数珠)を使って、回数を把握します。数珠を一周したらマントラ100回繰り返したとします。実践を完了するには、40日間で8000回を繰返します。これは朝に数珠一周、夜に一周すると達成できます。


毎日、始める前に、マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラの予言者である聖ヴァシシュタを思い出しましょう。ただ彼の魂を心に向けて、彼に敬意を払います。それから練習を始めましょう。時間が経てば、毎日、数珠を1、2周分唱えることが習慣になるでしょう。




光り輝く生命力


やがて、マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラを唱える多くの理由がひとつひとつ現れてくるでしょう。人生を豊かにするためにしろ、死に向かう準備をするためにしろ、このマントラは根本的には自己実現のひとつの方法です。マントラが導く意識は、真の自分に存在する深く果てしない意識に他なりません。


このように、マールカンデーヤの物語は寓話的です。そして、人の命の神殿は人の体である、祈りや崇拝は瞑想によって達成する、不死によって私たちに祝福を与える精神のリンガは背骨の付け根から頭頂へと流れるエネルギーだということを思い出させます。そのエネルギーを目覚めさせることが、マールカンデーヤの信念の証となる行いだったのです。


もう1人の古代の聖人スータの言葉は、私たちに同様の方向性を示し、自分自身の実践を始めるよう促します。その言葉でこの記事を締めくくることにしましょう。




ああ、素晴らしき聖なる儀式を行う賢者たちよ
トリヤンバカほど慈悲深き神は他にない
彼は常に穏やかで喜びに満ちている
誠に、マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラとともにそうである
マントラと繋がる者は、どんな苦難があろうとも
まごうことなく執着から解放されんことを
そして瞑想によって無限の者とならんことを

2022年11月30日水曜日

マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラ:自身を癒し、世界を癒す Vol.1 
The Maha Mrityunjaya Mantra: Heal Yourself, Heal the World


古代インドの聖典は、哲学と信仰が密接に織り混ぜされた物語や神話、伝説に満ちています。こうしたお話に登場する偉大な人物の一人が、その教えがマールカンデーヤ・プラーナの中にある聖マールカンデーヤです。彼の教典の中で特に人の記憶に残っているのは、偉大なる女神の栄光の記述です。マールカンデーヤはまた、宇宙の大洪水を見る力を持つことで知られ、マハーバーラタの中では、勇敢なパンダヴァ兄弟の野営地への賓客として迎えられています。けれど、彼の物語は彼が生まれる前から始まっています。


森に住む聖ムリカンドゥと妻のマルドワティは、功徳を積んで子を授かろうと長い苦行を行なっていました。彼らの前に、イシュタ・デワータ(心の神)であるシヴァ神が現れました。彼らの願いを聞いたシヴァ神はこう言います。あなた方は、輝かしい魂の光として生まれるがわずか16歳までしか生きない子、もしくは長く生きるが知恵がなく自分のことしか考えられない子のどちらかを授かるだろうと。


彼らは崇高さを持つ子の方を選び、マルドワティが男の子を授かるとマールカンデーヤと名付けました。息子には命が短いことを伝えないでおこうと決めましたが、16歳の誕生日が近づくにつれ、彼らの悲しみはどんどん深くなります。どうしてそんなに塞ぎ込んでいるのかと尋ねられた時、シヴァ神の言ったことを話してしまいます。すでに熟達したヨギになっていたマールカンデーヤは、改めて彼の実践に献身するのでした。


16歳の誕生日、マールカンデーヤは寺にこもってシヴァのリンガ(聖なる意識のシンボル)の側に座り、祈りを捧げて瞑想をしていました。死神であるヤマの使いが彼を連れ去ろうとした時、彼があまりにも熱心に祈っていたので、その任務を果たすことができませんでした。


使い達はヤマの元に戻り、この困難を説明しました。そこでヤマは、任務を果たそうと自分で寺に行きました。ヤマはマールカンデーヤに、生死という自然の摂理に従って自ら一緒に来るように促しましたが、マールカンデーヤはシヴァのリンガを両腕で抱え守ろうとしました。ヤマは投げ縄でマールカンデーヤを捕まえようとしましたが、投げ縄がリンガにもかかってしまった瞬間、像の中に居たシヴァがリンガを破り怒りと共に現れました。投げ縄を遠くに投げすぎてしまったヤマは、シヴァに投げ縄をかけるという許されないことをしてしまったのです。


ヤマは、他の神たちは怯えて見ている前でシヴァの一蹴りで殺されました。ヤマの死が宇宙の秩序を乱すのではと恐れ、シヴァにヤマを生き返らせるよう懇願しました。そしてシヴァは、最後にはそれに応じます。けれど、マールカンデーヤの献身がシヴァを守ったのだと指摘し、そうして彼は永遠に16歳の聖者となったのです。古代の信仰では、マールカンデーヤの悟りを得た魂は、今も宇宙で動き続けていると考えられています。




シヴァ:思いやりの拠り所


マールカンデーヤの物語は、シヴァ神の謎めいた姿を中心にした広大な精神の伝統への扉を開けてくれます。シヴァは二面性を持っています。宇宙の摂理を激しい決意で守りながらも、執着を破壊し信者を無知から解放します。精神の支配者であり破壊者で、逃れようのない欲望の追求や、命そのものまでも、自然な終わりへともたらすのです。このシヴァのイメージは、古代にはルードラ「唸る人」と呼ばれていたことにも映し出されています。その一方で、より身近なシヴァという名前は、「吉兆、寛大、思いやり」などの意味を持ちます。憐れみはシヴァの本質です。思いやりの拠り所であり恩恵を与える神です。優しさと確かな手で、自己実現を切望する者を導き、宇宙に存在する苦悩を解放します。


シヴァは純粋な意識を体現しています。全ての粒子と存在が編まれた網のように、その中に存在する宇宙を示しています。しかし、彼は世の中の魅力や誘惑には影響されず、そうした全ての動きを動かない存在の中に静かに保っています。瞑想の中で確立されるヨギ達の神なのです。


彼には多くの名前があります。マールカンデーヤにとっては、ムリッチュンジャヤ「死の征服者」そして、マールカンデーヤが16歳の誕生日に祈りを捧げていたものこそが、シヴァのこの局面であると言う人もいます。けれど、ヤマに対するシヴァの勝利はムリッチュンジャヤの全てを著しているわけではありません。なぜなら、死の支配者という側面にあっても、シヴァは恐ろしいと同時に深い育みを与えてくれるからです。




ヴェーダの中心


ムリッチュンジャヤとしてのシヴァ神へ捧げた偉大なマントラは、リグ・ヴェーダの中にあり(Mandala VII, Hymn 59)、聖ヴァシシュタによって書かれたとされています。その中にある聖歌は、ルドラ、またはシヴァの子供たちと言われる自然の力(マルツ)を讃える11節で始まります。マルツたちは、嵐や風、竜巻、雲のエネルギーをコントロールして(それゆえ空の光を育んで)います。破壊的なエネルギーを持っていますが、家族の守り神でもあります。彼らが調和を持つ時、平和と繁栄の世界を創り出します。


ヴァシシュタはこれらの力に敬意を示しながら、最後の節へと進み、マントラは聖典全体に渡り讃え続けます。これは、マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラ「死を克服する偉大なるマントラ」と呼ばれます。このマントラには多くの名前や形があります。シヴァの恐ろしい面を表すルドラ・マントラ、シヴァの3つの目を言及するトリヤンバカン・マントラ、そしてムリタ・サンジヴィニ・マントラとしても知られます。疲労困憊で禁欲生活を終えた聖シュクラが「命を取り戻す」方法のひとつとして与えられたからです。マハ・ムリッチュンジャヤ・マントラは、ヴェーダの中心として賢人たちに認められています。ガヤトリ・マントラとともに、熟考や瞑想に用いられる多くのマントラの中でも最も高く位置付けられています。


サンスクリット語では:

Om tryambakam yajamahe
sugandhim pushti-vardhanam
urvarukamiva bandhanan
mrityor mukshiya mamritat


このマントラは4行に分かれていて、それぞれに8音節含まれます。訳はかなり多種多様です。しかし、少し調べれば(例えばWebで検索したり)全てのレベルにおける意味を十分に表すことのできている訳はひとつもないということがわかります。サンスクリット語の複層的な性質がそれを不可能にしています。


しかし、訳の違いもまた、正確な訳よりもマントラの音の方が実践者にとっては重要だという事実を反映しています。音楽のように、これらの音の共鳴が心を惹きつけ、精神の体験へと導きます。マントラの正確な意味は二の次なのです。


とはいえ、その中にある信念を養うためには、マントラを理解することが重要です。マントラのそれぞれの言葉はその養う性質を備えており、言語の壁を超えて命を維持してくれます。善の偉大な力が私たちの内側にあるという感覚で私たちを満たし、私たちの成長を支持し、苦難の時にも奮い立たせ、日々の多忙の中でさえ、命そのもののより高みにある目的を思い出させてくれるのです。



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次回に続きます。

2022年11月28日月曜日

毎日の「呼吸法」で薬並みに高血圧を下げる 
Daily 'breath training' can work as well as medicine to reduce high blood pressure

今回は、NPR(米国公共ラジオ放送)のサイトの記事からです。
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ウェイトリフティングをすることで、二頭筋や四頭筋が強化されるのはよく知られている。さて、呼吸のための筋肉を強化することもまた有益だというエビデンスが多く存在する。新しい研究によれば、横隔膜やその他の呼吸筋を毎日トレーニングすることが、心臓の健康を促進し高血圧を緩和するのに役立つ。


「呼吸に使う筋肉は、他の筋肉と同様に、年齢を重ねると共に萎縮していく」コロラド大学ボルダー校の統合生理学者であるダニエル・クレイグヘッドは、そう説明している。良い運動を与えた時のこれらの筋肉の反応をテストするため、彼とチームは、18歳から82歳の健康なボランティアを募り、PowerBreathe という負荷をかける呼吸トレーニング機器を使ったテクニックを毎日5分間試した。手に持つタイプのこの機器は、吸入器のようだ。これを使って吸い込むと、負荷がかかって吸い込みにくくなる。




仕組み


「この呼吸を毎日30回6週間行ったところ、収縮期(最大)血圧が約9mmHg下がった」そして、この下がり幅は、ウォーキングやランニング、自転車など従来の有酸素運動で期待されるものと同程度だとクレイグヘッドは言う。


正常の血圧は、おおよそ120/80mmHg 以下。今日では、平均が常に130/80mmHg 以上である場合に高血圧だと診断する医師もいるとCDCは述べている。


収縮期血圧の下落 9mmHg が維持する効果は大きな意味を持つ、とマヨ・クリニックで自律神経が血圧をどのように調整するかを研究しているマイケル・ジョイナー医師は言う。
「これは、血圧の薬を服用したときにみられるタイプの下落である」通常の血圧薬の多くは、約 9mmHg 下げることを研究が示している。複数の薬を服用すると下落幅は大きくなるが、10mmHg の下落は、卒中の危険を35%、心臓疾患の危険を25%下げるという相関関係がある。




高血圧の予防にも


「期待が持てる」予防治療に呼吸筋強化トレーニングを組み込む可能性についてジョイナーは言う。従来の有酸素運ができない人に有益であろうし、もし家庭で機器を簡単に使えるならそのシンプルさも魅力だろう、と述べている。


「深く、負荷をかけた呼吸は、運動と同様の効果を作る今までにない新しい方法を提供するものである」the Journal of the American Heart Association で事前研究とともに発表された論文を、ジョイナーはそう締めくくっている。


では、呼吸トレーニングは実際にどれほど血圧を下げるのだろう?クレイグヘッドは、血管の内側を覆い一酸化窒素の生成を促す内皮細胞の役割を指摘している。これは心臓を保護する鍵となる物質だ。一酸化窒素は血管を拡げ、よい血流を促し、動脈内のプラーク形成を防止するのに役立つ。「我々が発見したのは、6週間の呼吸筋強化トレーニングが、内皮機能を約45%高めることだ」とクレイグヘッドは説明している。



全ての年代に効果的、アスリートの耐性にも


瞑想やマインドフルネスでよく行われる深い横隔膜呼吸(腹式呼吸)もまた、血圧を下げるのに役立つと古くから知られている。PowerBreatheの機器での筋肉トレーニングも、呼吸筋を働かせて一酸化窒素の生成を促すという同様の仕組みだ。クレイグヘッドが言うには、機器を使ったトレーニングで特に有用なのは、この小さな機械が筋肉が良く働くよう負荷を与えるので、短い時間で効果が得られるということだ。彼の研究は、米国立衛生研究所から資金を得ている。


この新たな研究は、予備研究を基礎にしており、呼吸筋強化トレーニングが全ての年齢層の成人に有効であるというエビデンスをつけ加えている。「血圧を下げることにおいて呼吸筋強化トレーニングが、いかに偏在的に効果的かが分かり驚いた」とクレイグヘッドは述べる。結果が出るまでは、健康な若年層においてはあまり効果がないと彼は考えていた。「しかし、しっかりとした効果が見られた」そう言って彼は、全ての年代の被験者の血圧が著しく下がったことを指摘した。この結果は、呼吸筋強化トレーニングが、加齢と共に現れがちな心臓疾患や血圧の上昇に対し、健康な若年層にも効果的である可能性がある。


また、中年以上の成人において、6週間の呼吸筋強化トレーニングが有酸素運動耐性を12%上昇させるというデータから、サイクリストやランナーなど持久力の必要なアスリートたちにも効果的かもしれないと言及している。

「そこで、1日に30回呼吸するだけの呼吸筋強化トレーニングでも、持久力の必要な運動において大変有効だと考えられる」クレイグヘッドは言う。アスリートが毎日のトレーニングに取り入れられるテクニックだ。マラソン・ベストタイムが2時間21分であるクレイグヘッドは、自身のトレーニングにも呼吸筋強化トレーニングを取り入れているという。

このテクニックは運動の代わりにはならないし、心臓発作や卒中に高い危険性のあるような高血圧の人の薬の代わりにもならないと彼は忠告している。「すでに健康的なライフスタイルへのアプローチをおこなっている人が、追加的に行うと良いでしょう」


呼吸エクササイズの効果を体感しているのは、テレサ・C・ヘルナンデス(61)だ。コロラド州ボールダーに住んでいる彼女には、家族に高血圧の病歴があり、研究調査に参加している。研究が始まった当初、医師らが薬の服用を薦めるほど血圧が限界値に近かった。

6週間の呼吸エクササイズを行ったヘルナンデスは、「こんな簡単なことにこんなに大きい影響力があるなんて驚きでした」と言う。「薬が必要なくなるほど、血圧が限界値より下がりました」

彼女の血圧は大きく下がり、毎日5分間のトレーニングを続けることにしているそうだ。





(出典)https://www.npr.org/sections/health-shots/2022/09/20/1123500781/daily-breath-training-can-work-as-well-as-medicine-to-reduce-high-blood-pressure

2022年10月13日木曜日

安定性を得るために 
The Science of Stability


木のポーズでぐらぐらしたり、不安定な戦士のポーズIIIでよろけたりしたことは誰にでもあることでしょう。それでも、私たちはバランスを保っています。良いバランスは、食料品の買い物袋を持ったり、背の高い棚の上の物を取ったりといった日常の作業や、ダンスやウェイトを持ち上げるなどもっと複雑な動きをするのに役立ちます。ヨガポーズで体を安定させるのに苦労している時は、実は、まっすぐ立ったり必要な姿勢で安定し続けるための体の部位を訓練しているのです。ここでは、体のバランスに関係のある3つを見ていきましょう。視覚、内耳、そして体性感覚です。



・視覚:目で見る感覚によって、体がどこにあるのかを知ることができます。

・内耳(前庭):内耳の神経が頭の位置を脳に伝えることで、体を調整し安定させることができます。

・体性感覚:体の感覚が体の位置認識を刺激し、必要な時に体を再度調整することができます。






より良いバランスのために見て感じる


神経組織は、視覚や内耳、体性感覚それぞれから送られてきた情報を統合し、形や動きを通して脳が理解するよう、そのデータを送ります。


・見る:視覚は、脳が空間内の体の位置を知るのに役立ちます。目の前にある一点を見つめる(ドリシティ)ことで、戦士のポーズIIIなどの力強いポーズを続けやすくなります。なぜなら、視点が定まっていると、必要な調整をするために脳にとっての安定した参照点になるからです。


・バランス感覚を試すには、目を閉じます。視覚のインプットが失くなると安定感が減り、それを補おうと内耳や体性感覚が急発動します。



・聞く:内耳にある前庭は動きに敏感なセンサーで、空間にある体の位置に従って均衡を保つのに役立ちます。木のポーズで垂直になっている頭を、戦士のポーズIIIで水平に移動すると、内耳の骨の迷路内の液体が、前庭神経上皮、あるいは中枢神経の幹細胞を作っている有毛細胞(繊毛)を混乱させます。これらの有毛細胞が曲がると、電気信号が脳内の内耳神経に送られて、頭が重力に対してどの向きにあるのか(垂直、横向き、逆さま、あるいはその間)を特定します。


・山のポーズから戦士のポーズIIIに移行することで、内耳のインプットを探ることができます。ポーズしながらゆっくりと頭を縦横にふって、内耳組織を刺激してみましょう。このように頭の向きが動的に変化すると不安感が増すかもしれませんが、これは結果的に良いことです。疲れるまで筋肉を使うと強化されるように、不安定になるまでバランスを試すと、そのうちに、容易に体をまっすぐ保てるようになります。


・感じる:体感神経は頭頂葉に存在し、触覚や圧迫、温度、動き、痛みなどを作る体の感覚を処理します。


・このネットワークを変化させるには、折りたたんだブランケットなど柔らかいものの上でポーズを練習してみましょう。ぐらぐらすることは良いことです。神経筋がバランスの崩れに反応して安定性を取り戻す訓練となります。





活動する:復元力を作るための変化を起こす


木のポーズなど、良い姿勢でまっすぐ立ち続ける能力は、静止バランスと呼ばれます。固有受容感覚、つまり3次元の空間で体の部位がどこにあるのかを知る能力は、垂直に安定して立ち続けるのに大きな役割を持ちます。特に筋肉内や関節の周りなど体中にある小さなセンサーは、常に脳に体の位置のメッセージを送り続けています。マインドフルな動きや難しいバランスポーズの練習を通して、こうしたセンサーはより鋭敏で敏感になっていきます。


動的バランス、つまり歩く、自転車に乗る、地下鉄から降りるなど動きながら平衡を保つことは、太陽礼拝の流れや山のポーズから戦士のポーズIIIなど難しいポーズへ移行する時に大切です。片足のバランスポーズでは触れる部分が少なくなるので(体のインプットが減る)、視覚や内耳によって安定を得ることになります。このバランスが移動する形が重要なのは、ほとんどの転倒が姿勢の移動や速い動き、方向転換の時に起こるからです。日々の生活は常に動くものですから、ヨガは変化に対応し復元力を作り上げるのに良い練習の機会となるのです。


バランス運動は、脳の平衡感覚や認知機能に深く関係する部分における新しい神経結合を作るのに役立つと研究によって示されています。これは、年齢を重ねるにつれて役に立ちます。(米国CDCによれば、高齢者4人のうち1人が少なくとも一年に一回は転倒しています。そして多くの場合、重傷あるいは死亡の原因となります)ヨガを通して安定性を強化すること、そしてマインドフルネスや体への気づき、自己受容、精神力などを組み合わせることが事故防止への鍵となるのです。


今度、戦士のポーズIIIでぐらぐらしている自分に気づいた時は、現在と将来の自分自身をケアしているのだと思い出してみましょう。






(出典)https://www.yogajournal.com/teach/anatomy-yoga-practice/the-science-of-stability/

2022年9月22日木曜日

エンボディ・ヨガ:ヨガで「体の声を聞く」3つの方法 
Embodied Yoga: 3 Ways to "Listen To Your Body" in Yoga



「体の声を聞きましょう」

なんらかのヨガを練習していたり、今日の健康ムーブメントに注目している人なら、きっとこんな言葉を聞いたことがあるでしょう。こう言って(大抵の)ヨガのインストラクターは、より「エンボディ(訳注:「体現する」「統合する」などの意味があります)」するように促します。「エンボディ」するヨガとは何なのでしょう?どんな感じがするのでしょう?そして、どんな体験なのでしょう?より満足感があって効果のあるヨガの練習のその先に、なぜ、マットの外での日常生活にまで視野を広げていく必要があるのでしょうか?


エンボディすること(エンボディメント)によって、心の状態や体に対するイメージが良くなる、消化力、睡眠の向上など、数えきれないほどの包括的な健康効果を得ることができます。研究が示しているのは、よりセルフケアへと促す効果があり、自己免疫や摂食障害などの困難な症状にも対処する手助けとなります。またエンボディすることで、自分自身とより深く繋がり、より心を健康にする満足感が得られる方法で自分の肌より外側の世界とも繋がることができるようになります。




「エンボディ」しない(切り離す)という危険


その一方で、エンボディしないことは、世の中の景気にとっては良い行動に繋がるかもしれません。けれど、調和の取れた人間として(体や心や魂)はあまり良くないと言えるでしょう。例えば、メディアやポップカルチャーの大騒ぎ、飽食、アルコールなどの濫用は、体に対する気づきが欠けることが元になっているかもしれません。


実際に、そういった商業指向の行動によって、 私たちは現代社会の影響力の狭間でどんどんエンボディメントから離れてしまっています。そういった点において、完璧主義や仕事主義、利己主義とよく合うのです。ですから、エンボディするというのは実は怖く感じるものです。トラウマを持っている場合は、エンボディしないことは、ひとつの生きる戦略ともなります。21世紀に生きる私たちにとって、必ずしも自然にできるというものではないのです。


エンボディするヨガ


あなたのヨガの先生は、おそらく最善の意図を持って「体の声を聞きましょう」と言っているはずです。けれど、時にそれは、真のエンボディメントへ入るには全く不適当である場合もあります。では、真に外側と繋がるために内側と繋がれるよう、より近くそしてより深く近づく方法をいくつか探っていきましょう。



 

1.呼吸を通したエンボディ・ヨガ:友達でレポーターで、そして先生


呼吸はいろんな役割をしてくれます。本当の友達だと私は考えています。深刻な呼吸疾患がない限り、呼吸はいつもずっと、私たちが忘れている時でさえ、そこにいてくれます。前に繋がった時からかなり時間が経っていても、その場所でまたすぐに繋がることができます。呼吸はレポーターで、呼吸が伝える情報をどう解釈するのかを知っていれば、私たちの心や体の中で何が起こっているのかを知ることができます。同様に、呼吸は先生です。今のコンディションや自分をケアするために何が必要かについてたくさんのことを教えてくれます。


流れるようにいろんなヨガのポーズをしたり、ひとつのポーズに止まってそこに何があるのかを見る時、呼吸はこうしたこと以上の働きをします。例えば、呼吸が短く不安定に、浅くなったりし始めていませんか?それは、体の能力以上の練習をしているせいかもしれません。体と心は密接につながっています。短く不安定で浅い呼吸は、自律神経の闘争逃走反応のサインです。体と心が脅威を感じ取って、安全でいられるように反応しているのです。
 

その反対に、ヨガクラスで、呼吸が深く、スムーズで律動的だと感じたことはありますか?そのポーズや動きはおそらくあなたの体がまさに必要としているものでしょう。その練習は、真剣に取り組み続けるための十分なやりがいがあるとともに、ストレス反応を刺激するほどは強くはないということです。



呼吸のメッセージに応える


呼吸からこうしたサインを受け取り、適切に反応できている時、それがエンボディしているということです。それはどう見えるのでしょうか。こうしたサインにエンボディして反応するとはどういうことでしょうか?呼吸が短く不安定で浅い時は、基本的に体はポーズを変えてほしいと伝えています。あるいは、子供のポーズ(バラサナ)や他の休息のポーズで休んだ方がいいのかもしれません。


呼吸が深くスムーズで律動的な時は、そう、おそらく練習や体について何かを学べたはずです。本当にあなたの役に立つのが何かを、より理解したでしょう。それらは時によって変化することもあります。練習や体は流動的で、進化していくものです。例えば、あるシーケンスの練習をしていて呼吸が短く不規則になったからと言って、明日、あるいは来週、来年もそうだとは限りません。その逆もあります。エンボディしたヨガを練習するには、そうした変化とともに流動的に調和し気づくことが必要でもあるのです。




2.脳よ、黙って!:別の形の知性へと目盛りを上げていく


さて、ダンスは芸術的でありながら教育的でもあると私は考えています。人生の3分の2をダンサーとして過ごしてきた私は、ヨガの練習との関係性に興味を持ち続けています。「考えすぎないで」「色々考えるのをやめて」と、先生や振付師から数えきれないほど言われてきました。現在は指導者として、難しい振付や技術を教えるときに、「とにかくやるだけで考えないで。でないと、できないわよ」というようなことをよく言います。


私の先生が目指したもの、そして今私が生徒に対して目指すところは、異なる種類の知性、つまり体の知性を感じ取るよう促すことです。私たちの脳には、時折後ろに下がって、体が一番理解していることを体にさせる必要があります。「ニューエイジ」的な話ではありません。私たちの心臓周り(「心を聞く」)、そして消化管(「直感(心肝)に従う」)には高レベルの神経組織があることが、生体医化学によって裏づけられ始めています。


裏づけの薄いレベルになりますが、体と密に接している人には「筋肉の記憶」があります。時間をかければ、考えないで動けるように筋肉や筋膜を訓練することができるのです。エンボディするヨガの練習で、この体のユニークな知恵である「内受容感覚」を見出すことができます。そして、外の世界とつながって、より体の感覚や空間的な体験「固有受容感覚」が得られるのです。



マインドフルネスで心のお喋りをゆっくりに


明らかに、生活の中では考えること論理的であることが必要がありますが、体や心、精神にとっては多くの雑音を生むことにもなります。その雑音が静まったとき、聞いて求められる値、価値のある多くの知恵がそこにあります。どうすれば、脳を黙らせて他の知性の声を聞くことができるのでしょう?ポーズそのものよりもずっと古代のヨガに答えがあるのは間違いありません。心のお喋りを流し去るための道具を与えてくれるのは、瞑想の実践です。
 

マインドフルネスでは、今体験していることへのひとつ以上の局面に意識を向けることが、心のおしゃべりを消すために役立ちます。例えば、実践中に買い出しのリストについてあれこれ考えていたり、気恥ずかしかったやりとりを何度も思い返したりすることがあるでしょう。これは全くよくあることで、自分を戒める必要はありません。ただそこにいて、そうする、ですよね?


それでは、ローランジ(アンジャネアサナ)でストレッチの感覚に注意を向けることはできますか?胸を骨盤の方へやわらげて、顎を髪の毛一本分だけ上げるとか、徐々に自分のポーズを洗練させると、どんな感じがするでしょう?息を吸い込むときにほんのちょっとだけ背筋を伸ばせますか?そして、息を吐くときにもうちょっとだけ安定感を感じられるでしょうか
?まだ買い出しのことを考えているでしょうか?私たちの体は、ちょっと意識を向けて声を聞くだけで、とても多くの奇跡を与えてくれます。




 

3. エンボディするヨガ:スピードを落として休む


最近の「Yogaland」ポッドキャストのエピソードで、アンドレア・フェレッティとジェイソン・クランデルが、スピードを落とすことのメリットについて議論していました。体の知性に意識を向けるのと同様、それは、雑音の中を通り抜けそれまで聞こえなかったものを受け取るのに役立ちます。具体的にクランデルが語ったのは、心を静かにするようにと言われるリラクゼーションのポーズ、シャヴァサナの間に、精神が明晰になったり問題の解決法が見つかったりする現象でした。


けれど、それを批判はしませんでした。むしろ、スピードを落とすことのメリットだと関連づけていました。私は、その例は体の知性をより表すものだと思います。エンボディして練習して休息を得ると、高度な知恵や創造性、真実の間に立ちはだかるものへと、心がダイアルを下げるのに役立つのです。


けれど、そういったものと繋がるのにシャヴァサナを待つ必要はありません。練習のどんな時でも、もっとゆっくり動いて安定感をも得ることが可能です。刺激や困難は減り、片足のバランスポーズやプレッツェルのように手足を組むポーズに挑戦しているときには気づけなかった運動感覚の情報を認識することができるでしょう。エンボディするヨガとは、「体の声を聞く」という言葉が表現できる以上に、より深く体の声を聞くということなのです。


 

エンボディするヨガ:スピードを落とし、一旦停止し、見るプロセス


本当に見るには、スピードを落とし、一旦停止し、聞こうとしているものにしっかり向きあう必要があります。私たちが聞くもの、学ぶものは、本当に育み成長を助けるような練習へと導いてくれます。見た目のいいポーズが目的ではありません、と先生が言うのを聞いたことがあるかもしれません。それで何を学ぶかが重要なのです。私たちが生徒として本当に準備できた時、体は教えてくれるのです。それがエンボディするヨガなのです。

2022年9月15日木曜日

抑うつを吐いて手放す 
Breathing Away Depression


抑うつを全く感じたことのない人など、ほとんどいないだろう。気分が落ち込んでしまった時には、希望は消え自信もほとんど麻痺してしまう。やらなければならないことは溜まっていく。笑っていつものように対応するが、実は集中できていない。友達に電話することもなく、人と交流する場を避ける。そして、時が経つにつれ、普段ささえてくれるエネルギー源からどんどん切り離されている自分に気づくのだ。


幸いなことに、辛い気分でエネルギーが減退した時の元に戻るなんらかの方法を持っている人がほとんどだ。好きな音楽を聴いたり、読書したり、絵を描いたり、リフレッシュできるようなことをする。大抵の場合は、話をする相手もいる。運動して、散歩して、祈る。治療のために薬が必要な人もいるかもしれない。こうしたことは全て役に立つ可能性があるし、いろんな選択肢を用意しておくことが大切だ。


ヨガの瞑想的な実践には、レパートリーに加えられる簡単で発展的なテクニックがある。リラックスした呼吸への気づきだ。呼吸への気づきは、そもそも抑うつが始まるのを防ぐパワフルなツールであり、突然の抑うつ時にエネルギーを回復させ、感情の負荷を軽くして、悲観的な思考からの必要な距離を作り出してくれる。そして、リラクゼーションの土台や感情の安定性を得られることで、他の治療戦略を補完する。つまり、落ち込んだ気分が人生から喜びを剥ぎ取ろうとする時、呼吸への気づきが継続的で常に利用可能な精神集中となり、健康をとり戻すのを助けてくれる。




命の3つの次元


呼吸への気づきは、どうしてそんなに役に立つのだろうか?呼吸の重要性については、チャンドーギャ・ウパニシャッドの物語の中で強調されている。物語では、目と耳と心と呼吸がそれぞれの重要性について言い争っていた。目と耳は、体を代表して、生命にとって最も欠かすことのできないものだと主張する。しかし心と呼吸は、彼らこそが重要だと言う。この問題を解決するため、1年の間それぞれが体から出て、他のもの達に命を託すことで同意した。4年の後、それぞれが戻ってきた時に勝者が決まることになった。目と耳と心はそれぞれ体を離れたが、盲目でも聾でも昏睡状態であっても、命は続いた。そして呼吸が離れ始めた。突然、まるで綱に繋がれた強硬な馬が地面から足枷を引き裂くかのように、残りの機能が全て失われた。体と心は畏怖におののき、呼吸に戻ってほしいと懇願し、呼吸こそが至上であることを謙虚に受け入れた。


その絶大な重要性にもかかわらず、ほとんどの場合、呼吸は他の活動の背景でしかない。呼吸の絶え間ない流れは、意識の隅にある。そして、呼吸は、常に監視する必要がないという便利な一方で、思いもよらない影響を与えることがある。不適切な呼吸の習慣は、呼吸の有効性を阻む。エネルギーレベルが下がる、呼吸が短くなる、不安、気分が落ち込む、そして集中力が下がるなどは、まさに結果としての症状だ。


上記の物語のように、そして一般的にヨガでは、呼吸とはただ肺の空気の機械的な出し入れ以上のことを意味する。これは単に、心身に命にをもたらすエネルギー領域の最も外側にある局面だ。呼吸のプロセスがこの領域を維持し、老廃物を排出して周囲の大気から新鮮なエネルギーを引き込む。心身の全ての機能は、この生命エネルギーのおかげで働いている。最も目に見えやすいところでは、体の動きを作りだし、さまざまな生理学的な働きをおこなっている。最も微細なレベルでは、心の機能に命を吹き込んでいる。


このエネルギーには、とても簡単に触れることができる。ただ目を閉じて自分に問いかける。今のエネルギーのレベルは10段階でどのあたりだろうか?自分のエネルギーの質をどのように表現するだろう?自分のエネルギーレベルを推測できるという自信を持って、そしてその過程において、自身の内側にあるそのエネルギーの質を感じ取る。自分のこうした面に触れる機会があまりないので、今やった試みで、そうした部分に注意をより向けるようになれるかもしれない。それは、エネルギーが枯渇した時に補給するための最初の重要な一歩だ。



エネルギーと呼吸


体の中のエネルギーシステムは、常に流変化している。急いでバスに乗り込む時には、体のエネルギー出力が必要となる。心配したり考え込むと、より微細なレベルでエネルギーが枯渇する。呼吸はこうした状態の変化に強い影響力を持っているので、体と心のどちらにも影響を与える。深い健康的な呼吸は、回復力のある味方だ。呼吸が不安定で浅い時は、不安の原因があるのだ。


例えば、呼吸が少し止まった時、あるいは通常の呼吸の活気が単に下がった時、心や神経系が活発になり次に何が起こるのかを注視する。呼吸の停止が長くなったり、あるいは無気力で浅くなると、深い場所にある本能が呼吸を促してもう一度動かそうとする。急いで空気を得てエネルギーを補給するために、ため息をついたり、あくびをしていたり、あるいは口呼吸になっているのに気づくかもしれない。呼吸の仕方にも変化があるかもしれない。普段は休んでいる呼吸のための筋肉を使ったり、より呼吸しやすいように姿勢を変えるかもしれない。これらの比較的無意識な呼吸の調整は、体内のエネルギーを通常の状態に戻すためだ。


実際、呼吸を意識的に調節できるということは、訓練すれば、無意識の力だけに頼っている時よりも、より効果的にエネルギーを管理することができるということだ。呼吸を深め、より穏やかに規則的にすることができ、そしてかすかに神経を乱す呼吸停止さえも排除することができる。言い換えれば、呼吸で、体内のエネルギーシステムにアクセスすることができ、それによっていつでも好きな時に向き合えるということだ。


体調が最高だとは感じない時は、努力次第で疲労や憂鬱を減らして新しいエネルギーと入れ替えることが可能だという希望を与えてくれる呼吸という複雑でない戦術が必要なのだ。



呼吸を意識する練習


この呼吸の練習をするには、一番心地よい椅子に座ろう。意識をしばらく体に集中する。椅子が支えてくれているのを感じ、体を休ませよう。少し時間をとってできる限りくつろぐ。そして目を閉じよう。しばらくの間、空気で満たされた大気圏に囲まれたこの惑星、地球に生きていることを思い出してみる。生き物たちはこの大気を分かち合っていて、それは十分に高く、十分に広く、さまざまな全ての命を支えるために十分なほど大きい。みんな、空気とエネルギーの大海の中で呼吸し生きている。


今度は意識を自分の呼吸に向けて、それぞれの呼吸が、吐く息と吸う息で構成されていることも思い起こす。息を吐く間は、肺は空になって老廃物が取り除かれていく。息を吸う間、空気とエネルギーを周りの大気から引き込んで、それで肺を満たしていく。それは十分以上ある。こうして、ひとつひとつの吐き出す息が浄化してくれ、ひとつひとつの吸い込む息が力を与えてくれる。


意識を呼吸の流れに向けてみよう。呼吸が楽に流れるように、お腹とともに、胸郭の横や後ろを和らげる。呼吸の感覚を身体的にしてみる。お腹や肋骨の下部の動きが心地よくリラックスして感じられる。呼吸そのものの感覚に気づき始めよう。それぞれの吐く息の流れが体を空にし、緊張や疲労や老廃物を運び出していくのを感じる。そして、それぞれの吸う息が新鮮なエネルギーや健康で幸福だという感覚を引き込んで満たすのを感じる。心の中に現れて出ていく考えには、あまり意識を集めない。最も意識を集中するのは、呼吸の流れだ。


時間が経つままにする。すると、徐々に呼吸のプロセスの感覚がより深くなってくる。呼吸が空にしていくのを受動的に感じるのではなく、体の疲労、否定的態度や心の暗い部分をそっと集めて、そして吐く息と共に意識的に手放していく。


これを行うのに、憂鬱である必要はない。このように解放できるような疲労や緊張は、常にあるレベルで存在する。しかし、落ち込んだ気分で時間を過ごしているなら、一息ごとに、体や心の中の苦しいという感覚を、流れ出る呼吸の一部として意識的に手放そう。(手のひらにある心の苦痛や疲労感を指を開いて解放するのを思い浮かべるといい。)


今度は、息を吸い込みながら、意識的に新鮮なエネルギーの波が体の中に入ってくるのを受け止めて受け入れよう。それは、自然に体や心に広がって行き、こうしてエネルギーを補給し本来自分のものである幸福感を取り戻すのだ。


心地よくリラックスし続けられるように、必要なら時々姿勢を調整しよう。考え事が現れて消えていくかもしれないが、それは主な集中点ではない。呼吸に集中する。考えが陰鬱なままだったり対処が難しかったりするなら、それにこだわらないことだ。いつでも必要になったら、後で呼吸へ意識を向ける練習ができることに気づいておこう。けれど、練習の間は悩まないでおく。ただ、呼吸の感覚に気づくだけだ。


10分程度経ったのち、ついには、呼吸に気づいて心が徐々に活動的になってくるのに気づくかもしれない。この思考が増えることはいいことだ。心が活気を取り戻しているということだ。だから、呼吸へ意識を向ける静かなひとときから出る時が来たら、ただ両手で目を覆って意識を周りの世界へとそっと引き戻そう。


よければこの練習を1日に2、3回練習してもいいが、一回だけでも驚くほど効果的だ。呼吸は、内側にある尽きることのない源と繋がっているリボンのようなもので、心身を育んでくれる。そして、練習の間に体験した吐く息吸う息は、いつでも感じることが可能だ。呼吸への意識を通して、一息ずつ、健康を取り戻していこう。



2022年8月31日水曜日

ブレスワークで脳を落ち着かせる 
Calming Your Brain Through Breathwork

今回は Psychology Today の記事から。
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激しく動き回る思考。考えすぎ。固執。これらは全て、あまりに考えてしまうことからくる心の困難な状態だ。このことは認識して受け入れることが重要なのだが、どうすればあまり考えないようにできるのだろうか?


武術やヨガ、瞑想など、こうした心の状態をもたらすのに役立つ実践法はたくさん存在する。これらのスキルが身に付くまでには時間がかかるが、とても効果がある。しかし、もっと簡単に今すぐ頭の中を配線し直す方法はあるのだろうか?



落ち着かせる鍵は、ゆっくりと安定した呼吸


思考をゆっくりにして心を落ち着かせることが、もちろん、多くのマインドフルネス法の究極の目標だ(最も明らかな例は瞑想)。けれど、これは多くの人にとって、そして特に始めたばかりの人にとっては、難しいかもしれない。思考そのものを使って思考を変えようとするなら、それは痒い皮膚を皮膚自身で掻こうとするようなものだ。変えようとしてるもの(思考)と考えているもの(心の中の自分)、そして変えたいと思っている基となるもの(思考へと戻すもの)との間には深く密接な関係がある。






その方法のひとつは、ゆっくりと考えてみること。そしてこれは、体の動きからの感覚反応が脳活動に与えている影響を遮断できるかどうかによる。息を吸ったり吐いたりすることで脳の配線を変えてみよう。


では、次の段階にいくための脳の繋ぎ直しだ。たくさんの練習をしなければ(マインドフルネスだ)脳活動を直接、期待通りに調整することはできない一方で、脳の外にある体の他の部分は直接コントロールすることができる。体の動きや呼吸だ。


人も動物だ。この世界の動物であるということの大部分は、動き回ることだ。そして動き回るには全ての細胞に酸素が必要で、呼吸から二酸化炭素を取り除かなければならない。つまり、動いて呼吸することが、この世界の生きた動物の基本的特徴ということだ。



落ち着かせる鍵は、鼻から吸い込むこと


鍵となるのは、直接影響を与えることのできないことをコントロールしようとするのを止めて、コントロールできることのスピードを落とすこと。落ち着くためには、呼吸を調整するのが鍵だ。動きをゆっくりにして、慌てず、鼻から息を吸い込む。やりたければ口から息を吐き出してもいいが、吸い込む時は鼻からというのが必須だ。一回ごとの息をゆっくりにして、吸う息と吐く息の間で少し息を止める。こうした努力が、脳に一定のリズミカルな体性感覚信号を送り、心を落ち着かせていくのに役立つのだ。


こんなふうに考えていると(あるいは「考えずに」と言った方がいいかもしれない)、呼吸が、心の石庭の混沌に平穏を取り戻してくれる熊手のようになってくれる。これは本当に効き目があるし、今すぐ簡単に始められる。人という動物は大きな素晴らしい脳に恵まれているが、だからといって脳に自分を引き摺り回させなくてはならないというわけではない。そんなことを心に留めながら、何回かただ呼吸してみよう。そして、マインドフルネスを毎日の習慣として続けることをちょっと考えてみよう。

2022年8月29日月曜日

毒素にうんざり?おうちでのデトックス法 
Tired of Toxins? How to Detox (at Home)




このところずっと怠く眠く感じて少し憂鬱なのですが、なぜだかわかりません。どこが悪いのでしょうか?


アーユルヴェーダによれば、倦怠感や眠気、憂鬱はアグニが低いことの表れです。アグニとはサンスクリット語の「火」という意味の言葉です。一般的には、太陽神経叢つまりみぞおちにある消化力を表します。アグニの仕事は、消化を助け、食べ物の栄養を吸収し、皮膚や肝臓、腎臓などの浄化の臓器が老廃物を体外に排出するのを助けます。しかし、アグニはそれだけではありません。私は、小さなだるまストーブに例えるのが好きです。私たちの住処(体)の中心です。消化は、免疫や活力、精神の明晰さなどと同じく、それに依存しているのです。


アグニが強い時は、健康的な食欲や、寒い天候への強い耐性、豊かなエネルギー、風邪やインフルエンザや他の病気に対する抵抗力を持つことができます。しかしアグニが弱いと、膨満感や消化不良、便秘や下痢、内臓の冷え、免疫低下、疲労感や全身の活力低下などが起こります。また、アグニが低い時には、食べ物を効率的に代謝することができず、消化不良からアーマ(未消化の残余物、あるいは毒素)が作られてしまいます。アーユルヴェーダの視点では、これが問題のもとになると考えられています。




体をデトックスして活性化させるにはどうすればいいの?


アグニを強化には4つの簡単な方法があります。有酸素運動、アグニを対象としたハタヨガの練習、健康的な食事、そして解毒のハーブです。


➢ ヨガと有酸素運動


理想的には、毎日運動する方が良いでしょう。けれど、30分間の運動を週に5、6回以上行うことがおすすめです。水泳や自転車、ダンスなど、心拍が上がるような、楽しめるものを選びましょう。また、アグニ・サラ(腹部の締め付けや引き上げ)、捻りのポーズ、前屈後屈、脚上げ、腹筋運動など太陽神経叢や消化の火を強化するハタヨガをしましょう。しかし、ハタヨガの練習を、毎日の義務のひとつにしてしまわないようにしましょう。ハタヨガは、呼吸と共に動くものであり、今に存在して身を委ねるものです。精神的な修養の準備であるべきで、他のエクササイズとは異なります。


自分の能力や使える時間の量に合わせて、持続可能な運動のスケジュールを立てましょう。例えば、私は平日の朝は10ー15分間のヨガをして、昼食時に45分間散歩、そして就寝前に落ち着いて瞑想できるようなヨガを少し行います。あなたには、あなた自身に合った練習法が必要となるでしょう。



➢ 健康的な食事


三つ目に、全粒の穀物や果物、豆類、または少量のオリーブ油やバター、ギー(精製バター)で調理した野菜(生野菜は消化しにくい)などの、新鮮で栄養のあるものを食べましょう。消化の火を燃やすため、食事の時にジンジャーティーを啜ったり、生姜やニンニク、シナモン、クローブ、バジル、オレガノ、胡椒、唐辛子など温める辛味のハーブで味付けをしましょう。


目的は、気分が良くなるような食べ方をする事です。ですから、食べる時に食べ物があなたにどんな影響を与えているかに気づきましょう。満足して元気になりますか?それとも疲れた感じがしますか?


もし怠さを感じたら、消化の火の能力を超えないように食事を少なくしてみましょう。ため息をつきながら「ああ疲れた、ひと眠りしなくちゃ!」と言ってしまうような食事はやめましょう。


思い出してみてください、アグニは火です。火に薪をくべすぎたり、大きな重く湿った薪を入れれば、火はくすぶって消えてしまうかもしれません。同様に、食べすぎたり、間違った食べ方をすれば消化の火はくすぶってしまいます。グルテンのある穀物(小麦など)、肉、乳製品、脂っこいものには、強い消化の火が必要です。こうした食べ物はとても栄養があるかもしれませんが、アグニが弱い時はすぐにアーマを作り出します。アーマはクリームチーズのような質を持っています。重く、濃厚で、粘性があります。アーマは体の弱い部分に蓄積されますが、それは人によって異なります。例えば、膝関節に溜まる(こわばりとなります)人もいれば、心臓まわりの血管を詰まらせる(心臓病になります)人もいます。簡単に言えば、どこであれアーマがあれば、すぐに病気や不健康な状態になるのです。


これを予防するには、2、3週間、小麦や乳製品を減らし(あるいは完全に避ける)、脂っこいものや揚げ物を止め、代わりにキノアや黍などの軽い穀物を食べましょう。そして、1、2週間、どう感じるかを観察します。私の患者の多くは、より軽く、明晰で精力的になったと言っています。彼らのアグニの負担が減って、より明るく燃えるようになったからです。



➢ 解毒のハーブ


最後のヒントは、腸を浄化する事ですが、これはちょっとした食事の変更や解毒のハーブの助けがあれば簡単に行えます。もし、定期的なお通じがない、あるいはあまり質の良くないものをたくさん食べているとしたら、その結果生じたアーマが腸の壁にくっついているかもしれません。これが栄養の吸収を妨げ、老廃物の排泄をも妨げます。この状態が自家中毒と呼ばれる健康状態を起こす事もあります。つまり、腸に溜まった毒素が体内組織に溶け出し始めている状態です。これが、頭痛や疲労感、ニキビや蕁麻疹、吹き出物といった発疹など不快な副作用の原因となります。


毎日のお通じのため、より多くの食物繊維と水を取り入れましょう。サイリウムというハーブ(水溶性で小さなタワシのように働く)をお勧めします。腸壁に溜まったアーマを取り除くのに役立ちます。トリファラというアーユルヴェーダのハーブ・ミックスも良いでしょう。トリファラを便秘薬と考える人もいますが、実際には腸の強壮剤です。腸壁を整え、腸の働きを最適な状態にします。便秘や下痢なら、トリファラで排泄器官を正常に戻すことができます。アーユルヴェーダの文献では、トリファラのことを「アーマを取り除くコテ」と表現しています。腸から毒素を引き出して体の外へ流し出す助けとなります。


こうしたハーブは誰でも摂ることができます。複数を同時に摂取するように、患者さんに指示することもあります。春や秋の健康維持のため、6-8週間、夜にトリファラを朝にサイリウムを、などです。


朝のサイリウムは、ティースプーンに一杯だけ(もっと多く摂る指示が瓶に書いてあったとしても)使います。2カップ以上の水やジュースに混ぜてすぐに(どろっとする前に)飲みます。サイリウムの殻は、その重さの100倍の水を吸収します。ですから、たくさん水を一緒に飲むことが重要となります。そうでないと、特に便秘気味の人は、繊維が体の水を吸い取ってしまうでしょう。ティースプーン一杯のサイリウムで、快適だけれどあまり効果がない時は、量を倍にしてみましょう。けれど、お腹が張ったり便秘になったら、分量を減らすかもっと水の量を増やしましょう。(注意:サイリウムと一緒に薬やビタミン剤を飲まないでください。繊維で包まれてしまうと吸収されなくなります)


夜のハーブとしては、ティースプーン一杯のトリファラの粉を、カップ一杯の沸騰したお湯に溶かして6ー8時間以上置きます。正確に時間を測るため、正午、あるいは朝出かける前に準備しましょう。このお茶を、固形物をカップの底に沈めたまま、就寝時に空腹状態で飲みます。アーユルヴェーダの理想では、ハーブは味わわなければなりません。味にもかすかな薬効があるからです。けれど、トリファラの味が好きではないなら、かわりにカプセルやタブレットを、パッケージの指示通りに飲んでもいいでしょう(通常、1日2回2錠、空腹時にお白湯で飲みます)。


もし、体内に多くのアーマがある場合は、発疹や頭痛、お通じなどトリファラの解毒反応が起こるかもしれません。その場合は、量を半分に減らします。でも心配しないでください。解毒反応は悪い兆候ではありません。体が蓄積したアーマを取り除くのを助けているのです。穏やかに少しずつ解毒するのが良いでしょう。






では、最初の質問の答えです。
体内のアーマを浄化し、エクササイズやハタヨガ、食事やハーブで代謝を活性化させることで、アグニを強化し、より明晰で活発、生命力に溢れていると感じられるでしょう。


2022年8月24日水曜日

ホットフラッシュ?更年期の症状を緩和するヨガ Vol.2
Feeling a Hot Flash? How Yoga for Menopause Might Help Your Symptoms



更年期症状のためのヨガポーズ

以下が、更年期によくある症状とそれらを緩和するおすすめのポーズです。



ホットフラッシュのためのヨガ




最もよくみられ(そして不思議な)症状のひとつホットフラッシュは、おおよそ80%の女性が閉経周辺期に体験します。体の中心部温度上昇に伴う心拍上昇、これらの「パワー・サージ」は、顔のほてりから始まって首や腕にまで至ります。ホットフラッシュは、現れた時と同様にすっと消え、多くの場合、体が体温変動を正常に戻そうとして、湿って肌寒く感じます。


ホットフラッシュの本当の原因は何なのかは知られていませんが、学説はさまざまあります。視床下部が重要な役割を担っているという人もいます。その他、体内のホルモン変動が血管や神経末端を刺激し、血管を過剰に拡張させて熱くほてった感覚を作り出しているという可能性もあります。ほとんどの研究者(そして多くの更年期女性)は、ストレスや疲労、集中した活動などがこれらの症状を増大させることを認めています。


ウォールデンは、落ち着かせるレストラティブなポーズをより多く取り入れることを勧めています。体内のどんな握りしめや緊張もホットフラッシュを悪化させる可能性があるため、ボルスターやブランケット、ブロックなどのプロップスを使用して全身を支えると良いでしょう。例えば、前屈の時に頭をボルスターや椅子に置くと、脳を落ち着かせて神経をリラックスさせるのに役立ちます。支えのある横たわったポーズはまた、完全なリラクゼーションを促すことができます。例えば、横たわった合蹠のポーズ横たわった英雄のポーズなどは、下腹部を柔らかくして、胸やお腹の強張りを解き放ちます。椅子に両脚を置いたアルダ・ハラサナ(半分の鋤のポーズ)は不安定になった神経を鎮めます。



記憶のためのヨガ



更年期の間は、突然思考の流れを見失って整理することができなくなる人がいます。この頭のぼんやりは、ホルモン変動が大きい時に起こります。思春期の少女や妊娠中の女性、産後の女性は、同様の頭のぼんやり感を訴えることが多々あります。ヨガは、特に睡眠不足や感情の揺れによって症状が悪化している時に、この混乱を取り除いてくれます。後屈や胸を開くポーズ、逆転のポーズなど鬱を抑制するのと同じポーズが、ばらばらになった思考をまとめるのに役立つとウォールデンは言います。


また、アドムカ・シュヴァナサナ(下向きの犬のポーズ)は、血液を脳に送って深く集中した呼吸を促し、精神の集中を向上させます。そしてシャヴァサナ(屍のポーズ)は神経を落ち着かせ、心を鎮めて、体を休息状態へと導きます。


こうしたアサナは、更年期やその後を進む時に、女性が身につけておけるツールの一例です。今までにヨガをしたことがないのなら、体が手に負えないと感じる時に素晴らしい救いとなってくれるでしょう。ヨガが連れ合いとなって長いなら、体が必要としているものへと練習を変えていく良いタイミングかもしれません。結局のところ、ヨガの価値は生涯なのですから。アリソンが言うように「特に人生のこの時期で、私はヨガからとてつもない多くの恩恵を得ました。肉体的に体の状態も良くなったし、精神的な浮き沈みを助けてくれました」




疲労のためのヨガ




閉経周辺期で女性が訴える症状の中でも、ホットフラッシュに次ぐのは疲労感です。特に疲労感が鬱や倦怠感を伴う場合は、プロゲステロンの急減がその原因かもしれません。数日や数週間続く説明がつかないほどの疲労感を感じるなら、副腎の消耗が一因かもしれません。


どちらにしても、支えのある優しい後屈をウォールデンは勧めています。そうしたポーズは、胸や心臓の辺りを開き、大抵はエネルギーや決断力、喜びを与えてくれるからです。その中で彼女のお気に入りのひとつはこのスプタ・バッダコナサです。この深いレストラティブのポーズは、平穏と滋養の感覚を教えてくれます。また、胸を開いて呼吸や血流を促し、体を完全に支えながら気分を高めます。



不安、イライラ、不眠のためのヨガ




閉経周辺期の間は、エストロゲンが急増し(あるいはプロゲステロンが急減)、不安や神経過敏、イライラが起こります。副腎が酷使されて疲弊すると、それもまた不安や強いイライラを引き起こす可能性もあります。(多くの代替治療では、ストレス、質の悪い食事、睡眠不足などに常に対処し続けることで、副腎が疲弊すると考えられています)


人がストレス下にあると、ストレッサーと戦うため交感神経が反応して心拍数が上がり、消化管の筋肉の動きが遅くなり、脳への血流が増加します。


ストレスがなくなると、副交感神経が反応して、その逆のことを行います。つまり、心拍数がゆっくりと正常に戻り、消化管の滑らかな筋肉が刺激され、体内組織のバランスが戻ります。


身体が絶え間ないストレス下にあれば、交感神経系や副腎(ストレスに対抗するホルモンや、エストロゲンに変換される男性ホルモンを作ります)がフル回転して動けなくなってしまいます。


ウォールデンによれば、ウッターナサナ(立位の前屈)やプラサリタ・パドッタナサナ(開脚した立位の前屈)などの前屈で、ボルスターやブランケットの上に頭を休ませませると、イライラや精神的な緊張を減らすのに役立ちます。なぜなら、前屈で注意散漫にさせる外界の刺激を締め出すことで、心を落ち着かせストレスの影響を減らすことができるからです。そうして神経系が万事OKという信号を受け取り、副腎や交感神経系が必死に働くのを止めるのです。


もし不眠に悩んでいるなら、体のエネルギーを根付かせ過剰な不安を燃焼してくれる逆転のポーズが役立つこともあります。リストラティブなポーズは、深い休息の状態を促します。




鬱や気分変動のためのヨガ



更年期は出産可能時期の終わりのサインで、多くの女性にとって、青年期が終わるのを悲しむ時です。長く続く疲労とともに、憂鬱で、今までの人生が終わったという感覚によって、鬱を引き起こすこともあります。過剰なプロゲステロン(あるいはエストロゲンの急減)がまた、ひどい憂鬱感から深刻な鬱病に至るまでの全ての原因となりえます。


けれど、ヨガの実践者らは昔から、身体を使って行うことは心や考え方に影響するとわかっていました。時には、ポーズを少し変えるといった微細なことでも、暗い気分を明るくしてくれるのです。女性が尊厳を持ち胸を開きながら背筋を伸ばして立っている時、そして自信を持って歩いている時、私は安定して幸福で周りの環境と調和しているのだと、世界に向かって(そして最も大切なのは、自分に向かって)告げているのです。


ウォールデンは、心に肯定的な効果を与える精神状態を特定のポーズが作り出すことを発見しました。「後屈をすると、特にサポートされている状態では、体の中に軽い感覚が起こります。後屈ポーズは副腎を刺激して、マッサージで活発にします。また、心臓や肺が開いてより多くの酸素を取り込みます」様々な胸を開くポーズは、呼吸や血流を向上して体に活力を与えるので、鬱積した感情を抑制します。そしてショルダースタンドなどの逆転のポーズは、暗い気分を緩和するのに役立つことを、多くのヨギが気づいています。「全てを上下逆さにすることで、逆転ポーズは、感情の肯定的な方向へと作用するのです」

2022年8月22日月曜日

ホットフラッシュ?更年期の症状を緩和するヨガ Vol.1
Feeling a Hot Flash? How Yoga for Menopause Might Help Your Symptoms

今回は、女性が必ず通る更年期に関連する症状とその対処法などについてです。
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48歳のアリソンにひどいホットフラッシュが起こり始めた頃、それはたいてい夜に起こりあまり眠れませんでした。彼女の閉経周辺期の症状というのは、概して、「我慢できない」以上のものでした。そして生理周期は全く手に負えなくなったのです。「突然、出血量がものすごく増えて、以前の2倍ほど長く続きました。生理期間がいつまでも終わらないのです」かかりつけの婦人科医師は、アリソンにホルモン補充療法、つまり更年期症状を抑えるための処方薬を薦めました。「症状が本当に酷いのなら考えてみてと言われましたが、とにかく乗り切るために何でも試そうという感じでした」とアリソンは言います。


彼女には、ホルモン補充療法をやめたい思う正当な理由もありました。その治療法は、人工的にエストロゲンとプロゲステロンのレベルを上げるもので、近年では問題とされてきています。多くの研究によって関係付けられているのは、乳癌や心臓疾患、卒中など命に関わる症状のリスクが上がることです。


アリソンの生理周期が不定期になってすぐ、いつも通っているヨガスタジオで、生理周期に関連する肉体的な不快に対処するのに役立つよう作られたアイアンガーのアサナ・シーケンスを習いました。ポーズの多くはリストラティブなもので、スプタ・ヴィラサナ(横たわった英雄のポーズ)、スプタ・バッダコナサナ(横たわった合蹠ポーズ)、ジャヌシルシャアサナ(頭を膝につけるポーズ)など頭をサポートして行うものでした。次の生理が始まって、アリソンは毎日そのシーケンスを練習していたら、経血量が普通に戻ったことに気づきました。その結果に勇気づけられ、ホルモン補充療法をしなくても症状をコントロールできるのではと考え始めました。彼女が探していた緩和法は、多分、ヨガなのだと彼女は思ったのです。そして、その直感が正しかったことが証明されました。多くの女性が、ヨガによって、ホットフラッシュなどの更年期の不快な症状を緩和されることに気づいています。



ホルモンバランスのためのヨガ


更年期そのものは、単に月経が止まる時期であり、一般的には数年間続きます。この段階を閉経周辺期といい、おおむね45ー55歳の女性に起こります。閉経周辺期には、エストロゲンとプロゲステロンのレベルの変動により、さまざまな不快な症状を引き起こすことがあります。その中でも多くみられるのがホットフラッシュ、不安やイライラ、不眠、疲労感、鬱症状、気分変動、記憶力低下、そして生理不順です。


これら全てを経験する女性は少ないですが、約55ー65%がいくつかの軽い症状を経験していると、カリフォルニア州トーランスにあるハーバーUCLA研究教育研究所のローワン・クレボースキー博士は言います。約25%がほとんど日常生活に支障がないと報告している一方で、約10-20%が深刻で、しばしば体が衰弱するほどの症状に悩まされています。


ホルモンの変動は、概して女性の生物学的な次段階への途中で起こります。思春期のニキビや気分変動、妊娠期のつわり、そして出産後の鬱などさまざまな不快が現れます。「更年期も例外ではありません」と、『A Woman’s Best Medicine for Menopause(更年期女性の最良の薬)』の著者であるナンシー・ロンスドルフ医師は言います。


閉経周辺期が始まるまで、女性の毎月の月経周期を働かせているのは、食欲や体温など多くの身体機能を調整している脳の基部にある視床下部です。視床下部は脳下垂体に重要な生殖ホルモンを分泌させる信号を送り、こうしたホルモンは次に卵巣のエストロゲンやプロゲステロンの分泌を刺激します。閉経周辺期には、卵巣と脳下垂体がいわば綱引きをします。卵巣がホルモン分泌を減らす一方で、ホルモンレベル低下を感知した脳下垂体は卵巣を刺激し続けます。この慌ただしい格闘によって不安定なホルモン変動が起こります。過剰なエストロゲンが体のエンジンの回転速度を上げたと思えば、プロゲステロンが急激に分泌されて体のスピードを落とすのです。


「ホルモンはとても強力です。体のまさに全ての組織に影響を与えます」ロンスドルフ氏は言います。「ですから、体がこうしたホルモン変化を調整しようとすれば、さまざまな状態が起こり得るのは無理もありません。例えば、不安定なホルモン・パターンに脳が影響を受ければ、睡眠や気分、記憶力など全てが影響を受けますし、不定期なホルモン・パターンで子宮が刺激されれば不正出血が起こる、などです」


一般的に女性がこのホルモン変動を始めて体験するのは、生理が止まる約6年前です。こうした症状は大抵の場合、生理が止まってホルモンレベルが徐々に安定する一年以上後まで続きます。更年期の後の卵巣は、女性ホルモンをあまり作らなくなります。けれど、体はまだ骨の健康を保ち、膣の乾燥などの症状を抑えるため、いくらかのエストロゲンを必要としています。腎臓の上にある副腎は、脂肪細胞をエストロゲンに変換する男性ホルモンを分泌してますが、その分泌が減ることでこうした変化の中で重要な要素となっています。それでも、体はホルモンレベルがかなり下がった新しい状態に適応していく必要があります。


こうした自然な生理学的変化や大混乱で多くの女性が悩まされていることを受けて、1960年台、研究者らによって、よく見られる更年期障害の治療法が探し始められました。最終的に勧められた治療がホルモン補充療法でした。その論拠は、ホルモンを体に戻せば、エストロゲン減少からくる諸々の問題は単純に消え去るというものでした。科学者らは、以前と同じレベルのホルモンを維持すれば治療できると信じていたのです。


ホルモン治療法は、更年期の症状を管理する簡単な解決法でした。けれど、いくつかの大掛かりな研究が、ホルモン補充療法によって女性が深刻な健康リスクに晒されることを示してから、より自然な治療法を多くの女性らが探し始めました。ヨガに解決法を求めた人々は、アサナが直接的にエストロゲン生成に影響を与えることはないけれど、不快な症状をコントロールするのに役立つポーズがあることに気づいたのです。特にリストラティブなポーズは、神経をリラックスさせ、内分泌系(特に視床下部、脳下垂体、甲状腺、副甲状腺)の機能を向上させ、ホルモン変動へ適応するのに役立ちます。




更年期障害を緩和する


ヨガインストラクターのパトリシア・ウォールデン(57)は、ヨガがどのように更年期障害を緩和できるかを直に理解しています。多くの女性たちと同様、彼女の症状も雨のように現れました。最初は小雨のように、そして本格的な嵐となりました。最初にホットフラッシュが来て、次の年には、絶え間ない疲労感と不眠に悩まされました。しばしば夜中に目覚め、そのまま3時間起きたままということもありました。


症状が重くなった時、ヨガの練習方法を変える必要があると彼女は気づきました。彼女の毎日の練習は力強いものでしたが、サポートのない逆転ポーズや、激しいポーズ、後屈などが時に症状を悪化させることがわかったのです。そんな時は、サポートのあるリストラティブなポーズで神経を落ち着かせることにしました。逆転ポーズも続けましたが、ホットフラッシュをより引き起こしてしまうサポートのないシルシャアサナ(頭立ち)の代わりに、ボルスターを使ったセツ・バンダ・サルヴァンガサナ(橋のポーズ)や椅子を使ったサーランバ・サルヴァンガサナ(肩立ち)を行いました。そのように変えることで、体の熱を上げたり辛い症状なしに、不安やイライラを緩和するという逆転ポーズの効果を得ることができました。


症状が消えていくにつれ、ヨガが、ホルモン変動に伴う症状を緩和する強力なツールになりえるという確信を深めていきました。そして同様の症状を体験している他の女性と繋がり、更年期障害のある女性のためのヨガを考案し始めました。「以前から女性の健康問題に興味があったのです」ウォールデンは、リンダ・スパローの 『The Woman's Book of Yoga and Health: A Lifelong Guide to Wellness(女性のヨガと健康:生涯健康でいるために)』 の共同著者でもあります。「でも、自分が更年期を経験した後は、もっとずっと理解できるようになりました」


日常的なヨガの練習には、女性の更年期をがらりと変える力があります。そして、更年期の前にしっかりとした練習をすれば、その移行期が楽になると、『Yoga and the Wisdom of Menopause(ヨガと更年期の智慧)』 の著者であるスーザ・フランチーナは言います。「更年期の前にヨガを練習していれば、特に更年期障害に効果的なポーズの全てに既に慣れ親しんでいるので、長年の友人のようにポーズを行うことができます。リストラティブなポーズに慣れ親しんでいるなら、最高の更年期障害の緩和が意のままに使えるのです」

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2022年8月5日金曜日

デトックス?浄化?アーユルヴェーダではどう考える? 
Detox? Cleansing? What's Ayurveda's Take?


昨日、私はスーパーマーケットで、3日間「肝臓をデトックスする」と書かれた商品を見つけました。くすっと笑ってしまいました。嘘の広告だとは言いませんが、「デトックス」という言葉はさまざまな意味を持っているので、デトックス商品がいうところのデトックスにどんな根拠があるのか私にはよくわかりません。私が言えるのは、こうしたデトックス・プログラムを始めて、結局、以前よりも気分が悪くなってしまう人が世の中にはたくさんいるということです。そして、こんな一体型のデトックス・キットを買い物かごに入れる前に、そもそも体の何を「デトックス」しようとしているのかを理解する方がいいでしょう。季節的なアレルギー?頭がぼんやりする?太り過ぎ?むくみ?シミや肌荒れ?関節のこわばり?頭痛?セルライト?取り除きたいもののリストはどこまでも長いでしょう。



ほとんどのアーユルヴェーダの浄化法は、体の系統(腺など)、内臓(肝臓など)、アーユルヴェーダで組織のひとつと考えられている血液などの組織を浄化したり、余分の水分を体から取り除くために作られています。そして、体が溜め込んでいる老廃物を無毒化すると、気分が良くなって、より効率的に機能し、全体的な健康や幸福感を支えます。アーユルヴェーダ医師のジョン・ドゥイヤールによれば、浄化においては、「消化力や体の自然な浄化の経路をリセットする方法を知る必要があります」ここでの問題は、私たちには、色々な健康問題を助けると謳う何にでも効くデトックス・プログラムや浄化の商品を買う傾向があり、大抵の場合それはサプリやジュースを摂取することになります。けれど、それ以外はいつもと同じように過ごしているのに、どうやってハーブや錠剤の箱が、内臓や組織や脂肪細胞を本当に浄化することができるのでしょう?炭酸飲料を飲んだり、チップスを食べたり、コンピューターの前に座り続けたり、睡眠習慣に気を配らなかったりし続けていたとしたら、そんなデトックス法など本当に効くのでしょうか?


答えは明らかです。そもそも、疲労感やだるさ、不安定さや膨満感などの原因となる問題を紐解いてはどうでしょう?アーユルヴェーダは、一年に2回の解毒を推奨しています。実践者として、私たちは季節に従い、積極的に体内をきれいに保つようにしています。その考え方は、半年に一週間、簡単で優しい浄化や活性化をすれば、一年中健康でいられるということです!半年に一度の浄化と解毒で、私たちの体は、老廃物の蓄積や疲労感、不活性に悩まされることがなくなります。


浄化とともに、体に滋養を与えたり活性させる実践法を一緒に行うと良いでしょう。深いリラクゼーションや瞑想、健康的な食事、そして疲れたり浄化後の病気にならないよう消耗した体を回復させるためのハーブを摂るなどの毎日の習慣です。時間や気づきは、デトックス・キットには含まれませんが、アーユルヴェーダの浄化プログラムにおいては大切な役割を担っています。アーユルヴェーダのスペシャリストや実践者に相談したり、アーユルヴェーダの原則を徐々に毎日の習慣に取り込んでいけば、何を浄化しているのか、そしてなぜなのかということが(一気に全てに取り組むのでなく)わかってくるでしょう。


では、デトックスと滋養のピログラムはいつ始めるのが良いのでしょう?アーユルヴェーダでは、最適の時期が年に2回あります。春と秋です。この季節が変わる時期には、心と体の状態を見極めてケアするための時間をとると、大いにその恩恵を授かることができます。


5日から3週間かけて、食事、睡眠、心の状態、そして日々どのように生活しているかに注意を向けることは極めて健康的です。一切合切をデトックスして、その効果を得られるのは間違いありません!日々あれこれのスピードを落として、毎日の習慣に浄化と滋養を取り入れましょう。ヨガや毎日のエクササイズをして、消化の火を調整し続け、内臓を機能させ、筋肉を活性し、老廃物の経路を整えます。季節の食べ物を薬として消化を支えましょう。例えば、春には浄化してくれる軽い芽野菜を、秋には6味を入れた栄養たっぷりのキチャリ(スパイスを入れたレンズ豆と米の粥)を食べます。毎日、自然の中で練習して、魂と繋がり続けましょう。自然の力は私たち自身よりもずっと大きいのです。起床、就寝、食事の時間を整えましょう。


秋のデトックスは、暑い季節から寒く乾いた辛い季節へと入っていくので、活性化の方により焦点を当てます。暑く軽い性質の夏は自然とデトックスされていきますので、浄化はあまり必要ありません。けれど、自然のヴァータ段階である冬になる前に、熱を下げて自身を落ち着かせなければなりません。クラウディア・ウェルチ博士によれば、「体からピッタを除去してヴァータを鎮めると良いです。秋のアーユルヴェーダ浄化はこれを促し、体のギア・チェンジをして消化のボタンをリセットしてくれます」


冬から春へ季節が変わる時のデトックスでは、より集中した食べ物の浄化を試みます。一年のうちで活力が溢れる季節に入っていきます。自然界の全てが春の再生のために浄化、活性します。それは私たちも同じです!春のクレンジングについては、アーディル・パルキヴァラが言うように「感じられる最も劇的な変化は、精神的な明晰さです。肌は輝き、ゆったりとした深い眠りを得られるでしょう」


そうです。これは箱に入ったデトックス製品とは全く異なります。アーユルヴェーダのデトックスに関係した浄化や活性化のハーブも存在しますが、これらは体の一部だけを分離してではなく、体を全体として浄化することを助ける穏やかな方法で使われます。アーユルヴェーダの原則は、生理学的な体が全て一緒になって働くことで私たちは生きているということを思い出させてくれます。ですから、その効果を存分に得るには、体の一部だけでなく、特に消化に焦点を当てながら全身を浄化することが必要なのです。


デトックス製品には全く意味がないとは言いません。ただ、1週間程度、意識をライフスタイルや食事、睡眠、精神的な気づきなどに向ければ、体や心にもっと有益な浄化の効果が得られるということをおすすめしたいのです。次に季節が移り変わる頃、自身に滋養を与えるために何が必要かを、今、確認してみましょう。箱に入ったデトックス製品の代わりに、季節のリセット、つまり心と体の浄化と滋養の実践で、バランスをとり戻し健康的な一年にしましょう。






(出典) https://yogainternational.com/article/view/detox-cleansing-whats-ayurvedas-take


2022年7月8日金曜日

足の痛みのためのヨガ 
Yoga for Your Aching Feet




私たちの社会で蔓延している、土踏まずの衰えや扁平足によって、矯正装具業界は安定した収入を得ています。しかし、サポーターやインソールを使ってもたいしてよくならない痛みに悩む人は依然多いのです。たとえば、朝ベッドから立ち上がった時、足の痛みやふくらはぎの張りに驚かされることはありませんか?まさにこれが、足の土踏まずの内側を引き上げている筋肉の慢性疲労からくる痛みのひとつなのです。落ち込んだ土踏まずによって、腱炎につながる可能性があり、また腱膜流や脛骨過労性骨膜炎、膝痛や股関節痛を引き起こす原因となりえ、また腰や首、肩にまでも影響を及ぼす可能性もあります。


土踏まずの強さは、両足の骨を閉じるのに使われる靭帯の張りや硬さ、そして支えている筋肉の強さという二つの要素によります。靭帯が緩い、あるいは時間とともに緩むと、支えている筋肉をより強くしなければならなくなります。





靭帯の緩みにより土踏まずが扁平になった時に即影響を受ける筋肉は後脛骨筋で、脛骨の後ろから土踏まずの内側へと走っており、土踏まずを引き上げる働きをしています。



この筋肉の腱は、内かかとの骨(内くるぶし)の後ろと下から、土踏まずの内側の骨、ちょうどくるぶしの前へと走っています。この先端では、鳥の羽の形をしています。この網のような形状のおかげで、内くるぶしで土踏まずの内側を強く引き上げることができます。この筋肉は、とても小さな可動域内において最も強く、そして土踏まずをほんの少しだけ引き上げます。この筋肉を強く保てる範囲を超えて土踏まずが扁平になれば、この筋肉と腱(通常は小さな腱が足の裏にある)は無理をすることになります。結果として、踵の内側、後ろ、あるいは土踏まずに痛みが出ます。また、脛骨筋の筋腹(ふくらんだ箇所)のあるふくらはぎの痛みや張り、触感の強さを感じることもあります。後脛骨筋の腱は、土踏まずを引き上げるエクササイズが効果的です。また、この筋肉自体にもストレッチが必要となります。後脛骨筋に働きかけるには、このどちらも可能な方法を見つける必要があります。



後脛骨筋を働かせる



後脛骨筋は、内踵で足の甲を持ち上げるだけでなく、足をめくって(足の内側を体に引き上げる)足を内側に回転させます(体の中心線に向ける)。後脛骨筋がとても短く硬い場合は、内股になっていて、体重が足の外側に乗っています。この正しくない脚のアライメントで(膝と足が内に向いている)この筋肉を長時間働かせることにより、よりこわばりが増します。


短く硬くなった後脛骨筋はまた、逆の状態の原因となることもあり、その場合は土踏まずが潰れて足が外に向きます。この場合、土踏まずが構造的に弱く後脛骨筋が一緒に引き下がります。そして、硬い後脛骨筋がその周りの全てを引き下げて、膝や腰に影響を与え、足の裏の腱も疲弊させます。




足の甲が高すぎても低すぎても表裏一体となります。どちらの場合も後脛骨筋が(それぞれ上下に)強く引きます。そしてどちらの場合も膝は内に向いているが、両脚の向きは異なることになります。内股の人はよりO脚になり、扁平足の人はよりX脚になります。


後脛骨筋を強化することで土踏まずを強くするだけのプログラムでは、扁平足を直したり足の痛みや引き攣りを治すことはできません。正しい方法は、足のバランスの良い基盤を維持しながら、筋肉を強化し伸ばすエクササイズを行うことです。


ハタヨガはまさにそうしたものです。ハタヨガで行うものの多くは筋肉の「偏心」の働き、つまり、いくらか筋肉を働かせながらもゆっくりと収縮を緩めていく、収縮させながらも同時に伸ばす動きです。これは、土踏まずを維持しながら。後脛骨筋の強さとしなやかさを必要とするものです。


この筋肉を正しくエクササイズする鍵は、足の親指の付け根と内踵を床にしっかりと付けることで足のめくり上がりや回転に抵抗しつつ、土踏まずを引き上げることです。足の内側でこれらの2点に向けて伸ばしながら、後脛骨筋をしっかりと働かせながら長く伸ばすのです。



土踏まずを強化する


まずは、片足ずつ、縮めることなくこの筋肉を強化する負荷をかけたいくつかの運動から始めましょう。扁平足気味、あるいはX脚の傾向があるなら、EasyVigourの創始者であるブルース・トムソンが考案した以下のエクササイズを、ゴムバンドで負荷をかけて行ってみましょう。(ヨガ・ベルトやストッキングなど、負荷をかけられるものなら何でも良いでしょう。)扁平足ではなくても、足の正しい動きを練習するのにこのエクササイズが役立ちます。エクササイズの最も重要な点は、土踏まずを引き上げながら、踵の内側と親指の付け根をしっかりと床につけ続け、足の外側に体重をかけてしまわないようにする方法を身につけることです。


ハタヨガで行う筋トレは、筋肉を強化すると同時に筋肉を伸ばします。


バンドを片方の足首の外側にかけます。反対の足でバンドを踏み、足が回内する側へ(土ふまずの方へ)引っ張られるように調整します。バンドの抵抗に反発し、土踏まずを引き上げるよう、ちょうど良い具合に後脛骨筋を働かせます。膝関節は守るためにやや曲げておきます。働かせている脚の膝関節は、ややX脚の位置で脆弱になりがちだからです。膝の状態をしっかりみながら、膝の外側に手の指を置きましょう。


次に、土踏まずの内側を引き上げ、バンドに逆らって足首を外側へ押し出すように後脛骨筋を収縮させます。これは単に踵の外側に体重を移すのではなく、内かかとや母趾球を床につけたまま足首の内側から引き上げます。脛が外側に回転して内かかとから引き上がると、膝関節が捻れて怪我をします。膝関節に痛みを感じたり、ふくらはぎや足首の外側の筋肉がただ硬く引かれたように感じるだけかもしれません。


土踏まずを引き上げながら膝関節を守るには、内腿の筋肉を使って、骨に逆らって外に押すように引き上げます。そうすれば、大腿骨は横方向に移動するだけでなく、脛骨の外旋に沿ってやや外旋し、膝関節の捻れを防ぎます。これらは全て、後脛骨筋の引き上げから始まることに気づきましょう。そして、膝関節と股関節を守るために、大腿骨の動きとアライメントを調整するよう、内腿の筋肉がその引き上げとともに動く必要があります。




ステップ・バイ・ステップ:プラサリタ・パドッタナサナ


プラサリタ・パドッタナサナ(立位の開脚前屈)は、さきほどゴムバンドで探った動きを使って、後脛骨筋の強化と伸展を促します。このポーズでは、足首の外側の圧迫や引っ張りによる足首の痛みを訴える人もいます。これらの痛みは、足首が崩れている(扁平足のため)か、足首が過伸展している(内股である)証拠で、後脛骨筋を引き上げることでこの不快感は無くなります。




まずは、足を平行に開きます。よくみられる傾向ですが、腰が縮まってポーズでの可動域を制限するため、足先を外に開きすぎないようにします。膝関節を少しだけ曲げ(固定しないよう)、股関節で前屈し、可能なら背骨をまっすぐに保ったまま指先を床に付けます。経験ある人なら、(必要な足幅の調整をしつつ)背骨を少しだけ丸めただけで頭頂を床につけることも可能でしょう。


プラサリタ・パドッタナサナは、当然ながらハムストリングスのストレッチですが、ポーズに深く入るのを妨げているこわばりの大部分は、内転筋の強張りから来ています。この内腿の筋肉は、大腿骨同士を引き寄せ、股関節を縮めて固定もします。そして、内転筋の硬さと同時に、後脛骨筋が土踏まずを引き上げ続けられないことに気づくでしょう。土踏まずが下がると、足首の外側に圧迫を感じ始めることもあります。あるいは、体重を足の外側にかけすぎて、過剰に補おうとすると、足首外側が引っ張られ過ぎていると感じます。





時間をとって、プラサリタ・パドッタナサナでの足と膝を見てみましょう。土踏まずが崩れて膝が内転していませんか?または、前屈するために足先が外を向いていませんか?その場合は、足首の中心と人差し指を結んだ腺を平行に保ち、足がまっすぐ前を向くようにしましょう。土踏まずが崩れたり、膝頭で内転していたり、股関節が動かない、あるいは内腿がこわばっていると感じたら、もっと膝を曲げましょう。内腿を後ろに下げて、坐骨を後方へもっと開き、フットボールでスクラムを組んでいるように背中下部を反らします。


内かかとと母指球を床にしっかりと着けながら、ゴムバンドで抵抗したように両足の甲を引き上げます。体重はかかとの外側に移動し始めますが、内かかとを前にスライドしたり、足を回転したり、捻ったり、ひっくり返したり、鎌足(足の異常な三日月の形)にならないようにしましょう。


エネルギーを内かかとから膝や腿の内側を通して引き上げて、内腿の筋肉を硬く持ち上げて外側へ押します。膨らんでいく風船に上に座っているかのように、腿を外へ押し開きましょう。同時に、内腿の上部を後方へ下げ、腰が丸くならないようにします。もしあなたがかなり柔軟なら、踵の中心に向かって床を押して、臀筋の真ん中に力を入れましょう。これによって、四頭筋と内腿を使いながらハムストリングスを守ることができます。


土踏まずの引き上げと、少し外旋した脛と腿(膝関節のすぐ上と下)のお互い調和している動きの関係を観察しましょう。膝頭は、足の人差し指の方向へ向けなければなりません。これらの筋肉の動きを保ちつつ、ゆっくり滑らかに脚を伸ばします。膝関節を固定したり内転しないよう、腰が丸くならないようにします。恥骨のすぐ上にある下腹部に力を入れて引き上げると、ポーズでより深く前屈することができるでしょう。


土踏まずを持ち上げることに注意しながらこのポーズを練習すれば、後脛骨筋を強化でき、その腱の適切な張力を取り戻し、土踏まずの崩れからくる足の痛みを和らげることができます。プラサリタ・パドッタナサナには、膝のアライメントを整え、骨の回転による怪我から膝を守るというおまけもあります。ハタヨガの立位ポーズの全てには、両足の後脛骨筋に対する動揺の動きが関連します。土踏まずを引き上げるこの筋肉を働かせながら、内踵をしっかり地面につけておきましょう。筋肉が強くなればなるほど、足の痛みが緩和され、軽い足取りになるのに気づくでしょう。




土踏まずのサポートは必要?


整形外科界で大抵の場合、扁平足の解消に薦められのが(特にX脚の原因となる場合は)、靴の中に入れるサポート用装具です。人工的な土踏まずのアーチは、後脛骨筋の働きをし、長い1日のあと足が疲れた際にその価値がわかります。しかし、後脛骨筋が正しく働いていない場合は、すぐにさまざまに姿勢が崩れ、アーチのサポートでは正されないものもあります。アーチのサポートにより、脚の下部に変化が現れます。アーチが引き上がり、脛骨が足首の基部からあるべき通りに外旋します。


しかし、大腿骨には大きな変化は起こりません。 腿は内旋し、X脚の場合は、内転します。つまり、今度は脛が外旋し、内腿の筋肉が硬いまま体の中心線に向かって脛骨が引かれ、膝関節の捻れや擦り減りの原因となります。アーチを強化するだけでは十分ではないのです。ただ、問題が脚から膝に移動し、膝の捻れが腱や軟骨を損傷する可能性があります。解決法は、後脛骨筋から始めて、脚全体にかけて行う必要があります。









(出典)https://yogainternational.com/article/view/yoga-for-your-aching-feet


2022年6月8日水曜日

パーキンソン病のためのヨガ Vol.3
Yoga for Parkinson's Disease

前回からの続き、最終回です。

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12. 鷲のポーズで揺れる、捻る


このポーズでは、四肢を交差させたまま様々な方向へ動いて、コーディネーションとバランスの向上に効果があります。

椅子の端に座って、右脚を左脚の上へ、右腕を左腕の下へと交差させて鷲のポーズになります。右足首を左足の後ろに組む必要はありませんし(右足をぶらぶらさせたり右足指を床につけても構いません)、手のひらを合わせたりする必要もありません(代わりに前腕でV字を作ってもいいでしょう)。



両肘を、肩甲骨の間にストレッチが感じられる程度に高く上げて前へ伸ばしましょう。ただし、首の後ろは長く保ちます。

両脚は絡み合っていますが、開いていくようにイメージします。つまり、右脚は右へ、左脚は左へ。

呼吸と共に、ゆっくりと左から右へ揺れましょう。やや体側を曲げながら、息を吸って一方向へ揺れ、そして吐きながら逆の方向へ揺れます。この左右に揺れる動きを数回繰り返します。


そして、ゆっくりと前後に揺れます。息を吸いながら胸を持ち上げて体を前に傾け、吐きながら背中をやや丸くして体を後ろに傾けます。この前後に揺れる動きを数回繰り返します。




今度は、体重を坐骨から坐骨へ移動します。胴体と上半身を時計回りに何回か回しながら呼吸を1、2回行い、そして数回ゆっくりと反時計回りに回します。



そして、両脚と腰を安定させたまま、右へ捻ってそのまま数呼吸し、その後左に捻ります。両方向に数回ずつ繰り返しましょう。


一旦休んで腕と脚を解いてリラックスしてから、左脚を右脚の上に、左腕を右腕の下に交差させてこのシーケンスを繰り返します。




13. ゆっくりとした行進で体幹を強化


強い体幹で、バランスと安定性が向上します。この行進は、体幹下部、つまり腹直筋下部と腹横筋を強化します。この行進の難易度を上げるには、両手を肩におき、肘を開いたり、捻りを加えても良いでしょう(左脚を上げる時に上半身を左へ捻ります。右脚を上げる時には上半身を右へ捻ります)。

椅子の端に座って、両足を床に押しつけ、坐骨をしっかり根付かせながら背筋を伸ばします。両手で椅子の座面下を掴みましょう。

右足を床につけたまま左膝を曲げ、左脚を数センチ持ち上げ、左の坐骨にかかる重みを軽くしてみましょう。左脚を持ち上げたまま数呼吸します。そして、左足を床に戻します。一休みします。


今度は、左足を床につけたまま右脚を持ち上げ、右坐骨の重みを軽くしてみます。右脚を上げたまま数呼吸して、そして下ろして、両足を床につけて休みます。左右それぞれ数回繰り返しましょう。




14. 椅子の上の「腹筋運動」


この部分的な腹筋運動は、体幹の上部、つまり安定性に大切な腹直筋上部や腹横筋を強化します。難易度を上げるには、両手を頭の後ろに置きます。


1. 椅子の端に座って両足を床に下ろし、背筋を伸ばします。

2. 息を吐き出しながら、体をやや後方に倒し、両足を床につけたまま背骨を長く伸ばしてみましょう。

3. 息を吸い込みながら、元の座位まで戻ります。数回繰り返します。






15. 船のポーズ


船のポーズで体幹と脚を強化します。

椅子の端に座って背すじを伸ばし、椅子の座面下を掴みます。背筋を伸ばしたまま、後ろに倒れて両足を床から浮かせてみましょう。ここまでで十分かもしれません。ここで数呼吸します。



難易度を上げるためには、両脚を体の前で、できるだけまっすぐに伸ばします。



バランスが安定しているなら、両腕を前に伸ばしましょう。ここで数呼吸します。


上げていた両腕を下ろし、両手を椅子の下に戻し、そして両足を床に下ろしましょう。もう一度背筋を伸ばして、一休みしてから、船のポーズを数回繰り返します。




16. 体の後ろの片側ストレッチ


このバージョンのパスチモッターナサナでは、ハムストリングスを伸ばします。ストラップを使います。

椅子の端に座って両足を床に下ろし、ストラップを持ちます。右足にストラップをかけ、快適なところまで、右脚を体の前に伸ばします。右脚の裏にストレッチが感じられるように、必要なら、ストラップを長く持って少し後ろに倒れましょう。背骨は出来るだけ長く保ちます。


思っているように脚がまっすぐに伸びているかを鏡で確認して、このストレッチを数呼吸の間続けましょう。そして、ストラップを外し右足を床に下ろして、それから左足にストラップをかけます。左側でこのポーズを繰り返し、そこで数呼吸しましょう。




17. 脚を椅子に上に置いてボルスターでリラックス


このポーズでは、床に降りたり起き上がるのが容易なら、床に横たわって膝を曲げ、膝下を椅子の上に休ませてリラックスしても良いでしょう。

パンチしていたボルスターを背中側の椅子の上に立てて置き、もうひとつの椅子を座面を前にして近くに置きます。

椅子に座ってボルスターの方に体を倒し、両脚をもう一方の椅子に載せます。両手は、腿の上か、一番心地よいと感じる場所に置いておきます。



このまま5ー10分間リラックスします。両目を閉じて、呼吸とともに動くお腹の動きに集中しましょう。









(出典)https://yogainternational.com/article/view/yoga-for-parkinsons-disease



2022年6月2日木曜日

パーキンソン病のためのヨガ Vol.2
Yoga for Parkinson's Disease

前回の続きです。

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6. 座位で揺れる


揺れるには、バランスがやや必要です。このエクササイズの難易度を上げるには、体の前や頭上でブロックを持って揺れてみましょう。

椅子の端に座り、両手を膝や腿の上に置いて背筋を伸ばたまま、息を吸い込む時に体を左へ揺らし、右のお尻を少しだけ椅子から持ち上げます。息を吐き出しながら、体を右へ揺らし、左のお尻を少しだけ持ち上げます、この動きを数回繰り返しましょう。





今度は、息を吸い込みながら体を前に揺らし、胸を持ち上げて背骨を伸ばして座位の牛のポーズになります。そして、息を吐きながら体重を骨盤の後方に動かし、背骨を丸めて座位の猫のポーズになります。数回繰り返しましょう。




そして、呼吸を1、2回する間、ゆっくりと体重を片方の坐骨からもう一方へと移動させながら胴部と上半身を一方向へと回します。この回転運動を何度か繰り返しましょう。反対回りを何度か繰り返したあと、真ん中に戻ります。







7. 立ち上がって座る


パーキンソン病の方の転倒を防ぐため、また、椅子から立ち上がって座るような日々の動きが困難で不安定だと感じる方のためのエクササイズです。座位から立位へ、立位から座位への動きの練習は、体力と安定性を作り日常生活に直接的に役立ちます。この練習の難易度を上げるには、体の前や頭上でブロックを持ちましょう。



1. 椅子の端に座り、背骨を立てて伸ばし、両足は骨盤幅に並行に開いて、両膝は足指の上で足の中央の方向に向けて置きます。

2. 出来るだけ背筋を伸ばし、体を少し前に倒して重心を膝に乗せ、そして両足を押し下げて立ち上がる準備をします。

3. 地面と繋がりながら息を吸いこみ、両足を根付かせて、頭頂から体を起こします。

4. ゆっくりとコントロールしながら、椅子の上に降ります。両足を地面にしっかりと着け、椅子にできるだけ軽く着地するようにしましょう。

5. 1、2回呼吸して、両方の坐骨を根付かせながら垂直の姿勢に戻ります。続けて何度か繰り返しましょう。





8. 山のポーズから立位で揺れる


「足首を揺らす」など、ヨガの練習に取り入れやすい太極拳は、パーキンソン病の人々のバランスや歩き方を正すのに有効であるようです。下記のように椅子に捕まって行うことをお勧めしますが、バランスがしっかりと取れるようであれば、きっと椅子なしでも大丈夫でしょう。





椅子の後ろ側に立って、椅子の背を掴みます、両足を根付かせて頭頂へと引き上げて山のポーズになります。

息を吸いながらゆっくりと身を右に傾け、そして吐きながら左へ、数回繰り返しながらどこまで安定していられるかを探っていきます。どれくらい傾けられるか、どれくらいバランスをコントロールし続けられるでしょうか?





まずは、体重を片足から片足へとただ移動させ、少し体側を曲げながら、両足は地面につけて置きます。もしこの動きがうまくできたら、そしてバランスの調整し続けられるなら、片足に体重を移動させながら反対の足を持ち上げてみましょう。




今度は、息を吸いながらゆっくりと前に体を倒し、足指の付け根の方に体重をかけていきます。そして、息を吐きながらゆっくりと戻り、踵の方へ体重をかけましょう。




この動きが心地よく感じられるようになったら、胸を持ち上げてやさしい後屈をしながら体重を足先に向かって揺らし、そして背筋を少し丸めて体重を踵の方向へ移動させましょう。




これがうまくできたら、体重を足指の付け根に移動して胸を引き上げながら、少し踵を持ち上げたり、体重を踵に戻して背骨を丸めながら足指の付け根を持ち上げたりしてもいいでしょう。



そして、両足を地面に着けたまま、1、2回呼吸しながら体重を移動させて何回か右方向へ小さな円を描きます。最初はとても小さな円かもしれませんが、バランスが取れるようになったと自信がついたら、徐々に大きな円にしていきましょう。そして、呼吸1、2回分、左に小さな円を何回か描きます。回し終わったら、山のポーズに戻りましょう。






9. 横歩き


これらの動きは、硬直を緩和するために幅を大きく、無意識の「鏡像運動」の癖を直すために左右非対称に動きます。より難易度を上げるには、バランスが取れるなら、片手を腰に置きながらもう一方の腕を横に伸ばしましょう。


1. 両足を腰幅に開いて椅子の後方に立ち、両手で椅子の背に触れておきます。

2. 右手を椅子に置いたまま、両膝はやや曲げて、左足で左に一歩歩き、半分の「T」の字になるように、手のひらを前にして左腕を広げます。

3. 左足を右足の方へ戻し、左手で椅子の背を掴みます。(呼吸と動きを合わせるには、息を吸って外へ歩き、吐いて内側に戻ります。必要なら、それぞれの位置に移動する間、1、2回の呼吸をするのもいいでしょう)

4. 左を椅子に置いたまま、右足で右に歩き、右腕を広げます。

5. 足を戻し、両手で椅子を掴みます。このエクササイズを数回繰り返しましょう。









10. 椅子を使った立位の後屈


優しい後屈は、神経障害に度々みられる背骨の屈曲傾向を抑制します。もし、心地よく椅子の背に触れるには、身長が高すぎたり、椅子が低すぎたりする場合は、ただ膝を曲げましょう。

両手で椅子の背を掴んで、山のポーズで立ちます。

両足を根付かせ、両肩の方へ広げながら胸を持ち上げます。首の後ろを心地よく長くしたまま、天井を見上げましょう。ここで数回呼吸したら、山のポーズに戻ります。






11. ボルスターをパンチする


ボクシングのトレーニングは、パーキンソン病の方の足取りやバランスを向上させると言われています。このエクササイズでは、代わりに安定した友人や指導者などにボルスターを持ってもらい、座位あるいはバランスが取れるなら立位でパンチすることも可能です、


椅子を壁際に座面を手前にして置き、椅子の上にボルスターを立てます。座っている椅子を壁際の椅子に近づけます。ただし、ボルスターを「パンチ」できるよう腕がしっかりと伸ばせる距離を保っておきましょう。


椅子の前の方で、背筋を伸ばして座り、体のわきで肘を曲げて、親指側を上にして拳を作ります。



必要なだけ前に体を倒して、手のひらを下に向けながら右手、左手とジャブし、ボルスターをワンツーパンチします。



背骨を元の位置に戻して一息付き、両腕と両手をリラックスさせます。そしてまた、左手そして右手とボルスターにワンツーパンチします。このエクササイズを何度か繰り返しましょう。








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次回に続きます。