今回は、自律神経と心身ともに健康でいるためのヒントについてです。
私が学んだヴィヴェカナンダ・ヨガ研究所のヨガセラピーは、基本的にいかに意識的にリラックスし心を穏やかにするかに注目したものです。難しく考える必要はありません。簡単な方法でできるのです。
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「女か虎か?」というお話を知っていますか?その最後には、ヒーローは2つのそっくりな扉の前に立ちます。ひとつは美女が隠されていて、もう一方は恐ろしい虎がいます。ヒーローはこのどちらかを開けなければならないのですが(選択権は彼にあります)、どちらに美女がいてどちらから虎が飛び出してくるかを知るすべはありません。
患者が慢性ストレスの症状を訴える時、私は時々この話を思い出すのです。頭痛や消化不良、潰瘍、筋肉のこわばり、高血圧、あるいはこれらの組み合わせ。私がそれはストレスが原因だと指摘すると、患者は諦めたように見えます。ストレスはこんなにも多くの人たちの生活に常に存在し、全ての扉の向こうに虎が潜んでいるかのようです。逃走闘争反応が神経に深く繋がっていると私のオフィスにくる人々のほとんどは知っていて、その多くは絶え間ない緊張の感覚を正常のものあるいは避けようのないものだと受け入れています。
そうではないのです。物語のヒーローのように私たちには選択することができます。もうひとつの扉があって、そちらも神経に深く繋がった毎日の困難への反応があるのです。そしてこの運命が運次第であるヒーローと違って、私たちはどちらの扉がどちらなのかを見つけることができます。神経の一般的な理解とストレスに対する反応、そして基本的なヨガの3つのテクニックを訓練すれば、扉を見分けることができるようになります。こうしたテクニックを練習することが、虎を放してしまう扉を硬く閉ざしたまま美女を選ぶ力を与えてくれます。
虎を放つ
自律神経は、体の無意識の処理全てをコントロールしています。呼吸の速さ、心拍数、血圧、消化液の分泌や消化器の蠕動、体温などです。自律神経にはふたつの大きな要素、部分があります。交感神経と副交感神経です。私たちがストレスを感じると、脳が交感神経を活性させ闘争逃走反応と呼ばれています。これが副腎髄質からアドレナリン(エピネフリン)を分泌させ、このホルモンが血流を廻りほとんど全ての臓器に影響します。アドレナリンは、生命や手足の脅威を切り抜けるよう体を勢いづけます。心臓は速く強く打ち、血圧を急上昇させ、呼吸数が上がって胸へ空気が送り込まれ、気管が広がってより多くの酸素を体に取り込み、血糖が上がって燃料供給を準備し、肌と体の中心の血液を制限するよう血管が収縮、脳や手足には血流を送るため他の血管が膨張します。するとどうなるでしょう?体は闘うか走るかのために緊張し、心は極度まで警戒します。
この反応は生命を脅かすような時には重要な反応です。もしアメリカライオンとばったり出会ってしまったらこのストレス反応が私たちの生存の可能性を劇的に大きくします。この素晴らしい反応の話を聞いたことがあるでしょう。子供助けるために自動車を持ち上げた母親や、燃え盛る建物から自分の2倍もある男性を担ぎ出した消防士。これはすべて交感神経のおかげです。生命の危機に晒された時に素早く断固としていつでも反応する、感謝すべき神経システムです。
闘争逃走反応は、本当に危険が迫った稀な時だけに作動するようになっています。理想的には、次の危機一髪がやってくるまでは(何週間、何ヶ月、あるいは何年も先)休眠状態です。しかし、私たちの多くは毎日のように、毎時間のように反応しています。戦士や綱渡り曲芸師、SWATチームの人たちなどは、頻繁に生きるか死ぬかの状況にいることでしょう。が、ほとんどの人にとっては、強盗や交通事故、山の中で熊に出会うなど稀なことです。いったんそうした脅威が収まれば、ホルモン信号はストレス反応を止め、恒常性が取り戻されるのです。
私たちの多くにとっての問題は、闘争逃走反応はなかなかスイッチが切れることがなく、ストレスホルモンが継続的に体の中を廻り続けることです。
知らないものへの恐怖、周りの状況の大きな変化、将来への不安、消極的な態度など、これらは全てストレスの原因です。今日私たちは、野生動物と闘うこと以上に、仕事や人間関係、交通渋滞に巻き込まれることなどに不安を感じていますが、それが精神的なものであってもいまだ古代からの生存反応のスイッチが入ってしまうのです。
その結果、私たちの体はいつも緊張状態で、闘うか逃げるかの準備をしていて、これが身体的な問題を引き起こします。体内をアドレナリンがめぐる時に何が起こるかを見れば、こうしたことがわかるはずです。血圧上昇、速くて浅い呼吸、高血糖、そして消化不良です。さらに、アドレナリンは怪我をした時にすぐ血液が固まるよう血小板の粘度を上げます。これによって怪我からの生存率を高めますが、慢性的な高粘度の血小板は、血液がより固まりやすくなり動脈が詰まりやすくます。そしてこれが心臓発作や脳梗塞へと繋がっていきます。
ダメージはここで終わりません。絶え間ない闘争逃走モードにいれば、副腎皮質がコルチゾールを分泌し始めます。このステロイドの仕事は、十分な燃料を確保することで長期間の非常事態に対応するのを助けることです。コルチゾールは、肝臓や筋肉組織に働きかけ、糖(グルコース)と脂肪を作って血流へと放たせます。身体自身から見れば、これは合理的反応です。脂肪や糖を血中へ送り出すことは、例えば沈む船で生存するために役立ちます。しかし、この燃料が長引く体の緊張の反応の中で代謝されなければ、結果的に病気になります。血流の過剰な糖は糖尿病、過剰な脂肪はコレステロールや中性脂肪のレベルを高くします。このどちらの状態も心臓病の危険を高めます。
コルチゾールやコルチゾンなどのステロイドは、自己免疫疾患や喘息の炎症を鎮めるので短期間の使用は有用ですが、血流に長期間存在すると免疫機能を抑制してしまいます。これが血液細胞(バクテリアやウィルス、癌細胞、カビなど有害な微生物からの勇敢な防御役)を不活性にさせます。そのため病気になりやすくなり、特にライム病、肝炎、EBウィルスの慢性感染症や癌にかかりやすくなるのです。
怖いですよね。そうです、これが虎なのです。交感神経が慢性的に活性化されていると体は常にプレッシャー下に置かれます。初期症状を無視すれば(肩こりや消化不良、繰り返す頭痛、怒り易い、気が動転しやすいなど)遅かれ早かれ虎が私たちを引き裂くでしょう。けれども私たちは違う選択をすることができます。自律神経ののうひとつの働き、副交感神経です。略奪の交感神経の暴君の元で生きるより、休息と消化の反応を起こす副交感神経のスイッチを入れることを学ぶのです。
脅威と危険によって自動的に起こる闘争逃走反応と同様に、休息消化反応もまた心の落ち着きによって自動的に起こります。副交感神経が活性すると、心拍数と血圧は下がり、呼吸はゆっくりと深くなります。血流が体の中心に集まってきて、消化を促し、免疫システムを支え、幸福感をもたらすのです。
私たちがこの休みの状態を無意識に作っているのは、心から笑っている時や深い睡眠状態の時です。心地よく、自身に課している忙しさからより必要となる休息を与えてくれます。しかし、ストレス状態を普通と受け止めて、ほんのたまにだけしかリラックスした幸福感を感じなければ、そうなってしまいます。いつももうひとつの扉があるのにもかかわらず、1日に何回も虎を解き放ってしまいます。意思を持って扉を開けることを身に付けられれば、休息消化の神経システムを活性化させてストレス反応を引き起こす悪い癖を直すことができます。
美女と出会う
私は治療の中で様々な自然両方を使いますが、ストレッチや呼吸、リラクゼーション、瞑想など、基本的にはヨガを用います。これらのテクニックは特にストレスマネージメントに効果的です。有酸素運動がストレスからきた緊張を解消するのに素晴らしい方法であり、砂糖やカフェイン、辛い食べ物が神経を昂らせ怒り易くすることは、個人的な経験から皆さんも気づいておられるでしょう。そして、緊張して疲れた体を動かしてストレッチし呼吸に集中することを教えてくれるヨガのポーズを練習することで得られるリラックス効果もよくご存知でしょう。しかし、このゆっくりした深い呼吸が休息消化のシステムを活性させる最も簡単な方法だとご存知でしたか?これがヨガがこんなにも人気である理由のひとつです。疲れた神経を鎮静し不安な心を穏やかにしてくれます。しかし、ヨガはまたより深いレベルにまで働きかけます。健康的な呼吸パターンを再構築し、意識的にそして体系的にリラックスすることを教えてくれ、瞑想を通して精神の内側を探求する機会を与えてくれます。これらのテクニックは(個別でも組み合わせても)、副交感神経を活性化して強化し、休息消化反応が私たちの通常モードになるようにします。そして闘争逃走反応は、自然がそのように作ったように、緊急のために置いておきましょう。では、2番目の扉を開ける方法のいくつかをみていきましょう。
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次回に続きます。